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13 距離が縮まっている気がします

 リオンの唇がエミリアの唇からそっと離れると、リオンは愛おしそうにエミリアを見つめた。


(そんな顔するなんてずるい)


 剣や拳を交えた時のような獰猛な姿でも、エミリアから受けた恐怖を味わって興奮する姿でもなく、ただエミリアを好きで好きでたまらないと言わんばかりの顔をしている。日の光に照らされた金色の瞳を見つめているとどこまでも溶かされてしまいそうで、エミリアは思わずそっと視線をそらした。


「エミリア?」


 エミリアに視線をそらされて不安になったのだろう、リオンは困ったような顔でエミリアを覗き込む。


「あの、恥ずかしくて……あまり見つめないでくださいますか」

「……っ!」


 エミリアの返答に、今度はリオンが照れる番だった。顔を片手で覆い、もう片方の手で胸を抑えている。


「可愛い、可愛すぎる。エミリアはどうしてこんなに可愛いんだ……」

「そういうこと恥ずかしげもなく言うのはやめてください!」


 顔を真っ赤にして抗議するエミリアを見て、リオンは目を大きく見開いてまた可愛い……と呟いた。


(もう、本当に同じ人なの?あんなに変態だと思っていたのに、こんなにピュアな反応されるとどうしていいかわからない)


 エミリアがパタパタと顔を手で仰いでいると、リオンが嬉しそうにフッと微笑んだ。それから、すぐに真剣な顔になってエミリアを見つめる。


「そうだ、明日カイルが屋敷に来るらしい」

「お兄様が?」

「俺たち二人に話があると言っていたが、どうも騎士団としての要請のようだ」


 そう言って、リオンはさらに神妙な顔になり、声もグッと低くなったように感じる。


「騎士団としての要請なら、俺はエミリアを巻き込みたくない。君を危険な目には合わせたくないんだ」

「リオン様……」


 この間のヒュドラとの一件でリオンはエミリアをあまり騎士団と関わらせたくないようだ。今も不安げな顔でエミリアの片手をそっと取り、強く握っている。


(リオン様は私を心配して言って下さっているのだろうけど……)


 むしろ、あの時エミリアを庇って大怪我をしたのはリオンの方だ。自分が一緒にいることでリオンがまた大怪我を被うようなことがあってはならない。リオンの言葉の通り、自分は騎士団からの要請を辞退すべきだろうか、とエミリアは思う。だが、エミリアは真剣な面持ちでリオンを見つめ返した。


「私は、『最強の騎士』のギフトを持っています。そのギフトを持っていながら、騎士団からの要請を断るなんてことはできません。それに、もし私のせいでまたリオン様が大怪我を負うようなことがあってはならない。今度は絶対にそんなことが起きないようにして見せます」

「エミリア……」


 エミリアのアメジスト色の瞳の奥から強い意志を感じて、リオンは悩んだ。危険な場所には行かせたくない、けれどエミリアが自分のギフトに誇りを持って生きていることも、一緒に過ごすことで深く感じていたことだった。


「わかった。まずは、カイルの話を聞こう。話を聞いた上で判断したい。君を騎士団からの要請から引き離すようなことはできるだけしたくないが、内容によっては俺だけが行く。これは、君の婚約者として、そして未来の夫として譲れない」


 ぎゅっとエミリアの手を握り、リオンは真っ直ぐエミリアを見つめて言った。リオンの瞳の奥にも曲げることのない強い意志を感じて、エミリアは思わずリオンの手を握り返し、頷いた。


「わかりました」


 エミリアの返答に、リオンはホッとして嬉しそうに微笑む。リオンの微笑みを見て、エミリアは胸の中にじんわりと温かいものを感じる。


(最初は、ただ私の『最強の騎士』のギフトによる力のおかげで、リオン様は私に執着しているんだと思っていた。でも、今は違う気がする。もしかしたら、リオン様は本当に私のこと……)


 リオンが本当に自分を大切に思っていることが、リオンの言動からきちんと伝わってくる。そして、自分もいつの間にかリオンに強く惹かれてしまっていることに気がつく。異性に対して今まで感じたことのない複雑な思いに、エミリアは戸惑っていた。






「夜会に、二人で出席してほしい?」


 翌日。エミリアの兄であるカイルがリオンの屋敷を訪れ、二人の前に座っていた。リオンがカイルに疑問の声を投げかけると、カイルはニッと口角を上げて頷く。だが、その表情は兄と友人としての顔ではなく、騎士団長としての顔で真剣そのものだった。


「ああ、最近、上流貴族が開く夜会でたびたび不審者が現れているのは知っているだろう?」


 知っているも何も、それが原因でリオンはエミリアの拳を受け、エミリアに惚れ込んだのだ。エミリアが複雑そうな顔でリオンを見つめ、リオンがそれに気づいてエミリアへにっこりと微笑むと、カイルは苦笑しつつも話を続ける。


「来週、ペルシオ公爵家が主催の夜会が開かれる。そこで恐らくだがまた不審者が現れるというのが騎士団としての予想だ。そこで、二人には参加者のふりをして警備に当たってほしい」

「前回取り押さえた逃走犯から情報は?」

「何も。どんなに問い詰めても黙秘を貫いてる」


 逃走犯で捕まえることができたのはまだその一人で、情報も少ない。騎士団としては他の不審者も捕まえてさっさと吐かせてしまいたいのだろう。


「夜会は控えた方がいいという声も上がっているんだが、不審者に屈するような家だと思われたくないのだろう。さっさと騎士団が捕まえればいいだけだ、何をしているんだと逆に言われてしまってな」


 カイルが小さくため息をついてそう言うと、エミリアとリオンは目を合わせて眉を下げる。貴族の中にはプライドの高い家も多い。


「魔獣討伐の任務よりは安全だと思うが、どうだ?」

「……私は問題ありません」

「確かに、魔獣討伐よりはましかもしれない。夜会であれば俺がエミリアの側に常にいることもできるし」


 リオンは顎に手を添えてふむ、とうなずく。


「よし、決まりだな。よろしく頼むよ」


 カイルの言葉に、リオンもエミリアも力強く頷いた。


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