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龍つかいの憂鬱  作者: 河辺 螢
龍つかいの龍の寵愛
22/49

3-4

 そんな中、以前から決まっていたローレンシア王の表敬訪問に突然第二王女が同行することになった。父王から王女の相手を命じられ、夜会でエスコートすることになった。王女には面識はあるが、先方から指名されたからと自分がその役を務めなければいけないのが納得いかなかった。しかし父王は他の兄弟との交代を許さなかった。

 自分を見た王女が顔を赤く染める。よくある反応だった。今ここで龍になっても同じ顔でいられるのか試してみたかったが、国の交流のために来ている来賓だ。我慢するしかなかった。

 自分には婚約者がいることを話したが、妙な同情を寄せられた。どうも噛みあわない。絡めてくる指をほどき、腕を取り体を摺り寄せて来るのに吠えたくなる気持ちを抑え、会場まで連れて行けばダンスまでしろと言ってくる。

 女性の申し出を断るのは恥ずかしいことだ? こんなことを申し出てくる方がよほど恥ずかしいんじゃないのか?

 納得いかないながらも外交の場を取り壊す訳にもいかない。手を取り、フロアの中心まで導き、ステップを踏む。周囲から感嘆の溜め息が漏れるが、上辺だけの虚しい評価に気持ちがいらついた。


 会場の端で龍人の女たちがたむろしているのが目に映った。

 何かを叩く音。周囲がざわつき、その先にいた小柄な人間は、自分より一回りは大きい龍人を前にしても少しも怖気づいていなかった。

 あれは、…レーナ?

 何故夜会に参加している? レーナが参加するならエスコートするのは自分だ。誰に誘われて来たのか。

 ダンスを中断し、王女の手を離してレーナの元に向かった。


「ぜひ教えてください。龍に効く媚薬があるなら。そしたら、言うことを聞かない龍にも、わがままばっかり言う龍にも媚薬を盛って、みんな私に従うようにしてやります。私は龍使いですから」

 自分を媚薬で釣ったとでも言われて怒っているのか。くだらないことを言う。周囲にいる女たちの愚かさに腹が立った。


「あなたは薬で惚れさせられてほいほい従うようなつまらん龍をすてきーっとか言ってる訳ですね。婚約者がいても他の女の手を取るような男がかっこいいわけだ。見た目が美しいのが一番で、高貴なお方なら婚約者がいようと略奪する女を応援する。この国の龍は身分に迎合するんですね。私の国の龍はそんなこと許しません。ずっと誇り高く誠実です。この国の龍の貞操観念なんてその程度のものなんだ。何が龍は一生一つがい。…鼻で笑うわ」

 それは、…今の自分を見て言っている言葉か。

 婚約者がいても他の女の手を取るような男。レーナには、今の自分がそう見えているのか。

 身分に迎合する龍。レーナよりもレティシア王女を選んだと?

 自分が選んだわけではない。むしろ辟易しながらも仕事としてこなしているのに、そんなこともわからないのか。レーナはもっと自分のことをわかってくれていると思っていた。

 ルヴェインの怒りの矛先がレーナに向けられた。


「あなたが他の龍にも食べ物を手で食べさせているのはわかってるのよ」

「当然でしょう。私は人間で、龍使いです。手で物を食べさせるのは当たり前です」

 当たり前? 自分以外の龍にも手で食べさせることが?


「他の男のもとに頻繁に通ってるのだって、みんな知ってるわ」

「果物屋さんですか? 薬屋さんですか? 龍医さんですか? 龍を育てるためなら男だろうと女だろうと、どこだって行きます。それの何が悪いと?」

 自分がいない間、街で男たちと会っていた。他の男に会いに行き、笑顔を振りまいていたのか。その姿を思い浮かべるだけで怒りが抑えられない。


「他の龍に乗って飛んでるのを見た者だっているわよ」

 他の龍に? 乗った?

 腹立たしさに頭に血が上り、レーナを問い詰めた。

「他の龍に乗ったのか」

 しかしレーナは悪びれもせず、目をそらすどころか睨み返してこう答えた。

「ええ、乗りました」

 それはルヴェインにとって裏切りだった。

「他の龍に乗るなと言ったはずだ」

 湧き上がる怨嗟に言葉が荒れる。しかし

「龍には命じることができても、私には命じることはできない。私は龍使いなんだから」

 あれほどまでに自分に甘く、何でも許してくれたレーナがはっきりと歯向かった。

 それは強い意志を持ち、揺らぐことのない本心だった。声を荒げることもなく、それでも伝わってくる強い怒り。

「…私は龍使い。龍にだって乗る。卵の世話だってする。手で果実をあげるし、オスもメスも分け隔てなく育てる。龍使いを嫁にする気があったなら、それくらいの覚悟はできていて当然でしょう」

 当然?

 龍に乗り、世話をし、手で口まで木の実を運ぶ。

 それは、つがいである自分だけに与えられた特権だ。

 握りしめた拳が震えた。

 周りの者達が皆ルヴェインの怒気に恐れおののき、身をすくませている中、レーナはまっすぐ自分に目線を向け、言葉を続けた。

「あなたが待つように言った三年間、私が抱いた覚悟は、あなたという龍を育て上げる龍使いになること。それを否定するなら、もうあなたといる意味はありません」

 つがいであることまで否定する、小さな人間の女。

 改めて見れば、周囲にいる龍人の女たちと争ったのか、髪は乱れ、ドレスを汚され、頬は赤くなっている。それなのに、ひるむことなく自分の信念を語り、強い目をしたこの人間を美しいと思った。自分を世話し、甘やかしてくれる優しいレーナとは違う。それでもなお魅かれる。惹きつけられる。

「そんな覚悟も持てない相手など、私にはいりません。…あなたが本気なら、あなたの覚悟を聞かせてください」

 そう言い残し、会場を立ち去るレーナを追うことができなかった。

 問われた覚悟に答えを持たない者には、レーナをつがいとして手に入れることはできない。

 運命という言葉に甘えていたのでは、大切なものを捕まえておくことはできないのだ。


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