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私がノルドランシアで絶対安静な居候になり、龍の卵の番人になって一週間。今のところ女王様は私がここにいることを黙認してくれている。
卵は特に生育に問題なく、ダミー達とトリオで毎日私の部屋にやってくる。時々肌寒く感じる夜は一緒に布団の中に入り、少し暑い時は窓を開けてもらって風を取り入れる。時にアンジェラ様が卵を連れてお散歩に出かけることもある。卵の警護に三人の騎士を連れて城内を歩き回っているおかげで、宝物庫に入れてまで隠していた卵の存在が世間に知れるようになった。
お散歩までさせるのはどうなんだろう。普通卵は親が生んだ場所にあるものだし、よほどの悪環境でなければ移動させることもない。散歩に何かいい効果があるのかわからないけど、自分の卵とつながりを持ち、交流しようとしているのだとしたら、そういう気持ちになったアンジェラ様を止めることはできなかった。
さらに一週間ほど過ぎ、私の体調はずいぶん安定し、そろそろ普通の生活をしてもいいと言われた。しっかりぐうたらした甲斐があった。家に帰れる日も近い。
その日、昼寝から目覚めたら、既にベッドに卵が戻ってきてた。
アンジェラ様がお散歩に連れて行った後、いつもなら帰ってきた卵を確認して私が引き継ぐのに、寝ている間にベッドの上に置かれてる。こんなこと今までなかったのに。私が寝ていたから気を遣って起こさなかったんだろうか…。
置かれた卵の様子を見ると、何だかいつもと違う。ダミーの二つはもちろん、どの卵も龍がいる感じがしない。
ゾワッと鳥肌が立ち、怖くなってペンダントを握りしめて、ルヴェインを呼んだ。
「ルヴェイン、ルヴェイン!!」
私の声を聞いて、ルヴェインがすぐに来てくれた。
「卵が変なの。起きたらここに戻ってたんだけど、この卵、龍がいないかも」
ルヴェインが三つの卵に手を当てた。しかめた顔が私の憶測が間違っていないことを伝えていた。
「…アンジェラに聞いてみよう。部屋を出るな。部屋の前の護衛たちにも言っておく」
すぐにルヴェインは部屋を出て行った。
それから十分もしないうちに何だか外が騒がしくなった。そして、不気味なくらいにしんと静まり返る。
そっと起き上がって扉を薄くすかして見ると、部屋の前にいるはずの衛兵がいなくなっていた。なにか城内にトラブルがあって、そっちに行っちゃったんだろうか。
ルヴェインはまだ戻ってこない。
そっとドアを閉めて、急いでベッドのシーツを剥ぎ取り、半分に引き裂いて端を結び、たすき掛けにしてシーツの内側に卵を入れた。竜の卵は思いのほか大きくて、二個しか持てそうにない。ダミーだと確信の持てる一個をベッドに残し、クッションやドレスを丸めて人が寝てるように盛り上げてその上に布団をかけ、バルコニーに出た。
そうしないうちに音もなくゆっくりとドアが開き、廊下から射しこむ光と共に人影が室内に入ってきた。気配を消しながら部屋を移動している。見回りに来てくれのか、それとも…
荒々しい音が私の期待を裏切った。
盛り上がった布団に剣を突き刺す。卵の番人を仕留めたはずが、手応えのなさに怒りながら天蓋を切り、布団をめくりあげてそこにあったダミーの卵を叩き割った。
「…どこ行きやがった」
室内を物色する音が遠慮ない。護衛が来ないのをわかってる。うまくおびき出したのか、もしかしたら、城の者はみんな共犯…?
怖い。
狙っているのは卵。でも卵の番人もまた邪魔な存在のはず。どうしよう。
ここは二階。飛び降りる? …駄目、卵を持って飛び降りるのは無理。割れてしまう。私のおなかの子供だって…。
躊躇しているうちに窓が乱暴に開き、侵入者が私を見つけた。振り上げられた剣。
とっさに背を向け、卵を抱えてかがみ込み、目をギュッと閉じた。
胸のあたりが急に熱くなり、背中に強い力を感じた。
「ぐおっ」
と声がして剣が届くことはなく、恐る恐る振り返ると、卵を狙っていた人はバルコニーの反対側まで吹き飛び、柵に当たってぐったりと倒れていた。何が起こったのかわからない。
いつの間にかバルコニーに違う人がいた。私に背を向けて剣を持ち、迷うことなく倒れていた男の右肩を刺すと、男は意識を取り戻すと同時に痛みに悲鳴を上げた。
遅れて衛兵が来て、男を拘束した。
剣を手に守ってくれた人が振り返るなり、私の名を叫んだ。それが、その時耳にした最後の声だった。




