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レーナがドラゴネッティを離れて三カ月後、ルヴェインもまたドラゴネッティを離れた。
元々国を出るつもりだったが、新たな王が中立であることを示すため、他国の王女を脅したことへの処罰として二年間の国外追放という理由をつけた。永久追放でも受け入れると言ったが、それを避けたのはほとぼりが冷めたら戻って来いという兄王の意思表示だろう。
ルヴェインはルドール王国に行くと、ここでレーナを待たせろと強引にガルディーニ家に押しかけた。ただ飯は食わせないというジュストに従い、引き続き龍の世話を手伝った。ルドール王から依頼を受け、騎龍隊の龍をしごく仕事も引き受けた。頼まれれば国境付近で荒ぶる龍の仲裁もしたが、説得するより一喝で終わった。便利に使われようと、ルドール王国に滞在することを認められるならそれでよかった。
ルドール王国に来てからも時々レーナの様子を見に行っていた。
声をかけることはせず、ただ見守るだけだったが、レーナが滞在する先に魔物がいれば、威嚇して追い払った。
死にかけの龍を龍の墓場まで導いたこともあった。
間もなく孵化する卵を前にレーナの部屋の窓を揺さぶり、龍舎へ導き、念願の孵化に立ち会わせたこともあった。レーナが喜べば嬉しい。しかしレーナが喜んでいても他の龍を世話する姿を見ているとむかついてきて、矛盾する気持ちをどう収めればいいか悩まずにはいられなかった。
旅人の振りをして同じ駅馬車に乗り、何度か途中まで一緒に移動したこともあった。駅馬車の揺れに居眠りをし、じわじわともたれかかってきたレーナの重みに嬉しさを感じつつも、自分とも気が付かずたまたま隣にいた乗客に寄りかかって寝るこの不届きな女をどうしてくれようか。今すぐ咥えて連れて帰りたくなる気持ちを抑えるのが大変だった。
もうすぐ戻って来る。
ドラゴネッティにいた時とは違い、少しづつ自分の元へ近づいてくる。
ようやくすぐそばの街までたどり着いたレーナが口笛を吹いた。
龍を呼ぶ口笛を聞き、龍舎の龍たちが一斉に顔をあげた。それをひと睨みして威嚇し、フェルモに怒られようと気にすることなく自分だけが空へと舞いあがった。
まず謝ろうか。
あの日、痛む頬をいたわることもできなかった愚かな自分を。
忙しさを理由にずっと一人にしてしまったことを。
しかし、空からその姿を見た時、思ったのはただ一つ。
もう離さない。
急降下して、捕まえ、空を飛び、下ろせと言われるまま下ろして、背中で受け止めて…
ずっと待っていた。どんなに悪態をついても、それは言いたかったことじゃない。一番伝えたかったのは、
「会いたかった」
その一言だった。
久々の再会をあんなに乱暴に扱ってしまったのに、レーナは自分を受け入れてくれた。
ふと、恐い思いをした後に愛を語るとより相手の心を射止めやすくなる、と兄のラウルが言っていたのを思い出した。人の心とはそういうものなのかもしれない。しかしこれからはもっと大切にして、大事に守っていこう。ずっとそばにいるのだから。
レーナにどんな覚悟をしてみたか聞かれたルヴェインは、こう答えた。
「俺はおまえの龍だから、おまえのそばにいる」
「…それだけ?」
「それ以上に何がいる」
そう言いながらも、ルヴェインにはそれなりに「覚悟」はできていた。
家の全ての龍に乗りたいと言っても反対せず、近い距離ならどんな龍に乗ることも邪魔することはなかった。しかし遠出する用事がある時は立候補してきた龍達とガチで競い合い、その権利をいつもルヴェインが勝ち取った。
あまりの大人げなさにアンバーが怒っても決して譲ることはなく、やがてアンバーはルヴェインを師匠と呼んでついて回り、自らを鍛え、後にルドール王国一の飛び手となった。
龍の孵化に立ち会う機会もあった。またしてもレーナは見逃しそうになったが、ルヴェインが声をかけた。自分から声をかけながら不機嫌で、そのくせ一緒に孵化を見届け、レーナの喜ぶ顔を見ればすました顔に戻った。子龍はレーナには甘えて時にわがままを言い、言うことを聞かないことも多いが、ルヴェインには素直に従う。この龍舎では一番下から脱していないことにレーナは悔しく思ったが、
「レーナはそれでいいんだ。龍には甘えられる存在も必要だろう」
と言われれば、悪い気はしなかった。
「嫌なら、従わせてやろうか?」
ルヴェインの申し出は、笑顔でお断りされた。
他の龍に手で木の実を与えてもルヴェインが怒ることはなくなったが、放っておくと拗ねて口を利かなくなるので、機嫌を取るためいつも一番真っ赤に熟れた実が取り置かれていた。
差し出されるその実を口に含んだ時、ルヴェインは龍使いをつがいにした喜びをかみしめるのだった。
お読みいただき、ありがとうございました。
誤字ラ出現ご連絡ありがとうございます。
各章のタイトルには
第一章龍
第二章龍龍
第三章龍龍龍
龍の数で遊んでます。
この後二人は両国を行き来しながら仲良く暮らす。
そんな夢想を描きつつ。
最後、おまけの蛇足
偉そうなことを言いながら、一番覚悟できていなかった人の話
(あちこち伏線回収したら、500字が3000字に…)




