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少女と踊り

 「あ゛ぁ゛ー。」


 「おいコラ、どうしてこうなった....?」


 「.....フィーリング?」


 ここは鷹山家のキッチン。普通のコンロ、普通のフライパン、包丁にシンクがあるようなごく世間一般では普通のキッチンのはずだ。朝食を作るフライパンの上には香ばしい香りのソーセージともう一つの物体Xが乗っている。


 「大体よぉ....お前は何を作ろうとしてこんなダークマター生み出したんだよ?」


 「ダークマターなんて失礼な。朝食のソーセージにぴったりのパンケーキをつくろうとしたはずだよ。」


 「おい待て、“はず”ってなんだよ“はず”って。お前成功しないって分かってて作ってたっつーことか?」


 「ベル君!」


 「言い訳だけなら聞いてやるよ。」


 「何事もみんな初心者なのだよ。」


 「だとしても普通こうはならねぇだろうが。」


 至極真っ当なことを言う異常な存在。


 「でもね、料理って難しいからね?ベル君はなんでもできるって言っても流石に初めてやる料理はできないんじゃないかな。私と同じじゃないかな?」


 「お前みたいな炭職人と同じにするんじゃねぇよ。」


 「そんな言うならベル君が作ってよ。」


 「嫌に決まってんだろうが、めんどくせぇな。」


 「あーそうだよねぇ、何でも出来る人ほど自分の欠点を隠したくなるよねー。ベル君何でも出来るからなー。」


 そう言った瞬間にベルフェゴールの眉がぴくりと吊り上がったのを遥は見逃さなかった。


 「よし、そこまで言うならよーく見ておけ。俺が完璧な朝飯を作ってやるよ。」


 「ベル君って案外単純な性格なんだね....」


 「消し炭になりてぇか?」

―――――――――――――――

 「あ゛ぁ゛ー。」


 「....ねぇ、私よりひどくない?」


 フライパンの上には炭と炭。これはなんだったのかと聞かれて正解を出せる人間はいるのだろうか。少なくとも遥自身には正解する自信など無い。


 「うるせぇよ。初めて料理した奴にそこまでギャーギャー言うんじゃねぇ。」


 「うわぁ....気持ちいいほどに自分のこと棚に上げてるよ。もう大人しく冷凍食品でもあっためようかな。」


 「加熱ならもうやめとけよ、俺ら炭しか作れねぇぞ?マトモに料理できるやつ探すしかねぇじゃねぇか。」


 「まぁ任せてよ。機械に入れて時間セットするだけだからさ!」


 「その機械すら使えないとかいうオチじゃねぇだろうな?」


 「とりあえず野菜とパンケーキで良いかな。5分くらいで出来るから待っててね。」


 「おー、無駄かもしれねぇけど期待してやんよ。」


 この男は優しさの欠片も見せないなぁ....


 「まぁ待ってる間にちょっと話そうよ。言いたいこともあるし。」


 「あぁ?言いたいことって何だよ。めんどくせぇことだったら応じねぇからな?」


 「大丈夫だよ。ちょっとした雑談みたいなものだし。」


 「だったら良いけどよぉ....で、言いたいことってなんだよ?」


 「ベル君私の事最初からお前とか雑な呼び方だから名前で呼んでくれないのかな?って。どうせだったら私だって好きな人には名前で呼んでもらいたい乙女だからね。」


 悪戯っぽく舌を出してウインクをされながら言われるといくらぞんざいに扱ったような相手でも顔を赤くなるものだった。

 だが勿論ベルフェゴールはその例外であった。


 「だってよぉ、お前の名前聞いてねぇぞ?だったら呼べねぇよな。しょうがねぇな。」


 「私の名前は“鷹山遥”だから遥って呼んでよ。」


 「.....そうかよ。もし覚えてて気が向いたら呼んでやるよ。」


 「えー!呼んでくれな―」


 ティリリリリン!


 「おっと、できたみたいだからちょっと待っててね。」


 「へいへい行ってこい。ふぅ....面白そうだと思って興味本位で来たがめんどくせぇことになったもんだ。」


 その瞬間、ベルフェゴールに電流走る。


 「俺にも敵が見える....!南西20キロ先と言ったところか?」


 魔力を隠す技術は無いようだが溢れ出る魔力の量が明らかに異常だ。魔力制御ができないそこらの低級悪魔とは比べ物にならないほどに。しかも見覚えのある魔力だ。


 「ミーシャか....確か4、500年前に作った眷属だったはずだがどうして人間界に?」


 こちらに魔力を向けていることから想像はつくが狙いは勿論....


 「やっぱり俺かアイツかねぇ。」


 「んー?どうしたのー?」


 「地獄耳め....なんでもねぇよ。」


 「そっか。ほら、出来たよー。」


 「おー!なかなかスゲェ美味そうじゃねぇか。」


 「フッフッフ、歩が3つ。これが私の実力なのよ。もっと褒めてもいいよ?」


 「え?あぁ、お前のことじゃなくて機械の話な?とりあえず食うか。」


 「....そんなこと言うならベル君の分は下げるよ?」


 「わぁーった、わぁーった。冗談だ。」


 ひらひらと手を左右に振りながら謝罪の意を示すベルフェゴールだがどこまでが本気なのか。


 「まぁいっか。」


 だが遥はそんな事を気にするタイプではなかった。

 『いただきます。』


 「おっ、これ美味いな。」


 「ねー。これ冷凍食品の中でも結構人気高いらしいんだよね。うちの親も好きだからよく買ってるんだー。」


 「ふーん、人間の文明も捨てたもんじゃねぇなぁ。食嗜好に関しちゃ悪魔は低水準な部類だしな。舌の肥えた悪魔には耐えられずに別種族として隠れて暮らしてる連中もいるほどだ。」


 「悪魔も大変なんだね....」

―――――――――――――――

 「じゃぁ私学校行ってくるね。」


 「あー、お前一応学生だしな。まぁ行ってこい」


 「1人で退屈かもしれないけど暇だったらどこか散歩でもしてみてねー。じゃ、行ってきまーす。」


 「おー、じゃぁな。」


 さて、まずは問題を片付けることにするか。


 「アイツが狙われてるならとりあえず尾行かねぇ。接触される前に仕留めることが最低条件ってとこか。」


 『ギンヂジヅス』『ルルヅ』


 2回ほど空間が歪み、ベルフェゴールは透明化と転移をした。転移先の前方に見覚えのある少女が見つかった。言うまでもなく遥だ。


 「横のは知り合いか?まぁ魔力を感じられないしどうでも良いか。」


 「ん?」


 違和感を感じ、振り返った遥に勿論ベルフェゴールを見る事は出来ない。


  「遥ちゃんどうしたの?」


  「なんか誰かに見られてる感覚がしたんだけど....誰もいなくてさ。」


 「そういうことってたまにあるし気にしないで良いんじゃない?」


 「そっかぁ....そういうものかなぁ。なんか数分前にも似た感覚あったんだよねぇ。」


 (異変が起こるまで見守るだけのつもりだがミーシャはどう動くつもりなんだ?)


 「クソッ、ダルいことさせやがって。アイツに死なれるわけにはいかねぇんだよ。」


 狙いが最初から分かっていたら楽ではあるがあくまで憶測に過ぎない。ベルフェゴールが他の人間を守る義理は無いが自身か遥という仮説が立てば話は別となる。

 ベルフェゴールにとって遥は守らなければならない存在だったのだ。


 「あー....またあの時を思い出しちまった....余計なもん背負わせやがって。」


 そんなこんなで数分何も無く前方に学校が見えてきた。何も起こらないなら起こらないで一番良いのだが依然そうもいかない空気が漂っている。


 「しゃーねぇ、外から見張るか。」

―――――――――――――――

 「なんか遥疲れてるけどどしたのん?」


 「昨日出た宿題で徹夜でもしたの?」


 「結依....それは昨日の私かな....」


 「え?昨日宿題あった?まぁそれは置いておいて....なんかさっきからずっと気配感じるんだけど絶対気のせいじゃないんだよねぇ....」


 「昨日の放課後に変な男にでも目付けられでもした?」


 「瀬那ちゃん、このご時世にあんまりそういうことって無いんじゃないかな....?」


 (昨日の放課後は不思議な男に目を付けたって言うのが正しいかなぁ。)


 当然クラスの立場も変わるのでそんなこと言えるはずもないのである。


 「全然そんな事ないよ。多分私の気のせいだから、気にしないでいいよ。」


 「ふぅん....なら良いけどね。」


 変な空気にしたくはないし瀬那と結依を心配させるわけにもいかないなぁ....

 ズズズズズズズズッ

 「うわっ!地震?結構大きかったな。」


 「本当だね。結構近かったのかな。遥ちゃん大丈夫?」


 「うん、大丈夫だけど、それよりグラウンドに誰かいない?」


 「グラウンドにぃ....?どこにも誰もいないよ?」


 「遥ちゃん、その人ってどこにいるの?」


 「んー....グラウンドの真ん中にいるけどよく分からないんだよねぇ....」


 『よく分からない?』


 「うん。なんかグラウンドの真ん中見てたらそこにいるんだけど視線を逸らすとその先にもいてハッキリとした場所にはいないのよ。」


 「....遥疲れすぎなんじゃ?」


 「暑いし熱中症なんじゃないかな?」


 実際自分は元気だが1つ気づいたことがある。

 間違いない、あれは“あちら側”の存在だ。

 短い時間だがベルフェゴールと関わって悪魔がどのような存在かごくごく一部だけでも分かるようになった。悪魔と遊べば悪魔になると言うわけではないが少なくとも悪魔と関われば悪魔に惹かれるようだ。

―――――――――――――――

 「主様、人間界で何故遊んでいるのです?」


 長く美しい金色の髪をなびかせながら少女は言った。髪の色同様に美しく輝く黄色い目は鋭く、岩をも貫くようだ。小柄で幼いが眼光により少女特有の可愛らしさは失われていた。


 「お前こそなんでこっちまで降りてきた?なんであの女を狙ってんだ?」


 「こちらの質問が先です。」


 「いいや、命令だ。」


 「はぁ....相変わらず横暴ですね。ですが嫌いじゃないです。良いでしょう、答えましょう。」


 「御託はいい、言え」


 「では単刀直入に。主様を連れ戻すためにあの少女を殺しに来ました。」


 「へぇ....」


 「主様が召喚されて興味本位でこちらに来てから2日目です。異変を察知し、調べるとあの少女と同行してるようではありませんか。」


 「それがどうしてアイツを殺すことに繋がる?」


 「ご冗談を。お分かりになっているはずではないのですか?簡単なことです。主様はあの少女と同行している。ならば殺してしまえばここにいる必要も無くなるからですよ。」


 ミーシャは元から悪魔が用無く人間界に降りることを好ましく思っていないといった思想を持っていたため、このような行動を起こすことも頷ける。


 「やはりか。」


 「お分かりになっているではありませんか。こちらは答えました。さぁ、主様の答える番ですよ。何故こちらで遊んでいるのですか?」


 「俺はアイツに服従することを命じられた。」


 「は?」


 何を言っているのか分からないと言った様子だ。無理もない。

 俺は服従したフリをしただけなのだから。


 「何を....まぁ良いでしょう。それは追々話を聞くとしましょう。」


 「何をしようとも俺はお前に付き合って帰るつもりはねぇからな。」


 「あの少女がそんなに大事ですか。どうしてもお守りになりたいならご帰還をおすすめ致しますがどうしますか?」


 「アイツは守る。俺はここに残る。両方こなすのは簡単なことだ。」


 「そうですね。何も起きなければ。」


 含みを持たせた言い方をし、ニヤリと笑みを浮かべる様子はまるで余裕のようだ。

 「あ?」


 「私が主様と戦うのに何も無しだとでもお思いですか?」


 ベルフェゴールに一番近かった眷属のミーシャが無策で押し切れないことはよく分かっていたはずだ。勿論何かを用意していることは想定していた。

 「さぁ、なんでしょうね....?」


 美少女が台無しになるような不気味な笑みを浮かべ、言った。


 「主様、Shall we dance?」

第3話完成しました!

今回も投稿が遅くなってしまい申し訳ございません....

ですが私、六坂は現在夏休みに入ったので文の勉強と共に執筆をドシドシできるようになりました。

第3話では2人の新たな一面や今後関係するであろう会話がたくさん詰め込まれています。今のところ一部は考えているのでその話はどこに入れるのかを楽しみにしています。

それと謎の少女ミーシャが本格的に登場してまいりました。ミーシャが今後仲間となるか敵となるか....どうなりますかねぇ。

自分の中で構想はできているので考察してみてください。

読んでくださった方々ありがとうございます!

ここまで読んでくださったなら是非第4話も楽しみにしていてください!

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