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龍つかいの憂鬱  作者: 河辺 螢
龍つかいの龍の寵愛
20/49

3-2

 暖かな手が自分を撫でている。心地よい優しさで何度も、何度も…

 はっと目が覚め、気が付けば見知らぬ部屋にいた。籠の中に寝かされ、目の前には大きな人間の女。…いや、自分が縮んでいる。これでは子龍だ。

 目の前の人間が自分に向かって懸命に笑おうとしているのが媚びを売っているように見えた。準備されている食事は小さくなっている自分には食べにくい大きさだ。キャベツを丸ごと? 気が利かない奴だ。

 思ったままを口にすると、取り繕っていた笑顔があっという間に消えた。ルヴェインのきつい口調にタジタジになりながらも、勢いに乗るとポンポンと返事を返し、嫌みを言えば怒り、礼儀を知らないと責めれば謝ってきた。その素直さがここは安全な場所だと思わせた。

 思わず助けてしまった人間の女。人間になど興味はないはずなのに、そばにいても不快じゃない。人間に対してそんな思いを抱いたのは初めてだった。


 その人間は龍使いを目指していて、家の外には龍舎があり、数匹の龍がいた。自分が寝ている間その龍たちの世話をし、卵がかえるのを心待ちにしている。それが何だか不愉快だった。

 間もなく卵が孵化する。その日にどうしても木の実を食べたいとわがままを言った。押しに弱く、龍に甘い人間は折れ、木の実を取りに森に出かけた。

 卵にとっとと生まれろと睨みつけると、雛龍は察して殻を叩き始めた。そしてあの人間が帰ってくる前に生まれ、そこにいた別の人間を見てこれが自分の世話をする者だと認識した。戻ってきた人間が自分を選んでほしいと強く願うほどに、引き離されると勘違いした子龍は怯え、なつかなくなった。

 予定通りだった。それなのに落ち込んだ人間が泣くと無性に腹が立った。人間が子龍に気を回すことはなくなった。自分の望み通りになった。それなのに悲しむ人間を見ているのがつらい。泣き声がうるさいと思う。それなのにそばにいてやりたい。

 おまえの龍だと思って、俺の世話をすればいい。

 気が付けば、そんなことを口にしていた。自分が人間の龍になることを望むなどと思いもしなかった。


 ケンカしながらも一つの寝床で寄り添って眠り、手づから餌をもらう。傷は丁寧に手当てされ、ブラッシングは優しく、手で撫でられるとさらに心地いい。無理を言っても聞いてもらえ、わがままを許され、自分の荒い言葉遣いを恐れることなく、時に反論しながらも最後は甘やかしてくれる。

 それは、夢のような生活だった。

 人間を軽んじる思いはなくなっていた。


 龍を呼ぶ口笛を耳にした時、自分の身を守るために引きこもっていたことも忘れ、迷わずかけつけた。なかなか姿が見つからず焦ったが、人間と一緒に捕まっていたという龍が現れ、密猟者を探していた王城の騎龍隊も加わった。攫った相手が自分を狙っていた密猟者でも引き下がりはしない。小さくなったこの体でも必ず助ける。そこに揺らぎはなかった。満足な動きが取れなくても、そばにいられたことが嬉しかった。

 お互いの無事を確認し、抱き合って喜びながらはっきりと確信した。これが魂のつながった者だ。これが求めていたつがいなのだと。運命の相手に巡り合えたことが何より嬉しかった。


 だが、相手は人間だ。

 自分は人になれる龍。より長く共にいたいなら、龍と人であるより、人と人として生きるべきだろう。

 ずっと人となることを望まなかったルヴェインには、成人を望むには時間が必要だった。少なく見積もっても三年。それは人にとって長いだろうか。

 国に帰り、龍使いをつがいとして迎えたいと言えば、父王はすぐに婚約の手はずを整えた。そして人型になって生きるならそれなりに王族としての役割を果たせと、数々の仕事を押し付けてきた。

 レーナと共に生きるため、与えられた仕事をこなせばこなすほど、父王の要求は上がっていった。


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