1:転生
やや残酷な描写あり。
強い衝撃が身体をえぐる。
鮮やかな血が噴水のようにぶちまける。
「……………ま」
信じられない。
誰よりもビビりな私に
何故このようなことができたのか。
その場しのぎであった。
しかし身体がとっさに動いたのだ。
緊迫した空気に反して、かえって頭は冷静で
だけどこの思考も数分で断たれるのだろう。
「う、…………さま」
視界は真っ赤か真っ暗かわからないが
この世のものとは思えないほどの激痛で埋め尽くされていて
ただ主人の
泣き声叫び声が鼓膜を支配していたーーー。
╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍
魔獣デルベレス。
帝国の不法占拠者であり最強の電竜。
そのような奴が何故ここに。
おかげで帝国は長年にわたり魔力の歪みに見舞われている。
帝国の外には容易に出られないし、殆どの地域では異常気象が当たり前。
だけれど、もう安心でさあ!
なんたってあのウル様がやっつけてくれるとのことだから。
ウル様というと……もしかして、
そう、帝国一最強とされる かの有名な
"ウル・ホラエール"様よ!
ーーーウル・ホラエール。
テルル帝国の皇太子であり1000年に1人の魔剣士。
彼が積上げてきた功績は数知れず……誰もがみな魔獣デルベレス討伐の期待を寄せていた。
しかし、まさかこのような死を遂げることになろうとは。
╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍
いや、彼が命を落とす前に
私が先に逝かねばならないようである。
なぜ
何故庇ってしまったのだろう。
そうか
私は
貴方に
恋をしていたのですね。
延々と、主人の泣き叫ぶ声が耳に鳴り響く。
「……うるさい……………」
耳から離れない!
「うるさいですってば、」
「何がうるさいってんだァ!」
「はぉ!?」
?
「うるせぇのはお前の方だァ、ちったァ静かに乗れねぇかガキめッ!」
「はぃ?」
死んだ。
「家が焼けて一家全滅ってのに」
今死んだよな。
「ここまで寝言こぼせる神経がァわからんね」
絶対に死んだはずだ。
そのはずだが、今私は荷物に埋もれ、馬車に揺られている。
じゃあ馬に乗っている目の前のおじ様は何方……。
「あ、あの」
「何だァ」
「ここがえっとー、あの世ですか」
………
「あァ?」
「え、ですから、ここが俗に言うあの世……ってやつですよね」
「……」
無視された。
やはり、あの世なのだ。
「そうだ、この馬車、荷馬車を……止めて下さい!」
「……」
「もうすぐ私の主人が到着する予定でして!
ですからもっと他の高級馬車の用意とそれと…………
ーーーゴッ!
あ
既視感?
重い何かが顔にぶつかり血が溢れる。
「痛」
「黙ってろと言ったはずだァ俺ァ!」
まって、ここは鼻上……!
「あああああ傷があった場所なのにっ!」
そう、私の顔には傷がある。
この傷のせいで私はどんなに生きにくかったことか!
そこへさらに傷を作るなんて……
「下ろしてください!ここじゃ手当もできない!」
「うるせぇ!!これ以上何か声に出したらァ馬車から下ろすぞッ!」
「………ッ?」
しかしここで異変に気づく。
見覚えのある道。
聞き覚えのある声。
「……?」
覚えのある痛み。
覚えのある恐怖。
「あれ………」
この傷と言い、この状況と言い、
何もかもが私の過去の記憶に一致するのだ。
もしかして、もしかすると。
「過去に……」
「戻ってる………?」
だとしたら、だとしたら今顔に刺さっている物は斧で……
……取手がある、斧だ。
手、足は……?
細い、縮んでる。
胸はッ……
な、無い!
じゃあ目の前にいる人は……
叔父さんだ!
間違いない、これは……回帰してる!
「叔父さん!今向かってるところって」
「さっきから言ってるだろうがァ!剣士養成所だ」
「そう!メイド養成……」
ん、剣士養成所って言った?
「えっけけけ剣士養成所って何です私が剣士?なぜぇ」
「自惚れもいい加ァ減にしろ、自分のタマの存在まで忘れたってかァ!」
「はっ?タマ!!!!!」
なんて?
やだそんな叔父さん何を言って、私は女でぇ……
まさか
「う……」
回帰だもの、性別が変わるなんてこと……
「……でも」
「一応……ね」
「か、確認するだけ」
おそるおそる服をめくる
……………
………
……
「あっ」