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一、謁見(呼び出し)

   一、謁見(呼び出し)



『春の中月、三の日。


今日は国王に謁見させられる。


絶対に何かあるはずだけど、きっと勇者関連に違いない。


なぜなら、勇者召喚をしたという話がこの教会にも聞こえているからだ。


聖女である私を呼びつけるということは、召喚に失敗して半壊した体を治せだとか、そういう無茶振りをするに違いない。


心して行かなくては』



 ……よし。帰ったらまた書こう。


 日記は趣味みたいなものだけど、いつ何があったかを忘れないためにも役に立つ。


 それにしても、私を呼びつけるなんて絶対に何かある。教会の中で適当に仕事してる方が楽なのになぁ。



 でも、もうすぐ呼びに来る……。


 ――コンコンコン。


「聖女様……セレーナ様。そろそろ出発のお時間です」


 ほら、やっぱりね。


 はぁ……。どんなに嫌でも、行かなくちゃいけないわよね。


 簡素で狭いけれど、白くて清潔なこの部屋が好き。


 出来れば……ずっとここで魔力を練りながら、ゴロゴロしていたいのに。


 そう思いながらも、ちゃんと答える私。


「はい。今行きます」


 一応、よそ行きの凛とした声で返事をした。



 ありがたいことに私の声は透き通った美声だから、丁寧に話すと本当に聖女っぽい。


 すましていれば目を引く美少女だし、銀髪赤目の聖女だし、教会の中では正直……ワガママを言ってもある程度許してもらえる。


 行くと言ってから少し待たせても、文句は言われない。


 だからこそ、教会の外……ましてや王城なんかには行きたくない。


 ワガママが言えないのだから。




 その上、このドレス。


 聖女のドレスは好きじゃない。これが正装だって言うんだから趣味が悪い。


 スラーっとした真っ白な、少し胸の開いたシルクのロングワンピースに、教会が大好きな植物の蔓をモチーフにした刺繍。


 このサラサラ生地が肌にまとわりつくというか、体のラインが強調されるというか。


 着心地はとても良いのに、もったいない。


 とにかく、胸もおしりもキャミソールばりに目立つ。


 その上に大きなスカーフかマントを羽織るんだけど、絶対にマントにする。


 それでも、胸の下で二か所留めるだけだから、背の高い人からは谷間を、低い人からは鼠径部のラインを見られるのが腹立たしい……。




「ねぇ。どうして正装はこんなにイヤらしいデザインなのかしら。皆が体を見るのだけど」


 八つ当たり気味に、呼びに来ただけの司祭に言ってみたものの、これが改善されるわけでもない。


「そ、そんなことは……セレーナ様のお美しい姿が、より引き立っていると思いますゆえ……」


 誰に言っても同じような言葉しか返ってこないから、返答はいつも聞いていない。




 無駄に広くて巨大な造りの教会の中を練り歩き……数分かけて玄関――正門に辿り着くと、趣味の悪い馬車が用意されている。


 教会の、高位者専用の白い馬車だ。


 汚れが目立つものだから、御者は掃除が大変そう。


 それをにこやかに拭き拭きしているのだから、この人には頭が下がる思いになる。



   **



 悪目立ちするそれに乗せられ、王城まで輸送されて、そして謁見の間へと通されるまで……私は自分のステータスを眺めていた。


(……王族は心を読むから、精神攻撃無効はかけておかないとね。それから……)


 あらゆる事態を想定して、補助魔法をかけまくる。


 そして最後に魔力隠蔽をかけて、まるで魔法など使っていませんよという体で国王の前に立つために。


 馬車の中で全て終わらせているけれど、効果時間をギリギリまでチェックするために、降りるまでステータスはオープンしておく。



 まるで敵地への進軍のようだけど、間違いではない。


 アレは、敵とも言う。


 元々が、教会と王国は仲がよろしくない上に、私は何かと国王に目をつけられているから。


 言いたい事の半分も言っていないのに、無礼だの何だのとうるさい。


 教皇様からも「口を閉ざしておけ」と怒られるから、最近は当たり障りのない返事まで覚えたというのに……一度目をつけられたら手遅れだった。



   **



「よく来た。聖女セレーナ。おもてを上げよ」


 偉そう。この国で一番偉い人だけど、嫌味で偉そうな感じが腹立たしい。


 跪いてるだけでも嫌な気分なのに、上からの、さらに上からモノを言うのが本当に嫌い。


 私以外には、普通なのに。



「して。今日はお主にしか、頼めない事があってな。聞いてくれるか」


 聞いてくれるかって、聞かせるために呼んだのでしょう?


 と、今の私は、口にはしない。成長したのよ。



「はい。何なりとお申し付けください」


 この透き通る声で素直なことを言うと、とても従順な聖女に映ることでしょう。


 ちらりと見渡すと、私の中身は知っているはずなのに、デレっとした顔の大臣達が見えた。


 きもち悪い……。谷間に目線が来てるの、分かってるんだから。



「うむ。良い返事だな。さすれば……おい、あの方を」


 なにが「良い返事だな」よ。いちいち腹の立つ。


 って、国王が「あの方」呼ばわり?


 ……嫌な予感しかないし、半分予想してたけど、まさか。



「勇者ゲンジ。ゲンジ・イワクニ殿だ」


 はぁぁ。やっっぱり勇者かぁ。


 これで何度目の召喚なんだろう。


 ことごとく、目的は達成されずに死んじゃったって話だけど。


 そういえば私が呼ばれたのは初めてだけど、何で呼ばれたんだろう?





「……セレーナです。教会で聖女として、人々の苦痛や病を癒すために奉仕しております」


 いちおう、頭も深めに下げておこう。


 この人も国王みたいに横柄な人間なら、後で文句を言われるかもしれないし。



「ぼ……俺はゲンジと言うんだ。よよ、よろしく、セレーナ」


 む? いきなり呼び捨てですかそうですか。ていうか今、「ぼく」って言いかけて直したよね?


 顔もなんか……ぱっとしない感じだし、線も細いし……ほんとに勇者なのかな?



 ……こいつもずっと谷間見てるし。やっぱりきもちわるい。うざいって言ってやりたい。


「歓談は後に席を設けておる。ゆるりと親睦を深めるが良い。それでだな、聖女セレーナよ」


 歓談も親睦もいらないので、早く帰らせてください。


 まあでも、半壊したボディを持って来られるのを覚悟してたから、まだ良かったと言えば良かったけど。



「はい。何でしょう」


 そういえば、私にしか頼めないことの中身を聞いてないわね。


「勇者の旅に、同行してやってくれ」


「はい、かしこまりまし――」


 うん?


「――た」



 はい?


 今なんと?


 国王は何て言ったの?



「そうかそうか。聖女の言葉に二言あるまいな。よろしく頼んだぞ」


「ふぁっ、いやあの! 同行というのは?」


 何言ってやがってくれてるのよ、この国王は!




「二人で、魔王討伐に向かってくれという事に決まっておろう」


 な、なにが「決まっておろう」よ!


 しかも二人ってどういうこと?


「あ、あのお言葉ですが、陛下。二人というのは、無理があるのでは……」


「なに、勇者殿の希望でな。二人旅がしてみたいというのだ。よろしく頼んだぞ」



 はあああああああああああああ?


 こんなほっそい、弱そうなやつと二人?


 ていうか何で私なのよ!


 お付きが五人は必要ですよね?


 ていうか、魔王領入ったら死にますよね?


 敵しかいない所に二人だけで乗り込んで、何をどうしろって言うのよ!



「えっっっと、国王陛下? あまりにも無理が――」


「下がって良いぞ」



「――ある。って、陛下!」


 うわぁ……さっさと立ち去りやがった……。



 さては……勇者のステータス見たら弱すぎたとかで、私を巻き添えにして始末するつもり?


 野垂れ死んでよし。魔王領で討ち果ててよし。ってことか。


 あぁ、もう!


 してやられた。


 教皇様に泣きついても、これ絶対に裏で取引した後だよね……。


 あ~あ。ワガママ放題するんじゃなかった……。




 ちょっと奉仕をさぼったりとか、ちょっと教会抜け出して街で遊んで、目立って騒ぎになったりとか……。


 出店で串焼きを買い食いする程度の、可愛いワガママだったはずなのに。




「やー、あの、セレーナ。別室に食事の用意があるらしいから、食べに行こうよ」


 おーい、おいおい。私は今、それどころじゃないんですけどね。


 とはいえ、謁見の間からは出ないといけないか。


 そこらへんの大臣や近衛兵どもに文句言っても……無駄だろうしなぁ。



 そういえば、この変態のレベルいくつなんだろ。


(エネミーステータス、オープン)


 ってうわ!


 ひっっ…………くぃ。低すぎるでしょ。


 レベル……いち……?



 称号だけはいっちょ前だわ……『伝説の勇者』ですって。


 名前負けよねぇ。可哀想なくらい。


 ていうか、私が一番可哀想よね。こいつと旅とか……。


 逃げようかな。でも、教会を出て私ひとりじゃ、生活なんて出来ないし。




「……分かりました。とりあえずお食事を頂きましょうか」


 微笑んでみたつもりだけど、顔がひきつってるのは隠すつもりないから。


「うん。……セレーナって、か、かわいいね」


 ぞわああああ!


 ぞわってした!


 あ~、きもちわるいよぅ。ほんとにきもぃ。


 何なのこいつ。



「……ふふ。お上手ですね、勇者様」


 あーあ。私の人生、ここで終わりかぁ。


 絶対嫌だけど。


 まだ十五歳くらいなのに。


 仮にも聖女……というか、仮も何も、聖女なのに……。



 これはあれだ、私の代用になる聖女レベルの治癒力持った子が……出て来たんだろうなぁ。


 あんまり居ないと思ってたんだけど、そうでもないのかぁ……。


 教皇様もグルだろうから、とりあえず打つ手がないのよね。


 どうしよう……。


 くうぅ……新しい子が、私以上のワガママになる呪いを掛けてやる。

 


――「面白い」 「続き!」 「まぁ、もう少し読んでもいいか」


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どうぞよろしくお願い致します。  作者【 稲山 裕 】

週に2~3回更新です。



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