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龍つかいの憂鬱  作者: 河辺 螢
龍の国の龍つかいと、龍つかいにつかえる龍
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4-9

「ルヴェイン兄様、レーナ様」

 次に声をかけてきたのはアンジェラ様だった。いよいよここに来た本命登場。

「アンジェラ・ドラゴネッティ・ジャッキオーロです」

 立ち姿も美しい。私が男だったら恐らく射止められていただろう破壊的な笑顔を向けられたものの、

「…場所を変えてお話してもいいかしら」

「はい」

 私が返事をすると、アンジェラ様はちょっと陰りのある笑みを浮かべて小さく頷き、歩き出した。私もルヴェインもついて行く。


 案内されたのは、アンジェラ様が滞在している氷の宮だった。氷の宮と言っても名前だけで、別に寒冷地仕様という訳ではない。

 応接室に通され、アンジェラ様の夫にしてノルドランシアの王子であらせられるトゥーレ様も同席し、加えて

「私も聞かせてもらうわ」

と後から姉であるアウレリア様も加わった。妹のことが心配なご様子。

 侍女がお茶を用意してくれ、一礼して下がって一分。

 静かにお茶をすすっていると、鼻をすする音がして、

「お、…お知恵をお借りしたいのです。ノルドランシアの後継にまつわる重大な問題で…」

 ポロ、ポロ、とこぼれる涙。

「わ、私もう、どうしたらいいか、…」

 ああ、涙が洪水になった。

「ま、まずはお話を聞かせてください。私で役に立つかどうかもわかりませんが…」

 ハンカチを差し出し、アンジェラ様が落ち着くのを待って、まずは相談案件を聞かせてもらうことにした。




 ノルドランシアに嫁いで三年になりますが、その間、生まれた卵が孵化できないのです。

 ノルドランシアは冬が厳しい土地です。最初に生まれたのは秋で、寒い冬に耐えられなかったようです。春から夏に卵を産めばきっと大丈夫、そう思っていたのですが、春に生まれた卵も育ちませんでした。…今、この春に生まれた卵の孵化を待っているところですが、本当に育ってくれるのか心配で。

 女王陛下は自力で生まれる強い龍でなければ国を任せることはできないとおっしゃり、卵を私たちの元から取り上げてしまうのです。卵に害をなすようなことをされる方ではないと信じていますし、卵が孵化しなかったときは、心から惜しんでくださっていました。ですが、あと一年以内に子供を授かることができなければ、離縁されるか、側室をもつことになるか。

 どうか、我が国までお越しいただき、どうすれば卵が育つかご意見をいただけませんでしょうか。



 龍ならではの卵問題。

 子供ができなければ離縁か側室。まあ、人間の国でもよくあることながら、これまた面倒な女王様だ。

「ドラゴネッティにも龍医はいますが…。お国には龍医は」

「ええ、少数ですがいます。ですがノルドランシアはもともと人の国、かつて龍族が王家に嫁入りをしたことで、今は王家は龍人となっていますが、民はほとんど人なのです。…龍の卵に詳しい者は少なく、相談できる者もいなくて…」

「皆、母が恐いのです」

 そう答えたのは、夫のトゥーレ様だった。

「母は私たち兄弟が頼りないと父なき後女王となり国を治め、今も国政を握っています。私たちへの期待はやめ、私たちの子供に国を継がせようと思っているようですが、子供が生まれないことに大変憤りをもってまして」

 そんな女王様のいる所に行きたいと思う龍使いも龍医もいないと。まあ、そうだよね。卵が産まれなければ、自分のせいにされるかもしれない。

「自力で生まれる強い龍っていうのは、要するに卵に何もするなってことですよね」

 アンジェラ様はこくりと頷いた。

「育ちやすいように環境を整えることが大事だと思うんですけど、…下手に手助けすると女王陛下の不興を買うかなぁ…」

「育つようになりますか?」

 あ。中途半端な意見で期待されてしまった。

「いやー、行って見てみないことには何とも…」

「是非、一緒に我が国にお越しください」

 トゥーレ様が私の手を両手で握りしめ、背後からものすごい圧を感じた。肝心のトゥーレ様は気づいてない。この人、ある意味すごいな。

「お願いします。必ず成果を出せなどとは申しません。もう駄目で元々なのです。私の友人としてお呼びし、龍使いであることは明かしませんから」

 逆に言えば、龍使いとして行ったら、成果を出さねばコロス的な王命が出る、とか???

 え、笑顔が引きつる。む、無理、無理無理。

 そんなに龍の卵に詳しい訳でもないし、これまで何度も孵化を見逃すくらいにほっといても自由気ままに生まれてくる卵しか知らないし。

「ありがとうございます。ラウル兄様の式が終わり次第ご案内しますわ。本当に何とお礼を言ったらいいのか」

 トゥーレ様から私の手を奪い、今度はアンジェラ様が私の手をしっかりと握りしめる。

 ま、待て。まだ何も行くと言ってないのに。

「え、ええええ??」

 助けを求めて、後ろを見ると、ルヴェインが呆れた顔をしていた。

「アンジェラ。…まだレーナは行くと言ってない」

 低く響く声にアンジェラ様は笑顔を消し、またしてもぽろぽろと涙、が…、??

 その場にいたルヴェインもアウレリア様も一歩下がり、ちょっと警戒してる。な、何?

「お兄様の意地悪!!! 私がこんなに困ってるのに、レーナ様がつがいだからって私にお貸しいただけないというの? ひどい、ひどいわっ!! うわーーーん」


 わわわわわわわわあわあああああああああああああんんんんんんんん!


 続く泣き声は爆音! 

 周りの人がみんな耳を手で押さえている中、私はアンジェラ様に手を握られていて、自分の耳を守れない。…と思っていたら、ルヴェインが自分の手を私の耳に当てて殺人的な爆音をふさいでくれていた。代わりにルヴェインが音の暴力にさらされている。龍は耳がいいだけに、この凶器レベルの音はやばい。

「わ、わかりました!! わかりました。行きますから。行きますから泣くのはやめてください!」

 私の一言でぴたりと泣き声が止まり、小さくしゃくりながら、

「本当?」

と首をかしげるアンジェラ様。…美人だろうが、可愛かろうが、あざとかろうが、ほだされるよりも爆泣きの恐怖の方が先立つ。

 ルヴェインの溜め息を聞きながら、私は一週間ほどで帰る予定のこの旅が延長になったことをがっくり思うのだった。

 我が家のみんな、帰るの遅くなるけど待っててね。



 まあ、私も結婚して一年半、子供はまだいない。

 幸い(?)ルヴェインの両親は遠くにある離宮で蟄居中で、今回の結婚式にも不参加だった。私の親は私の子供よりも龍の子供に目がいってるし、姉のラウレッタに子供ができたからもう孫はいる。せかされないのをいいことにのんびりしすぎていると言われれば、そうかもしれないけど、こればっかりは天からの授かりものだしね。

 でも卵が産まれながら育たないというのは、あまりに残念過ぎる。確かに龍は強い生き物だけど、ちょっとした工夫で改善できるなら、女王様が反対しても卵の命を優先したい。

 私にできることがあるなら。


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