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龍つかいの憂鬱  作者: 河辺 螢
龘 - 龍つかいにつかえる龍の逆鱗
48/49

5-11

 ようやく旅の許可が下りたのは、ノルドランシアに来てから二カ月ほど過ぎた後だった。

 約束通り封じ込められた魔力を解放されたルヴェインはいとも簡単に成龍に戻り、久々に人型の姿も見た。

 これから三年間も追放されるというのに、女王様やトゥーレ様、アンジェラ様、お医者様やお世話してくれた皆さんが見送ってくれた。

「青二才の黒竜よ。つがいで国を亡ぼせば、恨まれるのはつがいだと肝に銘じておけ」

 女王様の苦言にルヴェインは馬耳東風を装っていた。でも多少は考えるところがあったみたい。


 ルヴェインのいないところでトゥーレ様から謝罪を受けていたけれど、トゥーレ様はルヴェインの目の前でもう一度私に謝罪した。

 それは私の「許す」条件だった。

 トゥーレ様のしたことを忘れることなんてできない。許すなんて言葉を簡単には口にできなかった。だけど、私はルヴェインに怒っていてほしくなかった。私が許さなければルヴェインは絶対にトゥーレ様を許せない。ルヴェインのために私の怒りに封をするから、ちゃんとルヴェインの前で和解したことを示したい。その条件をトゥーレ様は飲んでくれ、ルヴェインに睨まれても必死に耐えてその場にい続けた。

 だから、私も謝罪を受け入れなきゃ。

「…私としては、アンジェラ様の雷撃があっても変わらずアンジェラ様を受け入れたところで、トゥーレ様をある程度評価してますから」

 私がそう言うと、ルヴェインも女王様もアンジェラ様も、何が?と言った顔をした。

「龍の力を目の当たりにし、雷を操り人を殺せる存在に恐れをなして逃げてしまう人もいます。トゥーレ様がルヴェインのことを怖がっていたから、アンジェラ様のことも怖がってしまうと嫌だなと思ってたんです。でも変わらずアンジェラ様と一緒に国を守ろうとされていたので、安心しました」

 トゥーレ様は、ああ、と笑みを浮かべて、

「可愛いアンジェラもいいが、強いアンジェラもまた魅力的だ。打ちひしがれた私を励ましてくれる存在を失いたくない、頼りになるパートナーとして共に生きていきたと、改めて思ったんだ」

 お、のろけられてしまった。ぽっと頬を染めたアンジェラ様がかわいい。

 トゥーレ様には龍の血も混ざっているから、龍を受け入れられないってことはないとは思ってたけど。この妻に対する信頼感。

「きっと、陛下も旦那様に愛されていたんでしょうね」

 何気なく言った言葉に、意外にも女王様は無視をせず、答えが返ってきた。

「…愛する者に国を託されたからこそ女王になったのだ。でなければ、人の国に居残るものか」

 お、こっちもちょっと赤くなった。それでもあくまですまし顔なのが、いかにも女王様らしい。

 龍を知らない者ほど龍を恐れ、あるいは龍を舐めてかかってトラブルを起こしてしまうもの。どうかこの国でも、人と龍が平和に共存できるようになりますように。

 最後にアンジェラ様に耳元で

「雷撃もですが、ギャン泣きもほどほどに」

と余計な一言を残すと、アンジェラ様は

「使いすぎると、武器の切れ味は悪くなるものね」

と言ってウインクした。ドラゴネッティの龍は強い。



 一日の飛ぶ距離、飛ぶ時間を控え、休憩も充分にとりながら、三日後にはドラゴネッティに到着。ルヴェインの飛行はかなり慎重になっていた。私だけでなく卵もいるもんね。

 ドラゴネッティでも今一度診察を受け、私も卵も特に問題はなかったけれど充分な休みを取るため一週間滞在することになった。


 一日置いてルヴェインと一緒に街に出かけ、夫自慢をしながら街の友人たちに改めて紹介した。ルヴェインは有名人だし、みんな既にルヴェインが夫だと知っていたから驚かれることはなかった。

「改めて二人並ぶと、意外と違和感ないわねー」

とは、薬屋のマーノさんの言葉。今までそんなこと言われたことなかった。誰もが振り向く麗人王弟殿下と平凡な庶民の龍使い。お世辞と思うべきなのかもしれないけれど、おべっかを使わないマーノさんの言葉だけに素直に受け取っておいた。…結構嬉しい。

 マーノさんにはノルドランシアでゲットした木の樹液から作る珍しい薬をお土産に渡し、ルドールに戻ったら薬草を送る約束をした。

「子育て優先でいいからね。くれぐれも無理しちゃだめよ」

 そう言ってマーノさんは骨を強くするカイの実と貧血に効くリノの実をサービスしてくれた。


 セルジオさんはルヴェインより卵の方に興味津々な様子。

「おまえなら卵くらい産むと思ったが…」

「いえいえ、産んでないですから」

 卵の様子も見てくれた。

「今のところ、育ってるな。大事にしてやれ」

 病院の手伝いを求められなかったのがちょっと寂しかったけれど、顔なじみの患者さんとも少し話をして、忙しい中お邪魔にならないよう病院を離れた。



 アウレリア様の所にも遊びに行った。

 アウレリア様自身は安泰で、とっとと離縁も認められ、今は潮の宮でのんびり過ごしているのだけど、つい先日ゴルディアに行ってきたらしい。その話になり、

「残っていた手続きにゴルディアに行ったら、泣きつかれたのよ」

と愚痴と共に溜め息をついた。聞くのが恐かったけど、聞かずにはいられない。

「…何を言ってきたんですか?」

「持参金の返還を待ってくれって」

 …うおお、さすがくそ男! 別れることになってもくそはくそかぁ。

 元々、アウレリア様のお相手はゴルディアの王子も含めて数人の候補がいた中、ラウドナート公爵が自ら進んで立候補したのだそうだ。

 しかしその目当ては持参金と名誉。

 ゴルディアの王はラウドナート公がアウレリア様をお飾りの妻にしていたことを知らず、四年も経って寝耳に水の離縁話。愛人に子供ができ、自分には子供ができなかったのが原因かと思いきや、何と白い結婚を離縁の根拠に挙げられ、想定外もいいところで、王様は考え直すよう説得するのも諦めたそうだ。

 挙句の果てに持参金の返還猶予の申し出。これにはゴルディアの王もあきれて、詫びながら「早く縁を切りたいだろう」と持参金を立て替えて支払ってくれることになったらしい。公爵家は王家に借金を返済することになり、さすがに反故にはできないだろう。

 ゴルディアの王様、悪い人じゃなさそうだけど、最初の人選、もうちょっと頑張ろうよ。

 さらには、今まで一国の姫であり龍でもあるアウレリア様が本妻だったからこそ愛人たちもその座に甘んじていたものの、身分の差も小さい人間同士、誰が本妻になるかで大いにもめているらしい。

 そんな面倒な家からの解放。

「悪縁が切れて、おめでとうございます」

「ほんと、お祝いしなきゃ。…当面、自由気ままな暮らしを楽しむわ」

 そう言うアウレリア様の周りには、愛と敬意をもって見つめる者達であふれている。

 本人が望めばすぐにでも次のお話は決まるだろうけど、アウレリア様次第だろうな。



 ルヴェインが騎士隊をしごきに行っている間、のんびりお茶をしていると急に王様から呼び出しを受けた。

 恰好もそのままでいいから急ぎ来るように言われ、庶民的な普段着のまま向かうと、案内された先は王様の私的な応接室だった。

 そこにはアウレリア様とロベルト様、ラウル様もいた。アウレリア様の表情は少し険しかった。ルヴェインのいない隙を狙っての呼び出し。ルヴェインに関することなのは想像がついた。

 フェデリコ様が執事やお茶を用意してくれた侍女を下げ、身内だけになった部屋で

「この度のノルドランシアの水害についてだが」

と切り出した。

「アウレリアから話は聞いているが、レーナ殿の話も聞いておきたいと思ってな」

「残念ながら、私は体調を崩して寝てました。起きた時には天気は良くなっていたので、詳細はわからないのです」

 それは予想していた答えだったようで、フェデリコ様は

「そうか」

としか言わなかった。

 フェデリコ様に代わり、次兄のロベルト様が話を続けた。

「いくら龍とはいえ、雨を降らせる力を持つものなど限られている。しかも数日間にわたり、水害を引き起こすほどの大雨を降らせる龍など規格外にもほどがある」

「普段は怒ったってそんなことしませんよ」

 私がそう言うと、

「当たり前だ。普段から大雨を降らせるような生き物がいたら、とっとと成敗されているわ」

とロドリコ様に呆れられてしまった。

 少し間を置いて、今度はフェデリコ様が直々に提案をしてきた。

「…それだけの力を持つ龍だ。ドラゴネッティが責任をもち、おまえたち二人をこの国で引き取ろうと思うのだが」

 せっかくの王様の申し出ながら、

「いえ、もうルドールに帰ることは決まってますので」

ときっぱりと答える私に、皆さんキョトンとしていた。王様からの直接の申し出、婉曲的な命令を断ると思ってなかったのかもしれない。

「ノルドランシアで約束したんです。家に帰るって。ルヴェインは約束を守ると言ってくれてます。多分、帰らなかったらまた面倒なことになりますし、今度は私がごねます」

 ぷっと噴き出したのは、ラウル様だ。

「しかし、何かあった場合…」

「ドラゴネッティよりルドールの方が安心して暮らせますから」

 この言葉は、この国の王であるフェデリコ様の気分を害したかもしれない。でも正直な感想だ。

「この国で暮らしても、ルヴェインも私も言われたまま大人しくしているようなことはありません。むしろ、出ていきたくなったら大暴れしちゃうかもしれませんよ。ドラゴネッティの脅威になるのも困るでしょう?」

「しかしだな…」

「ご心配されるような状況になる可能性があるのは、私に何かが起きた場合だと思います。もしそのことを心配しているなら、私も回避策を考えます」

 アウレリア様はちょっと心配そうな顔をして、ラウル様は完全に面白がっていた。

「どんな回避策があるんだい?」

「まず、ルヴェインより私が長生きすれば問題ないですよね。先に死んだところで、死ぬまでにほどほどに冷めた大人な関係になっていれば、大雨までは至らないんじゃないかと。なれなかったら、…そうですね」

 大雨が龍の涙だとしたら、ルヴェインが悲しまなければいいんだよね。

「…うーん、死に際に必殺のギャグを言ってから死にましょう。ルヴェインが思い出すたびに笑ってしまうようなすごいのを。読んで楽しい遺言状も用意しろと言われれば…。書けるかな」

 私は本気だったのに、その場にいた龍達はみんな目を点にして、いち早くラウル様が腹を抱えて大笑いした。

「いやあ、最高だ。ルヴェインもどっからこんな面白いのを拾ってきたんだか」

 …拾って?

「拾ったのは私ですから」

「そうだったね、ごめんごめん。…兄上、ほっときましょう、このばか夫婦」

 おどけた調子で話しながらも、ラウル様が私たちの味方になってくれようとしているのがわかった。

「あいつは構ってちゃんだから、いい子いい子してもらってればご機嫌なんだよ。ルヴェイン使い殿に思いっきり甘やかしてもらって、万が一ルヴェインを残して逝く時には最期に必殺のギャグでもかましてもらって、とりあえずはそれでよしでいいんじゃない?」

 ロベルト様は腕を組んでうーん、とうなりながらも、

「どのみち、あいつに手綱をつけられるのはルヴェイン使い殿だけだからな」

と了承の意向を示した。何でみんな「ルヴェイン使い」を私の固有名詞にするんだろう。

「あの子が笑う必殺のギャグなんて、思いつかないわ」

 真顔でアウレリア様に言われて、なんだかすごい宿題を自分に課してしまったようで、心配になってきた。不安を覚えた私とは反対に、フェデリコ様の答えは肯定的だった。

「…わかった。今後のことは様子を見ながら考えよう。何かあれば遠慮なく、すみやかに我らに相談するように。いいな?」

 とりあえず了承してくれたものの、フェデリコ様のちょっと本気の覇気を感じ、背筋が伸びた。

「気をつけて帰るがいい」

 そう言って覇気を解き、笑顔を向けたフェデリコ様は、王様というよりお兄さんな顔をしていた。


 風の宮に戻ろうと席を立った私に、フェデリコ様がふと思い出したように

「ああ、あとおまえたち二人の婚姻の証を受理しておいた」

と言った。

 …婚姻の、証?

「おまえたち、ドラゴネッティでもルドールでも何の届も出していなかっただろう」

 トドケ?

「サーラが閨事の報告をしなければ、届を出していないことにも気が付かなかった」

 閨事…? …。

 !!!!

 ひゃあああ! ほ、報告、そうか。王家だ。ルヴェインは王族だった。その手の報告もあるのか。あるものなんだ。うわー、やだー。絶対ここに残らない。家に帰る。

「龍としては些末なことだろうが、ドラゴネッティの王族の一員としてきちんと手続きを踏んでおくことは重要なことだ。…ルヴェインには私から言っておこう」

「…は、はい」

 ルビノの実は食べさせあったけど…。儀式的なものと、手続きは違うってことですね。

 そうだよね。お貴族様、ましてや王族の結婚には何かと手続きがいるよね。

「ああ、だから招待状は旧姓で…」

 今さら気が付いた私に、ラウル様がにやっと笑った。ラウル様はちゃんと調べてたんだ。なんてこったい。

「ルドールでも今はランツェッタ子爵ご夫妻になっていたよ。ちゃんとうちでの身分と照合してあるから」

 あ、出発前に授与された子爵位!

 誰かがルヴェインと一緒に私の手続きもしてくれたんだ。王様が気を利かせてくれたのかもしれない。子供が生まれるというのに、ちゃんと結婚の手続きもしていなかったとは。

 何でもルヴェイン任せにしてちゃだめだった…。


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