lil
「ppppp・・・」 音を最小限にされたアラームは小さな部屋で朝日の出を伝える。
午前四時五十分、僕は反射的にアラームを消す。隣で寝ている子は起きる様子がない。ゆっくりと右足からベットの外へ出していく。その子の呼吸音と僕の床を踏む音しかしないこの部屋は、まるで世界に僕ら二人しかいないように感じさせ、開放的で、自由で、生きづらかった。
ベランダと部屋をつなぐ扉を少しずつ開いていくと隙間から十一月半ばの冷えた空気が突き抜けていく。急いでベランダの外に出ると五時前の空はもどかしく少しの明るさを感じさせていた。室外機の上に置かれたサボテンを持ち上げ、植木鉢の下から煙草とライターを取り出す。
咥えただけで少し甘いwinstonの5ミリが心の奥の記憶とくっついていく。
思い出しすぎないように2ミリ重くした煙草は慣れてしまっていた。
僕はまだwinstonの3ミリを吸えない、でも心の奥の記憶なしでは生きていけない。
僕はこれ以上ない幸せを自分から望んで捨てて、そして彼女を忘れられずに生きている
午前八時、毎朝、梨香子が起きてくる頃には僕は形の崩れた出来がいまいちのオムレツを作っている。今日の出来はまあまあだ。
「今日も崩れてるね。四十点」
朝起きたままの姿で、梨香子は作ってもらっているオムレツに酷評をしている。僕のオムレツはいまだに五十点を超えない。
「自信あったんだけど」
「君にしては高得点じゃん?」
僕らは都内のある程度賢い大学で、悪くない家庭環境で育ったただの大学生。ドラマチックな演出はなく、ただお互いに少し惹かれあって流れで付き合って、だらけた幸せを感じ合いながら生きている