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翌日から龍舎の龍たちのご飯とは別に、部屋の居候龍のための食材カットという仕事が増えた。肉を焼けとまでは言われなかったけれど、そのうちそれに近いことを言われそうな気がする。
龍舎の龍たちは今日も食欲もりもり。うろこの艶もいいし、問題なさそう。
次兄のフェルモが来たので交代して部屋に戻り、居候にご飯を持っていく。
まだ寝てる。疲れてるんだろうか。
カット済みのご飯を置いておき、自分のご飯を済ませておく。
部屋に戻ると居候龍は目を覚ましていて、いかにも不満そうな顔でこっちを見ていた。
「おはよう」
明るく声をかけても、挨拶をし返すことなく、
「起きたらいないとはどういうことだ」
とご立腹だ。
「ご飯、置いておいたでしょ? ちゃんと種もとったし、カットもしてあるし…」
「誰が置いたかもわからんものを食えるか」
「この部屋には私しか入らないって。…毒でも盛られないか心配してる?」
口元に赤いグミの実を差し出すと、二、三回チラ見した後、我慢できなかったのか、かぷっと頬張った。おなかは空いているらしい。胃に入れると空腹を実感したのか、あとは手渡ししなくても置いてあった果物や野菜に自分から口をつけた。
元々お外の子だから、警戒心が強いのかもしれない。その割に下敷きにしちゃった私を信頼してくれているのが不思議だけど。
食後もあまり活発に動かず、顎を地面についてじっとしている。
「どこか痛む?」
心配して聞いたのに、そのことには触れず、
「…赤い実はうまかったな」
と言って口の周りをぺろりと舐めた。そしてそのまま丸くなって居眠りを始めた。お腹がいっぱいになって眠くなったのかもしれない。さっきまであんなに寝てたけど。
そっと体を撫でてみた。つやつやしている鱗。触れると黒くなり、力が抜けると灰緑に戻る不思議な鱗。
撫でているうちに、少し指に引っかかるものがあった。そっと手繰ってみると、鱗の間に何か刺さってる。棘かな。
棘抜きを取ってきて、もう一度指を這わせながら引っかかるものを確認してそっとつまみ、引き抜いてみた。黒い色をした細い針のようなもの。少し瘴気があるみたい。誰かに毒針攻撃でも受けたんだろうか。それで倒れていたところに私が乗っかかったとしたら…。
念入りに全身を探っていくと全部で七本の針が見つかった。取れたものを部屋にあった空箱の中に入れ、龍舎に向かった。龍舎には昨日採って来たばかりのヒメグラシ草がある。あれを傷口に塗っておけば、きっと傷の治りが早いはず。
「どうしたんだ?」
龍の世話をしていた長兄のジュストが、慌てて龍舎に入ってきた私を見て声をかけてきた。
「昨日採ってきたヒメグラシ草、まだあるよね」
「ああ、まだ籠に入れっぱなしだ」
「今、部屋で龍の世話をしてるんだけど」
「そういえばおまえが龍を拾ってきたとかフェルモが言ってたな。うちの龍と合わないんだって?」
「そうなの。でね、これが部屋にいる龍に刺さってたの」
ジュストにさっき抜いた針のようなものを見せた。ジュストは手袋をつけ、慎重につまんでじっと見ると、
「毒針か? ドクハリネズミのものでもないし…。瘴気があるな」
「やっぱり?」
「これが刺さってたのか?」
「そうなの。だからヒメグラシ草を塗っておこうと思って。…卵はどう?」
龍舎の卵は定期的に観察してる。父とジュストは卵の孵化に何度も立ち会っているから、いつ頃生まれるかも大体予測がつくらしい。
「もうそろそろだと思うんだが…」
私がもう二度もチャンスを逃しているのを知っているジュストは、心配している私の頭にポンと軽く手を置いた。
「今度こそ、世話できるといいな」
「…無事に生まれてくれるといいね」
無事に生まれて、そしてお世話をして。
龍使いの補助じゃない。今度こそ私が龍使いになる。
ヒメグラシ草の葉と花を摘み、乳鉢ですりつぶす。黙々と、ただひたすらに。
どろどろになって粘ってきたら傷口に塗る。針を抜いたところは血の跡があり、小さな穴が開いている。そこを埋めるようにそっと塗り込んで、上からガーゼを当てておく。
包帯を巻きたいけれど、寝ているのでとりあえずこのままにして、起きてから張り替える時に包帯を巻いておけばいいかな。
生まれてくる子龍のお世話に、この居候龍のお世話。なんだか龍使いっぽくなってきたかも。




