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ルキフェルの夢の終わり  作者: 美夜
26/50

第二十六話 そして、落ちる

 落ちていく。

 ただ、恐怖とともに。

 暗闇。

 何も見えない。 

 数秒前、俺とカレンは黒い沼に沈んで行った。

 手足をばたつかせて抗った。

 しかし粘り気のある沼は触手のように二人にまとわりついた。

 そしてそれを潜り抜けた先には、無限の闇と引力だけがあった。

 俺は死の覚悟をした。

 落下しながら、カレンの腕が触れた。

 顔は見えない。

 彼女の手を探し、きつく結んだ。

 恐怖で麻痺した首を捻じ曲げて落下先を眺めた。

 蝋燭のような、おぼろげな、いくつもの光。

 虚無の中に突如穿たれた円形の中に、それらが見える。

 どんどん近づいていく。

 それが何であれ、衝突を予感した。

 俺は助かるよう繰り返し祈った。

 無関係なカレンを巻き込んでしまった自責の念とともに。

 その時、天と地がひっくり返ったような感覚があった。

 頭や手足は振り回され、髪は乱れた。 

 おぼろげな灯火はすぐそこに近づいていた。

 放り投げられるような力を背中から感じた。

 そして、円形に浮かぶ灯火の群れに頭から突っ込んだ。

 腕と顔、それから腹に大きな衝撃があった。

 何が起きたのか分からなかった。

 最初に感じたのは、石の冷たさと、堅さ、そして体中の痛み。

 確認してみなくとも、着地した時に手や膝に擦り傷を負ったのだと分かった。

 手の平と頬に感じる石の感触を感じながら、遅れて落下して死ぬことだけは免れたのだと知った。俺たちの身に何が起きているのかは全く分からないが、隣で髪の乱れたカレンが「いったぁぁ……」と言っているのを聞いて、とりあえずはまだ生きているのだと分かって安堵した。

「カレン、だいじょう……」

 と言いかけて俺はとっさに口をつぐんだ。

 これまで培ってきた常識を無に帰するような、強大な「異様さ」が瞬時に背中を襲い、俺を黙らせた。

 体の痛みと恐怖を堪えつつ、震えながらゆっくりと顔を上げた。

 密かに揺らめく灯火に照らされたものを見た時、自分は何に「異様さ」を感じたのかを察し、絶句した。

 沈黙。静止。俺は最初、どこかにいる人型の影が並んでいるのかと思った。だが悪寒とともに、違うのだと知った。フードのついた黒いローブを身に着けた人間。ゆっくりと首をひねって周りを見渡すと、俺とカレンを囲むようにして、その黒いシルエットが数えきれないほど立っていた。群れ立つ濃い陰湿な雰囲気。底知れぬ引力。背筋が粟立った。俺は本能的に脅かされる感じを受けて身構えた。殺気とは違う、より質が悪いもの。彼らは一体何者なのか、顔を必死に注視しようとするのだが、フードの深い影のせいで顔がないように見えた。そこから感じられるのは、まぎれもなく人の息遣い、人の視線だった。

 すると、俺からもっとも近いローブの人間が動いた。突然のことに彼はびくっと体を震わせた。黒く長い袖の中から見えたのは、ナイフのように見える銀色の何かだった。周囲の炎の明かりが反射して、怪しくきらめいた。

 それを見た時、俺は腹の底に重い衝撃を感じた。恐怖で全身の筋肉を硬直させながら、カレンに駆け寄り、彼女の身を守るようにして抱いた。銀色の刃物で二人が刺されるところを想像して、死を覚悟した。

 だが、ローブの人間は、紋様や宝石で装飾されたそのナイフ状のものを胸の前でゆっくり一振りしただけだった。

 その瞬間、俺は床に叩きつけられた。

 とてつもない重さだ。まるで重力が倍化したように、重い。カレンも同じだった。

 動けない。巨漢に背中からのしかかられたような強い力に何度も抵抗しようとしたが、体を起こすどころか、指先すら動かすことができなかった。

 恐怖がさらに募っていく。

 その間、俺とカレンを取り囲んでいた、覇気とは真逆のオーラを放っていたローブ姿の人間たちは、音もたてずに部屋を出て行った。

 数人だけはドアを抜けずに残っていた。そのうちの二人はそれぞれ俺とカレンの横に立ち、同じように銀のナイフのようなものを取り出して、縦にゆっくりと動かした。

 すると顎が勝手に持ち上がり、俺は直立不動の状態になった。

 まるで魔法のように、彼らが指示する通りに体が動いている。その現実に恐怖はさらに増していった。

 そのままの状態で部屋を出た。そして彼らの黒い背中の後をついて、薄暗い廊下を歩いた。とはいえ、脚は動いていない。頭や体と同じで、まるで金縛りのように固く束ねられたままだ。足の平は全く地面と接触していないのに、勝手に体が前に進んでいるのだ。

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