5-12
一週間後、予定通り私達はドラゴネッティを離れ、二日かけて懐かしのルドール王国の我が家に戻った。
ずいぶん長旅になってしまったけれど、私の手紙やルヴェインからの報告は届いていたようで、今回は家族に余計な心配をかけずに済んだ。…かな。
龍達は大歓迎、とまではいかず、へぇー、しばらく見かけなかったけど帰ってきたんだ、くらいの待遇で、それでも戻ってきたことを喜んではくれていた。
不在の間に兄嫁となるロッサーナさんが家に来ていて、すっかりなじんでる。ジュストもどこで見つけて来たのか、龍使いではないけれど龍は怖くない、貴重な人材。少しづつ龍のお世話もしてるけど、…龍達の待遇、私より良くない? …兄の次のポジションと龍達は思ってるのかな。
龍にとってルヴェインは判定外だし、私はこの家の龍にとって永遠の最下位なのか。
卵の中身である我が子は、その後も卵の中で安定して成長しているので、このまま温かーい目で見守り、生まれてくるのを待つことになった。下手におなかに戻そうとしても私の体がついていけない可能性が高く、やめた方がいいと言われた。
気がつけば卵が大きくなっている。元々龍の卵を小さくしてあるので、元の大きさにはなれるはず。産み月の人間の子供が収まるのに丁度いい大きさかも。
卵を持ち運ぶにも、どんどん重くなっていく。おなかは重くないけれど、肩は凝りまくり。体はむくむし、やたらだるいし、ちょっと動くと疲れちゃうし、少し貧血もある。
おなかの中で動くのは体感できないけど、時々殻を叩くような音がして、卵が揺れてる。もう間もなく生まれてくる。
どうやって生まれてくるんだろう。殻を割るとなるとやっぱり蹴りかな。パンチかもしれない。落ち着いて生まれてくるのを見守ろう。
やがて迎えた産み月。
さあ、おいで。いつでも生まれておいで。
生まれるところ、絶対見届けるから。
…と気合を入れていたはずなのに、
「…レーナ。おい、起きろ。レーナ、もうすぐ生まれるぞ」
ルヴェインに揺り動かされて、眠い目をこする。
また見逃すところだった。やばいやばい。
と、
起きあがると同時に卵に亀裂が入り、おなかに激痛が走った。
「いったあああああああああい!」
割れてるのは卵なのに、何で私のおなかが痛いの!!
のたうち回る私と割れていく卵に、あのルヴェインでさえ慌てていた。
「レーナ」
しっかりと握られた手を握り返す。愛というより、痛みを耐えるための握り棒代わり。
「しぬう! いだだだだだ…。 痛いーっ!! ふううううう。…死んじゃうよう、…痛いよう」
「簡単に死ぬな。死にそうなら必殺のギャグを言ってみろ」
こんな時に無茶を言うなっ! …くっ、い、いて…、いてて、
「また痛いの来た! たたたたたたたたたた!」
波のようにやってくる痛みに、面白いことなど浮かぶ訳がない。
泣き言を言いながらひたすら痛みに耐え、念のため来てくれた産婆さんも驚く1時間のちょっ早出産。
「ホンギャー! ホギャー、ホギャー!」
我が子は自力で殻をぶち破って生まれ、ひたすら痛みに悲鳴を上げているだけで、ルヴェインを笑わせられなかった私は死ななかった。
手渡される命。なんてちっちゃい。
気が付いたら、私の目からぼろぼろと涙がこぼれていた。
よかった。無事に生まれてくれてよかった。
ギャグなんて言わなくても、我が子を見てルヴェインが笑ってる。
私、生きててよかった。
大爆笑間違いなし、とはいかなくても、くすっとくらいは笑えるはずの遺言状を念のために用意しておいたけど、幸い日の目を見ることなく、今も秘密の場所に隠してある。
お読みいただき、ありがとうございました。
あとがきを消してしまってました。
一旦終わった話をほじくり返した理由を補記します。
この話で追加したかったのは、人間が卵からかえるという設定です。
龍と人の子なら卵で生まれてもいいけれど、母親が人間である限り胎生でなければならない。
それでも卵から孵してみたかった。
卵で産むという妄想は結構楽しく、抱卵休暇とかあって、今はやりの男女平等産休・育休も卵なら結構合理的に取れたりして。
しかし、短編で書こうとしたら、どうしても母親が死んでしまう。
これを死なずに引き受けてくれるのがレーナさんでした。
このキャラのめげないところがすごく貴重でした。
その代わり、卵生でも楽できない、可哀想な役目になっちゃいましたが。
アップ後も気の向くままに修正してますが、ご容赦のほど。
2023.6
あとがき復活 2023.8




