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数日後、我が家にドラゴネッティの龍騎士がやって来た。以前湖のほとりの温泉で会ったことのあるダンテだった。
ルヴェインになんか用かな、と思ったら、応対に出た私に
「妃殿下にこちらをお持ちしました」
と、手紙を一通差し出してきた。
この封蝋…。王様のに似ているけど、ちょっと違う。王家の誰かのもの?
宛先が、…レーナ・ガルディーニ。
実家の家名で来てる。これは私のことを認めないという姿勢なのか、それとも結婚できていないと思われているのか。ドラゴネッティの王家が、ルヴェインがここにいることや私たちが結婚したことを知らないとは思えないんだけど。
「私にだけ?」
「今回お預かりしているのは、こちらだけです」
ふうん。ま、いいか。
「今日はこちらの王都に泊まり、明日戻ります。もしご返信されるようでしたら、明日でしたら私がお受けできます。明日の朝、一度立ち寄りますので」
「わかった。ありがとう」
部屋に戻って封を開けてみると、ルヴェインの兄のラウル様とレティシア王女の結婚式の招待状が入っていた。
何故、招待状が私に? …私だけに??? ルヴェインこそ実の弟なのに。
封筒には招待状とは別にもう一枚紙が挟まっていた。
龍使い様にご相談したいことがあります。
アンジェラ・ドラゴネッティ・ジャッキオーロ
…誰?
ドラゴネッティ、とつくということは、恐らく元ドラゴネッティのお姫様。単純に考えれば、ルヴェインの姉妹になる。
お昼に戻ってきたルヴェインに
「アンジェラさんって、知ってる?」
と聞くと、
「…妹にそういう名前のがいる」
と返ってきた。
「『アンジェラ・ドラゴネッティ・ジャッキオーロ』って」
「妹だ」
ルヴェインは私が持っていた招待状と同封されていた紙を手に取った。
「…おまえに来いって?」
「結婚式の招待状が届いたんだけど、私の名前だけでルヴェインの名前がないの。…ローレンシアのレティシア姫、ルヴェインが脅したお姫様の結婚式だから、あえてルヴェインが呼ばれなかったとか、…そもそも国外追放中だから呼べないとか」
「だからっておまえだけを呼ぶのは妙だな」
「ルヴェインもそう思うよね。招待状だけだったらお断りしようと思ってたんだけど、龍使いとして呼ばれると行かない訳には…」
「ドラゴネッティにも龍に詳しい者は大勢いる。アンジェラとは別に面識ないだろう?」
名前も知らないくらいだし、
「ないけど…」
私の態度にルヴェインはふぅ、と溜め息をついた。
「…行く気だな」
「…できれば」
察しがいい。
「俺も行く」
「え?」
察しが悪い!
「ルヴェインは国外追放中でしょ? 一緒に行けるわけないじゃない」
「行く。俺が行かないならおまえも行くな」
出た。
「そんな無茶な」
「ドラゴネッティまで誰に乗って行く気だ?」
ここで龍を指名したら決闘になるな。とはいえ
「ルヴェインに乗ってドラゴネッティ国内に入ったら、その時点でアウトでしょ? 私はルヴェインを監獄に送る気はないんだけど」
お、黙った。ちょっと睨みながらも我慢してる。私の言いたいことはわかってくれたらしい。
「…手前のルドキアまでは俺が乗せていく。そこからおまえは他の龍と行けばいい。俺は一人でドラゴネッティに入る。…明日、使いが来たら話をつけておく」
駄目だ、わかってない。
「だから、ルヴェインはドラゴネッティに入っちゃダメなんだってば。わかってる?」
「俺として入らなけばいいだけだ」
ああ、もう。私も頑固だけど、ルヴェインの頑固さには勝てない。
翌日、私の「出席」の返事を取りに来たダンテは、腕を組んで待ち構えていたルヴェインに引っ張られ、十分ほど打ち合わせをしてドラゴネッティの国境に近い街ルドキアまで迎えを寄越してくれることになった。これでもかなり譲歩してくれていることはわかっていたので、私も何も言わなかった。
迎えに来る龍の条件を聞いてたら、ドラゴネッティの騎士の上位五頭に入る龍でないと無理だ。王族の結婚式で忙しいさなかに、何の無茶言ってるんだか。
いつも騎士隊に差し入れていた薬を何種類か箱に入れ、帰りに
「これ、差し入れ。よかったらみんなで使って」
と言って渡すと、ダンテはにっと笑い
「ありがとうございます。レーナ様の薬は龍向きに作られていて、よく効くんですよね」
と言って、一礼して受け取ってくれた。
「相変わらずですね、ルヴェイン殿下は。あなたのことになると本気になる。仲が良くてうらやましいことです」
そこでニヤニヤされてもねえ。
「無理を言ってごめんね」
「いえいえ、お役に立ててうれしく思います。では」
かくしてドラゴネッティ王国の王子の結婚式に突如参加することになった私。
夫の兄の結婚式とは言え、本来は招待する予定はなかったんだろう。招待状が一カ月前とか王族のお呼び出しとしては短いけれど、以前は三日前に夜会に呼ばれたこともあった。ドラゴネッティはそういうところなのかも??
式に参加するための用意は「私抜き」でされることになり、当日私は身一つで行けばいいとのこと。採寸もされてないけどドレスも準備してくれるらしい。お祝いの献上品の準備とか、向こうでの滞在先とか、私の気が利かない部分もフォローしてくれて、一人で行っても何とかなると思っていた自分を反省した。
こういう勢いで行動するところが、帰宅に半年かけるようなバカなことにつながっちゃうんだよね。それで得られたものも多いけど。
それにしても、会ったこともない夫の妹から相談って、何だろう。
ルヴェインも心当たりはないらしい。
「ノルドランシアの王家に嫁に行ったのが三年前か。里帰りはこれが初めてだろうな」
ルヴェインの兄弟はそろって美形だったから、きっとこのアンジェラ様も麗しい方なのだろう。
「一足先に国に戻っているのかもしれないな。誰かに俺の妻が龍使いと聞いて話でもしたくなったのか…」
「実質、アンジェラ様からの呼び出しってこと? 結婚式はついでで?」
「まあ、結婚式が口実というのはあり得るだろうな」
アンジェラ様はルヴェインと特に仲が良かったわけではなく、数えるほどしか話をしたことがないそうだ。それはアンジェラ様に限らずどの兄弟も同じで、他の兄弟と離れて祖父母に育てられていたルヴェインにとって、兄弟は疎遠なものだったらしい。
「ただ、おまえだけを呼び出したってのが、…気に入らん」
「いや、それはルヴェインが国外追放中で…」
「知るか。妻を呼び出すなら、夫である俺に事情くらい話しておくものだろう」
それはそうかもしれないけど。
ルヴェインは私のことを心配してくれてるんだろう。以前私はドラゴネッティでルヴェインの父である王様に意地悪されていたから、身内であっても安心できないんだろうな。




