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龍つかいの憂鬱  作者: 河辺 螢
龍つかいの逆襲
14/49

2-4

 一応なりとも、三年の月日を経て結婚するためにここに来たのだけど、一月半が過ぎても正式な式の日程は決まらないままだ。ルヴェインに

「もう少し時間がかかりそうだ。待たせてすまない」

と素直に謝られ、ちょっとびっくりした。

 ルヴェインの様子を見ていると、どうもこの結婚を反対されているように思えた。本人が気に入り、連れてきた「つがい」ながら、現物を見て王族として迎えるには難ありと思われているのかもしれない。それならそれで今後どうするか相談するなり、とっとと解消するなりしてほしいところだけどそれもなく、どうしたいのかわからない。気ままにあちこちうろつけているからまだいいけど、ずっと風の宮にいろと言われていたら、イライラが溜まって暴れちゃうところだ。

 わがまま放題だと思っていたルヴェインが顔をしかめながら忙しそうにしているのを見ると、王族って大変だなあと思う。

 龍は本質的に気ままで気まぐれ。覇気をもって他族に恐れられ、気高く、見下されることを嫌う。

 そんな龍を制し、時になだめ、励ましながら友として、家族として力を借りる。それが私の祖国での龍使い。

 龍が治める国で人が暮らすには、それこそ姉のように龍にモテ、兄のように龍を操る人材が望まれたのだろうけど、私は龍使いとしても力が足りず、人としてもさほど秀でたところがある訳でなく、何かにつけて凡庸だ。

「中途半端な私みたいなのを選んじゃうから」

 茶化しながら笑って言ったのに、ルヴェインはむっとした顔をした。

「俺はおまえだから結婚する気になったんだ。誰でもいいんじゃない」

 そう言うと、ルヴェインは手にしていたティースプーンを折ってしまった。

 これはかなりストレスが溜まってるな。私がらみで困らされていることがあるなら、ちょっと申し訳ない。そうまでして私を手に入れたいと思うのは龍の性なのか、つがいへの執着なのか、よくわからないけど…

 ちょっと退席して、部屋から鞄を取ってきた。

 今日摘んできたサクランボ。後でテオに渡そうと思っていたんだけど。

「多分、好きだと思うんだけど。…食べる?」

 本当は食べたいだろうに、素直にうんと言わないんだよね。人型の麗人になっても、拗ねるところは変わらない。

 隣に座り、

「はい、どうぞ」

 指先に実をつまんで口元まで持って行くと、わずかに迷った素振りをしながらも二秒後にはパクっと口に入れた。

「種があるよ」

「…ん」

 さすがにその場に吐き出すことはなく、近くにあったお皿の上に種を出した。三年前は私の部屋に遠慮なくぺってしたのを思い出して笑ってしまう。

 そして口を開けて待っているので、そのままもう一つサクランボを運ぶと、そのまま手をつかまれ、サクランボを飲み込む口が指先に触れて、実を飲み込むままそっと指の先を吸い込んだ。

 指先を、手の甲をゆっくりと唇が触れていく。

 今まで感じたことのないぞわぞわっとした感覚が背中を走った。思わず手を引こうとしたけど、離してくれない。

 ふと見上げた視線が私と重なると、ルヴェインはサクランボを一粒指先につかんだ。

「おまえも喰ってみろ。甘くてうまい」

 さっきまでのピリピリしていたのはどこに行ったのか、少しシャイな笑みを浮かべながら私の唇にサクランボを押し当てた。

 そっと口を開けると指先でそっと押し込まれ、ゆっくりと噛むと甘酸っぱい果汁が口の中に広がった。いつも食べてる味、ついさっきも摘みながらつまみ食いしたのに、何か違う。ドキドキする。

「ずっと、レーナに食べさせたかった。俺ばかりがもらうんじゃなくて…」

「…ちょっと恥ずかしいね」

 口に残る種をそっと出すと、ルヴェインの出した種が乗っている皿の上に乗せた。転がって、二つの種が寄り添い合う。

「ようやくここまで連れて来たのに、一緒に暮らしているとは思えないくらいレーナが足りない。こんなにそばにいるのに…」

 腕が私の背中に回され、強く引き寄せられた。

 龍だったルヴェインがそばに寄り添ってくれたことはあったけれど、こんなふうに抱きしめられたことはなくて、家族以外ではあり得なかった距離に、温度に、匂いに鼓動が早まっていく。

 ルヴェインなりに弱音を吐いてるんだろうな。思い通りにならないことがいっぱいあって、その中には、私がらみのことがたくさんあって…

 ルヴェインの背中に手を回して、そっと背中を撫でてみた。くすぐったいのか小さな笑い声が聞こえてきたけど、嫌がってはいない。

「もう少しだけ頑張るよ。それでも無理なら、おまえを連れて国を出る」

 励ましたつもりなのに、何か穏やかでないことを言い出した。

「それは、私はこの国に受け入れられないってことだよね」

 返事がないのはそういうことなんだろう。でもルヴェインは王族。周りから殿下と呼ばれる人だ。そう簡単にこの国を離れることはできないはず。

「例え何があっても、俺と一緒にいてほしい」

 私に、この国を敵に回せと言っているよ。すごいこと言うなあ…。

「それは、その時に考えていい?」

 そう答えると、肩を持って少し引き離されて、じっと睨まれた。ルヴェインが欲しかった答えじゃなかったんだろう。

「考えるのは自由だ。だが、…逃がしはしない」

 そんなことを言いながらも何故か笑っていて、近づいてきた顔が私の唇を食べた。

 驚いてルヴェインの顔をまじまじと見つめると、

「人間は給餌よりこっちだったな」

 そう言ってもう一度私の唇をついばみ、ゆっくりと重なっていった。


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