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ルヴェインが国に帰ってから、いろいろと変化があった。
何より嬉しいのは、家の龍が私を乗せてくれるようになったこと。
乗せてくれるのは一番の古株のサファイアだけだけど、飛行は安定してるし、私の下手な操縦を上手にフォローしながらどうすればいいのか教えてくれる。他の龍は口笛には反応してくれるようになったけど、いざ乗ろうとすると逃げてしまう。信用ないのかなあ。どんな龍にだって乗れるようになりたいのに。
ラウレッタと一緒にお世話をしているうちに、ラウレッタの担当の子龍たちが私にもなついてくれるようになった。そして一年後、ラウレッタの子龍のうち、最初に孵化を見逃したアンバーを私がお世話することになった。ラウレッタが結婚し、家を出ることになったからだ。
お相手は何とカルリ家のシモーネ。あのアデリーナの兄だ。しかも親が決めたんじゃない、恋愛結婚だって。二人がそんな仲だったなんて知らなかった。
龍使いの家としてはうち以上の家格のある家だし、ラウレッタの龍使いとしての実力からしても申し分ないだろう。しかし、あのアデリーナと姉妹になるのか。どうせまた会うたびにバカにされるんだろうなぁ。
アンバーはうちに残ったけど、もう一頭の子龍、一番小さいベリルは母龍と一緒にカルリ家に行くことになった。ちょっと寂しくなったけど、代わりにカルリ家から新たに若い龍が来て、古参の龍たちに冷やかされている。
ラウレッタがいなくなった分、龍舎でお世話する範囲は広がった。私のことをバカにしていた龍たちもお世話する人が減って寂しくなったのか、からかいながらも多少は私の言うことを聞いてくれるようになった。
ルヴェインからは時々手紙をもらった。龍は手紙なんて書けないだろうから龍使いにでも代筆させているのかな。内容は「元気か」くらいでそっけなかった。返事は書いたけど、誰かが代読するだろうから、まかり間違って王様が読んでも大丈夫なように礼儀正しく差し障りのないことしか書かなかった。
三年後に来るって言ってたけど、龍は龍同士本当のつがいが見つかることもあるだろう。そうなってもおめでとうと言える心の余裕はあるし、私とルヴェインの友情は変わらない、そう思ってる。
龍使いにとって最初の龍はそれこそ龍にとってのつがいに匹敵するほどに信頼関係を築くもの、らしいから。
…あのルヴェインと? 信頼関係? ぷっ。なんか違うなあ。
かくして三年後、約束通りドラゴネッティ王国から迎えが来た。
やって来たのはルヴェイン本人だった。艶やかで立派な黒龍になり、金色の目がひときわ輝いて、いわゆる龍の世界のイケメンだ。龍舎の龍たちがみんな緊張感を増している。
「久しぶり。元気だった?」
もはや抱っこどころか、顔だけで私の腕じゃ回らないほどに大きくなったルヴェインは、
「おまえは変わらないなあ…」
と言って、すりっと頬をすり寄せてきた。
「本当に私をドラゴネッティに連れて行くの?」
「当然だ。でなければ俺がわざわざここまで来るか。…準備はできているな?」
いわゆる「婚礼」の荷物は先方で用意するから不要と言われていて、持っていく荷物は当面の服程度。
アンバーももう子龍とは言えないほどに育ち、私がいなくても大丈夫。後は兄たちが面倒見てくれることになっている。我が家でこの婚姻に反対する人はいない。一緒に行きたがる龍もいない。私の旅立ちには、何の問題もなかった。
「俺が乗せていくからな。龍の乗り方はサファイアから習ったな?」
「うん、大丈夫」
「他の龍には乗ってないだろうな」
「乗ってないも何も…、誰も乗せてくれないし」
「よし、ここの連中にはお前を乗せるなと言っておいたからな」
いつの間にそんなことを。腹立つなー。そんな命令してるならそう言ってくれれば落ち込まなかったのに。
つがいは唯一の龍のお世話をすればいいのだろうか? 龍は結構嫉妬深そうだけど、できればいろんな龍のお世話がしたいな。
「ルヴェインの家には、他にも龍がいる?」
「ああ、たくさんいる」
「そしたら、孵化に立ち会うチャンスもあるかな」
そう言うと、鋭い目で睨まれた。
「子龍への刷り込みなど、何度でも阻止してやる。おまえは俺の世話だけしていればいいんだ」
…何度でも? それって…
「もしかして、…三年前、わざと孵化に立ち会えないよう邪魔した?」
「当然だ」
く、…な、何て奴! 私がどれだけ泣いて落ち込んだと思って…
「子龍だろうと、おまえに近づく男は許さん」
確かにベリルは男の子だったけど、違うでしょ!
はぁ。…龍ってわからん。
「出発前に、ご両親に挨拶をしなければな」
なんか嫁入りっぽい会話になってきた。龍の世話をするとは言え、遠くよその国に行くんだもんね。
「呼んで来るね」
「いや、俺から行こう」
「その体で家に入れる訳ないじゃない」
笑って断ろうとしたその時、ルヴェインの体は光に包まれ、その光が凝縮されたかと思うと…
に、にに、人間! 人間に、
「化けた!」
「人聞きの悪いことを言うな」
あのルヴェインが、人型になってる!
しかも、お、お、恐れ多いほどに、…か、かっこいい。どストライクだ。
闇よりも深い黒い髪、金色の目。面長で端正な顔つきで、優しげとは言えないけれど、その表情が私を見つめてそっとゆるむ。
どうしよう、見てるだけでドキドキする。見た目。見た目だけ、だけど…
「ドラゴネッティの王族は皆龍にして人だ。知らなかったのか? 成人すれば安定して人型でいることもできる。人であるおまえを選んだからこそ、成人を待って迎えに来たのに…」
「し、知らないも何も…。そんな姿、見せなかったじゃない」
「あの時は毒針のせいで人型になれなくなっていたんだ。だが、いい機会だったとも言える。例え人型にならなくても、瘴気に侵されたあの色でも、子龍のように縮んでも俺がいいと言ったのはおまえくらいだ」
いいって、言ったっけ?
言った? 私?
「俺の見る目に間違いはなかった。やっぱり俺のレーナだ」
きゃーーーーっ!
笑顔が破壊的!
この人、絶対私のそばにいるような、そんなレベルの人じゃない。私にはぜいたく過ぎる。
夢だ。…これは絶対に夢だ。
あり得ない。
ルヴェインに手を引かれ、我が家に入る。
父と母、二人の兄と姉夫婦が私たちを笑顔で迎えてくれる中、冷やかしに来てたアデリーナが目をむいたまま固まってる。
私、一生龍のお世話をする覚悟だったんだけど?
わ、私、本当にこの人のお嫁さんになるんですか??




