勇者語り
王都から離れた村で生まれた勇者である俺、エキザカムは、魔王を討伐するために仲間たちと魔族の国へ入った。
魔族四天王も討伐し、残るは魔王のみ。
長かった。何度も傷付き、何度も心が折れそうになったが、仲間たちのおかげでここまで来れた。
こうやって、仲間と火を囲むのも最後になるだろう。
もうすぐこの旅も終わるのだ。少しだけ、思い出に浸るのもいいだろう……
*****
戦士のガザニアには、なんでも話すことができた。ガザニアは王都に仕える騎士団の出身とは思えぬほど陽気な男で、辺鄙な村出身の俺にも分け隔てなく接してくれた。
俺が使命を背負う重圧に負けそうな時、魔族たちとの戦いに恐怖を感じた時、ガザニアは、いつも側で支えてくれた。彼には弱音も吐けた。魔王を倒す仲間というだけではない。間違いなく、俺たちは親友だった。
治癒師のオリーブは思慮深い、優しい女性だった。いつも誰かのことを考えて、自分のことは二の次、三の次。魔王の配下である魔物たちのことすら気遣い、戦闘後は彼女の要望でその死体を埋葬することも多かった。
オリーブの優しさには、いつも助けられた。彼女は、心が疲弊した俺にいつも楽しげな物語を聴かせ、ある時には頭を撫で、ある時には何も聞かず、ただ寄り添ってくれた。
魔法使いのクフェアとは、衝突ばかりしていた。彼女は気が強く、またプライドの高い女性だった。いつも前衛の俺やガザニアを置いて自らが前に出て活躍しようと躍起になっていた。
それを俺は何度も咎めたが、それはクフェアの後衛に収まり守られることをヨシとしないプライドの高さ、自分も充分に戦えることを示したかったからだということ、そして俺やガザニアに負けないほどの鍛錬を積んでいることを、俺は知っていた。
本当に、いい仲間たちに恵まれた。この旅が終わっても、俺たちが家族であることに変わりはない。
俺は焚き火に薪をくべた。赤い炎が音を立て、その大きさを変える。
俺の目の前には、椅子代わりの切り株が3つあった。ガザニアと、オリーブと、クフェアが、ゆらゆらと揺れる火を黙って見つめているのが俺にはわかった。
「この間の四天王との戦い、大変だったよな。クフェアの補助魔法が解除されて……オリーブの回復も間に合わなくて……」
俺は四天王の最後の1人との戦いを詳しく思い出そうとしたが、頭が痛くなったのでやめた。激しい戦いだった。あまり思い出したくはない。大まかに覚えていればいいだろう。
「あの時はガザニアに助けられたよな。ありがとう。ガザニアが庇ってくれなきゃ、今頃死んでたよ」
俺が感謝を述べるのを、3人は黙って聞いていた。
「クフェアは相変わらず、前に出て行こうとするし」
俺は少し揶揄うように、口角を上げた。俺は顔を伏せているので、見えていないだろうが。
「俺がここまで来れたのはみんなのおかげだと思ってる。今更こんなこと言うなんて、照れ臭いところもあるけど……」
「だけど、今言っておかないといけないと思ったんだ」
「恥ずかしくて、みんなの顔が見られない。ちゃんと目を合わせるべきなんだろうな。ごめん」
俺は照れ隠しに頭を掻き、誤魔化すように小さく笑った。
「本当はずっと前から言いたかったけど、言わなくて後悔して……いや……違う。後悔する、と思ったから……」
俺はなぜ、後悔した、と言いかけたのだろう。いや、ただの言い間違いだ。
「とにかく、俺はみんなに感謝してる。みんながいてくれて良かった。これからもずっと……旅が終わっても、俺たちは家族だ。そうだろ?」
顔を上げた俺の目の前には、3つの切り株があった。右の切り株には、べったりと血のついた剣。真ん中の切り株には、折れた杖。左の切り株には、破れてボロボロになった本が置かれている。
みんな、もう眠ったのか?
長々と語り過ぎてしまったな。
その時、俺はまた頭痛に襲われた。
この血飛沫はなんだ?
俺は……
頭が痛い
吐き気がする
だけど眠ってはいけない
眠ったら、もう会えない気がするんだ
もう少し、ここで火を囲んでいよう
*****
「ガザニア様、オリーブ様、クフェア様はもう……随分前に……」
「未だ生き残っているのはエキザカム様だけのようです……」
「うむ……援軍を送るしかないようだな……」
王都では、エキザカムの元に送られる援軍の準備が着々と進められていた。
完




