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人型から一転、龍に戻ったルヴェインにひょいと襟首を咥えられ、ポイと放り投げるように背中に乗せられると、そのまま私はドラゴネッティ王国に向かうことになった。
サファイアと違って荒々しく、スピードもあるルヴェインの背中。でもちゃんと私が落ちないよう手綱をつけてくれていた。周りの従者には、
「あのルヴェイン殿下が手綱の装着を許すなんて、何の奇蹟だ」
とかなり驚かれた。私としては、鞍も欲しいところだけど…。
出発が遅かったのもあり、その日は途中の大きな街で宿に泊まった。王様が住んでいるのかと思わせるほどにきらびやかで、私のような庶民には場違いな宿だった。これまた私のために用意してくれたようで、普段なら少々遅くなっても夜通し飛んで強引に国に戻るのだそうだ。従者の皆さんにすごーっく、感謝された。
翌日の昼にはドラゴネッティの王都に着き、空からそのまま王城内に降りてしまうこの凄さ。ルヴェインは着地寸前で人の姿になり、持っていた手綱がぐにゃりと力をなくして急降下。慌てていると、空中で受け止められ、抱きかかえられて着地というこの恐ろしさ。
「あ、あ、アクロバットなの、いらないから。普通に降りてくれればいいから」
ルヴェインはあんな長距離を飛びながら、平気な顔でにやりと笑った。
「疲れただろう。すぐに休めるよう、家に案内しよう」
そして、抱きかかえられたまま城内を歩かれるというこの公開処刑。
周囲がざわめき、視線が集まる。
あの、が付くルヴェインが連れて来たのが、普通の人間。普通過ぎるほどに普通の庶民の人間。
つぶやかれる声が耳に滲みるけど、聞こえていない振りをしよう。
案内されたのは、王宮から少し離れたところにある風の宮と呼ばれる建物で、私とルヴェインの住居として用意されていた。料理人がいてご飯を作る必要もなく、お掃除も洗濯もしてもらえるぜーたくな身分。
私専用の個室も用意されていた。隣はルヴェインの部屋らしく、ドアで直接つながっているけれど、正式に結婚するまでは施錠されている、と説明を受けた。…なるほど。小さな龍だった時はベッドの領域を争いながら一緒に寝てたけど、人型同士でそれが公認されるにはちょっと早いってことね。正直ほっとした。あの美形といきなり寝床を一緒にするなんて、想像しただけで胃が痛くなる。
私付の侍女が二人いたけれど、侍女なんてついていたことがなく、何をしてもらえばいいのかわからない。そろって無表情なジェナとアルマ。どちらも挨拶しても黙礼して終わった。
クローゼットにはひらひらしたドレスが五着ほどかかっていたけれど、どれも動きにくそう。
夕食前にドレスに着替えるよう促され、髪を整えるためにブラッシングされたけどそれが結構痛い。侍女って結構荒っぽいな。龍のブラッシングでももうちょっと気を遣うもんだけど。
ダイニングでルヴェインと対面してとる食事は、何か変な緊張感があった。
自分用のお皿にこじんまりと盛られた、見たこともないような料理。
貴族の家はこういう食事が普通なのかもしれないけど、家では夕食はお皿にたっぷり乗ったおかずを分け合い、お肉が出た時は兄たちと奪い合い、ケンカしながらも楽しく食べる。食事はいつだってにぎやかだった。
我が家でルヴェインのために果物を切ったり、キャベツやレタスをむしったりしてたあれは何だったんだろう…。ずいぶん失礼なことをしていたのかもしれない。龍だと思っていたから、龍として接してただけだけど。
見目麗しき未来の夫と、美麗な食事。喜ぶべきなんだろうけど…、疲れる。
「しばらく仕事が立て込んでいて、食事も一緒にとれないことが増えるだろう。不自由があればクリフに相談を」
この家の侍従長であるクリフさんがそっとおじぎをした。
「あとこれを」
ルヴェインがクリフさんに手で合図すると、細長い箱が差し出された。開けてみると、黒い石のついたペンダントが入っていた。
「龍の中には、人の見分けがつかない者がいる。それをつけておけば俺の輩下だということがわかる」
輩下…。うーん、嫁は輩下なのか。
「お城の中を散策するときはつけておけってことね」
「…あんまり変なところ、入るなよ」
「はーい」
私のこと、よくわかっている忠言だ。それなら、その忠言があまり意味を持たないことも知っているだろう。




