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龍つかいの憂鬱  作者: 河辺 螢
龍つかいの憂鬱
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「次に生まれた龍は、おまえが世話をするんだぞ」

 間もなく孵化しそうな卵を前に、父がそう言った。

 ようやく私の番が巡ってきた。私も龍使いになるんだ。



 我がガルディーニ家は、龍使いの家系。家には龍舎があり、成龍が八頭、子龍が三頭いる。

 龍は気まぐれでプライドが高く、見習いの龍使いはバカにされることが多い。

 私は四人兄弟の一番下で、父母や兄弟と一緒に龍を世話してきたけれど、龍たちは私が家で一番下であることをよく知っていて、他の家族の言うことはすんなり聞いても私の言うことはあくびをして無視することなど日常茶飯事だった。もちろん龍は私を乗せてくれないし、龍を呼ぶ特別な口笛を吹いても無視される。

 だけど、ようやく私にも自分の担当の龍ができる。


 私はこれまで二度も担当の龍を逃していた。

 一度目は間もなく孵化する寸前で王家に譲ることになり、母龍と共に我が家を離れてしまった。あの子龍は第三王子が世話していると聞いた。まあ、実際に世話しているのは王宮の龍使いだろうけど。

 二度目はおつかいで家から離れている時に孵化し、その場にいた姉にすっかりなつき、私を見ると姉や母龍から離されると思ったのか泣き出してしまった。姉が担当していた龍は大人しく、新しい子龍とも仲が良かったので、そのまま姉の担当になってしまった。

 仕方がないことだけど、それも運命と言われてしまうと、私は龍使いになる運命にないんだろうかと心配になってしまう。

 今度こそ、私がお世話する龍を手に入れるぞ!


 もちろん、担当がないからと言って龍のお世話をしない訳ではない。家をあげての龍使い。他の家族が担当の龍だってみんなで面倒を見ている。

 好みの木の実や、薬草になる草の採取も大事な仕事。龍たちはどんなに私のことをからかっても、私が採ってきた草のことはちゃんとわかっていて、滅多に手に入らないおいしい草を食事に添えると喜び、お礼のように

「くう」

と小さな声をあげてすり寄って来る子もいた。

 食事を好き嫌いするようなわがままな子には、とっておきのおやつを目の前でちらつかせながらもあげずにじらす。母龍に泣きつこうとあげるのはきちんとご飯を食べてから。苦手なものも三口食べたら、おいしい木の実をそっと出す。その時は満足顔でも私への不満を兄にきっちり伝える子龍は、兄は味方だと思っているのだろう。龍と龍使いの信頼感をうらやましく思った。


 間もなく孵化する卵を思い、今度こそそばにいようと遠出を避ける毎日。

 しかし、必ずしも近場にいい草がある訳でなく、父が今日はまだ生まれないだろうと言うのでそれを信じて森に行くことにした。


 龍は草食派もいれば、肉食派もいる。好きな草もそれぞれ違うけれど、体にいい草、悪い草は共通している。それぞれの好みを考えつつ薬草も探す。

 崖の途中に珍しい花を見つけた。あれは、ヒメグラシ草ではないかな? 瘴気を含んだ傷によく効くはず。

 籠を足元に置き、ヒメグラシ草の生えているところまで岩を伝って登っていく。よく見ると岩の隙間に隠れるように群生している。これは、半分は取っちゃってもいいよね。

 岩の隙間に手を入れてヒメグラシ草をせっせと摘み取っていると、突然つかんでいた岩がぼろりと崩れた。

 体勢を立て直す間もなく、急降下。大した高さじゃない。着地の受け身だけを考えて頭を抱え…

 ぶに。

 柔らかな衝撃。た、助かった…?

 起き上がってみると、私の下敷きになった生き物が…

「だ、だ、大丈夫?」

 ぐったりとして動かない。灰緑色の生き物。私のせいで死んじゃった…

 いや、まだ生きてる。

 急ぎヒメグラシ草を籠の中に入れ、結構ずっしりとしながらも持ち上げられなくもない生き物を抱えて、急ぎ家へと戻った。


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