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いよいよノルドランシアへ出発。
アンジェラ様は龍になり、トゥーレ様を背中に乗っけて護衛を連れて出立。その後をルヴェインに乗った私と、姉であるアウレリア様、それにトゥーレ様達やアウレリア様の護衛、侍女など数頭の龍や人が続く、結構大掛かりな旅団になった。
一泊二日の旅程で途中の宿はもちろんロイヤルクラス。広い部屋、高そうな調度品、高待遇、落ち着かないのは私だけで、アンジェラ様もトゥーレ様もアウレリア様も、もちろんルヴェインもごく当然という感じでゆったりと過ごしている。
ドラゴネッティを離れてからは、ルヴェインはいつもの黒髪金目に戻っていた。
レティシア妃は銀の髪の私の連れをルヴェインだと気付かなかったようで、ドラゴネッティを発つ時もたくさんいる龍に紛れてわからなかったみたい。龍を見分けられる人が見ればむちゃくちゃ目立つんだけど、わからなくてよかった。
せっかく兄弟関係になったのだから、仲良くできるといいな。…少なくともおびえられない程度には。
旅は順調で、二日目のお昼にはノルドランシアに到着。事前に私達が同行することは伝わっていて、アンジェラ様の兄弟の訪問としてお城の中に部屋が用意されていた。
ルヴェインと私は同室、アウレリア様はお一人で。
荷物を片付け、さっそく卵に会いに行こうと思ったのだけど、何でも卵は厳重に管理されているとかで、卵を産んだアンジェラ様であってもすぐには会えないとか。明日には会わせてもらえることになったけど、どういう環境で育ててるんだろう。
女王様には明日ご挨拶をすることになっていて、今日は旅のメンバーで夕食を食べた。
北の料理は少し塩辛くて煮込み料理が多く、長時間煮込んで刺すだけで崩れるほどほろほろになったお肉がおいしい。気候は穏やかながら、日が暮れると少し肌寒く感じる。
「顔色が悪いな。疲れたのか?」
「ちょっと眠くなっちゃった」
ルヴェインに乗っている間、私は魔法で風から守られていて、自分は座っているだけなのに疲れてるなんて贅沢。でも何だかだるくて、ルヴェインにもたれながら気が付いたらうとうとしてた。
髪をなでてくれるのが気持ちいい。
ゆっくり休んで、また明日頑張ろう。
解決するといいな。卵が産まれてくれるといいな。
早く家に帰れるといいけど。無性にうちの龍たちに会いたくなった。
翌日、城内の謁見の間に呼び出された。
女王様は龍人。アンジェラ様の夫トゥーレ様の母君に当たる。もともとこの国は人の国なのだけど、龍の力を見込まれて先代の王に嫁いだのだそうだ。
人型でも結構恐い。立ってるだけで覇気をまき散らしている。誰も周りに寄せ付けないぞ、という威圧感。気性の荒そうなおっかない龍に違いない。多分、赤龍、火の龍だ。
「ようこそ、ノルドランシアへ。兄弟水入らずでごゆるりと滞在されよ」
短いあいさつで謁見はすぐに終わった。これ以上にないほどのあいさつ「だけ」だった。
卵を見る「許可」(?)も得られ、そのままみんなで卵のある部屋に向かった。
お城の役人がずいぶん頑丈そうな大きな鍵を持って先行した。開錠するのも大変そう。ガツリと音がして重い扉が開かれた先は、キンキラキンだった。
なんとそこは宝物庫。光輝くお宝に囲まれ、卵専用の台に置かれた卵。魔道具の照明が卵も宝物も照らしているけれど、そこには窓さえもなく、冷たく、無機質な部屋。
警戒心をあからさまに見せつけてくるお城の役人。早くこの部屋から出て行ってほしいという気持ちが顔に出ている。
「ここって、扉を閉めたら明かりは」
「消えますよ」
「当然、火の気はないですよね」
「当たり前です」
「水は」
「火も水も持ち込み禁止です」
…。
「誰がここに卵を置こうと言ったんですか?」
私が聞くと、困った顔をしてアンジェラ様が答えた。
「女王陛下です。卵が盗まれることのないように厳重に守るのだと…」
駄目だ、これは…。
「すぐにここから卵を出します」
役人の顔色が変わった。
「いけません、女王陛下のご命令です」
口うるさい役人を黙らせるため、つまづいたふりをしてすぐ近くにあった箱をひっくり返すと、中から金貨が零れ落ちた。役人が慌てて拾うのを横目に
「卵を」
と言うと、ルヴェインが台から卵を持ち上げた。
ついでにもう一箱金貨の入った箱を倒し、役人が悲鳴を上げているうちに宝物庫を出た。
アンジェラ様はうろたえてるけど説明は後。アウレリア様は静観してる。肝が据わってるな。
「とりあえず、私たちがいる部屋に行きましょう」
部屋にたどり着くとまずは卵の確認。ベッドの上に毛布を丸め、転がらないように卵を置く。その横にクッションを添えた。
龍は基本的に卵を抱かないもの。自力で孵化するまでほったらかし、と言われればその通りなんだけど、それで生まれるのは条件が揃っている時。二度も卵が孵化しなかったということは、卵の中で龍が育つ条件が足りないはず。
しばらくすると、バタバタと走り寄る足音が聞こえて来て、ノックもなく部屋が開けられた。
「卵を盗んだのはおまえかっ」
城の衛兵達が押しかけて来た。剣を携え、いつでも抜けるように柄に手をやっているけれど、ドアの前にトゥーレ様が立ちふさがった。
「…トゥーレ様!!」
「レーナ殿は龍使いだ。卵を見てもらう約束をしている」
「しかし」
さすがにトゥーレ様を押しのけては入れないらしく、イライラして足踏みをし、もどかし気に睨みつけてくる。その存在を気にもせず
「こんなばかなことを命じて…」
とつぶやくと、ばかという言葉に反応した衛兵が身を乗り出してきた。
「引けっ」
トゥーレ様の言葉も無視して今にも突っ込んできそうになったので、
「卵をあんな場所に保管するのを命じたのが女王陛下なら、お話したいことがあります。逃げも隠れもしません。いつでもお呼び出し下さい」
私がそう答えると、衛兵を止めていたトゥーレ様が振り返り、
「私が母上と話をしよう。おまえたちも来い」
そう言うとトゥーレ様は衛兵達を連れて部屋を出ていった。
とりあえず、卵の中には龍がいる。死んではいない。孵化にはまだ時間がかかりそうだけど、あのままにしておいたら恐らくまた命を落とすことになる。
「アンジェラ様。…卵の殻って、あります?」
「卵って、…龍の?」
「はい」
アンジェラ様に卵の殻を持ってきてもらった。丸い形が残ってる1個を選び、許しをもらって底を割り、ルヴェインに耳うちした。
「これ、隠して持っておける? 合図したら、…」
アンジェラ様やアウレリア様に聞こえないよう、秘密の作戦をルヴェインに伝えると、ルヴェインはにやりとした笑みを見せながら、躊躇なく引き受けてくれた。
「俺は龍使いに仕える龍だからな。頼まれれば何でもやる」
「首が飛ぶ時は一緒ね」
「飛ばさせるか」
ルヴェインなら、何かあったら逆に相手の首を飛ばしかねない。国際問題にならないことを願いつつ、女王様からの呼び出しを待った。




