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レーナを見つけて、最初にするべきことは責めることではなかった。
レーナが自分から誰かに突っかかっていくことはない。あんな姿でいたのはここにいる女たちがレーナに仕掛けたからだ。それなのにレーナを気遣うこともせず、自分でない誰かの背に乗ったことに嫉妬し、レーナを責めた。
自分は他国の王女を連れ、その手を取り、本来婚約者にこそ捧げるべきファーストダンスを他の女と踊りながら、たった一人で龍人に立ち向かうレーナを責めたのだ。
つがいでありながら味方につくどころか、レーナが立ち向かう龍の一頭になってしまった。
「ルヴェイン殿下」
会場の警備をしていたフラヴィオが駆け寄り、片膝を着いて深く頭を下げた。
「申し訳ありません。レーナ様を乗せたのは私です」
ルヴェインの怒気に震えながらも、フラヴィオは言葉を止めなかった。
「レーナ様がお一人で温泉地まで歩いて来られ、そのままお帰りになるとおっしゃいましたので、お送りすると私から進言したのです。レーナ様はお断りになりましたが、午後も遅く、歩いて戻れば日が暮れてしまいます。乗せると殿下に叱られるからつかんでもいいとおっしゃったのですが、そんなことはできないと私が無理を申し上げたのです。レーナ様が悪いのではありません。どうか、罰するなら私を…」
フラヴィオはレーナをルドール王国まで迎えに行った時の従者だ。道中もこの国にいる間もレーナを守ることを最優先するよう命じていた。自分がフラヴィオの立場であったとしても同じことをしただろう。温泉地から王城までの距離や高低差を考えれば、歩いて戻ることを容認できるわけがない。
「そうか。…ご苦労だった」
温泉地から鍛錬場までの、飛べば大したことのない距離だ。それでも共に空の旅をしたことをうらやましいと、それが自分でないことを悔しいと思えてならない。
龍使いを嫁にする気があったなら、
それくらいの覚悟はできて当然でしょう
ルヴェインはテラスに出ると龍になり、飛び立った。
いらだつ思いのまましばらく飛び続け、どうしたらいいのか考えていた。考えても考えてもわからない。最後に残った想いは、レーナに会いたい。それだけだった。
周囲が寝静まるのを待って風の宮に戻り、人の姿になってレーナの部屋に入った。部屋は草の匂いがした。
目を覚まさないよう注意しながら頬に触れ、熱を持った頬から腫れと痛みを取り除いた。魔力を癒しに使ったのは初めてだった。
つがいであればそばにいるのは当たり前だと思っていた。失うことなどないのだと。
あなたの覚悟を聞かせて
…手放したくない。絶対に。
ルヴェインは再び外に出ると、龍の姿になり、もう一度夜空に飛び立った。
向かった先はルドール王国だった。
夜通し飛び続け、次の日の昼過ぎにガルディーニ家につくと、龍の世話をしていたレーナの兄ジュストに声をかけた。
「龍使いの仕事を見せてほしい」
レーナも連れずに一人で来て、いきなりの申し出にジュストは少し困惑しながらも、わがままで妹を振り回す龍の男の真摯な頼みを無下にはできないと思った。
「それじゃあ、手伝ってもらいましょうか。覇気はひっこめて愛情深くお願いしますよ」
そう言うと、ルヴェインを龍使いの見習いとして遠慮なくこき使った。
龍達も気を遣いながらもそれなりに世話を受け、若い龍達は覇気を隠したルヴェインの身分に気づくこともなく、わがままを言ったりからかったりした。
かつては四人いたガルディーニ家の兄弟も今は二人。父母も総出で龍の世話をし、忙しそうではあったが愛情深く、ここの龍たちはおおらかでいたずら好きだ。
レーナがみんなにあげるからと摘んできたグミの実を他の奴にやるのが腹立たしく、強引に食べたことがあった。
籠を取り上げられ、半分は龍舎の龍達に持っていかれてしまったけれど、ずっと待っていた卵の孵化も忘れて龍のために懸命に実を摘む姿を思い浮かべ、自分も家の龍も同じようにかわいがっていたレーナを思い出した。
私は龍使いになるんだから
自分への愛情もまた、その夢から生まれたものだ。
それを独占欲で奪い、無理を言い、それでも困った顔をしながらもいつだって受け入れてくれた。
次は、自分が受け入れる番だ。
一週間ガルディーニ家で龍使いの見習いとして過ごし、ようやくレーナへの答えを胸に国に戻ると、そこにレーナはいなかった。




