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獣人ベル03

「ぶった切ってやる!!」


 突然ベルの身体から弾けるように無数の風の刃が飛び出た。風の刃は肩に噛みついていたコウモリモンスターやベルを襲おうとしていたもう一匹のコウモリモンスター、それからうようよと近づいて来ていた三匹のミミズモンスターをぶつ切りにした。水の中に固形物が落ちたような音がいくつかした。


 あっと言う間の出来事だった。


「……私も巻き込むつもりだったのかね?」


 光魔法で咄嗟に魔法避けの結界を張って防御していたマンシャムが問いかける。ベルははぁはぁと肩で息をしながらマンシャムを睨みつけた。


「師匠の実力は知っていますから、技を仕掛ける宣言でもしたら避けるか守るかするに違いニャいと思っていました!!」


「ふむ。意外と冷静なのだな。では、魔物の数に誤りがあったことには気づいているかね?」


 マンシャムが話している途中で地面から魔物が飛び出してきた。鼻兼口がイソギンチャクのようになっているモグラモンスターである。モグラモンスターは鼻兼口をもじゃもじゃ動かしながら二人に襲い掛かって来た。


ボウッ


「ギィィィ!」


 しかし、モグラモンスターは攻撃する前にベルが向けた杖から出てきた炎の玉に焼き落とされてしまった。


「全部片付け終わった時にまだ気配があることに気づきました! 地面のニャかは盲点でした! 初めから気づいていたのニャら教えてくださっても良かったじゃニャいですか!」


「これは君の修行だ。私は……」


「手を出さニャいんですね! 分かりました!!」


 ベルはふんっと鼻で息を吐き、汚れていない場所に移動してしゃがんだ。


「どうしたのかね? 具合でも悪いのかね?」


 マンシャムは心配そうにベルの顔を覗き込もうとする。一応少しは心配する気があるらしい。


 ベルは金色の目をキラリと光らせてマンシャムを見上げた。


「傷の応急処置をするんです。自分でやりますからちょっと待っていてください」


 ベルは胸元まで服のボタンを外し、左肩を出した。思っていたより傷は深くなかったようで、血は出ているが致命傷にはならなさそうだった。とはいえこのままにしておいて良いことはない。ベルは尻尾に巻いていたリボンを解き、肩に巻いてきつく縛った。テレビなどで行われていた応急処置の見様見真似だが、今はこれしかできない。服を整え、軽く腕を回して動きを確認する。流石にそこまで動かすとズキズキ痛いが、軽く動かすにはそんなに痛くない。利き腕ではないことが不幸中の幸いか、と思いながら立ち上がった。


「お待たせしました。進みましょう」


 つんとした態度で言ったが、マンシャムは何故か柔和に笑っていた。


「結構。私についてきたまえ」


 マンシャムはベルに背中を向けてゆっくり歩き始めた。


 それから魔物に遭遇してはベルだけが応戦することを繰り返し、二人は洞窟の階層を上がっていった。


 橙色に光っていた水晶が、上層に行くにつれて金色、桃色、紫色、青色、群青色と変わっていく。この水晶の色を並べていくと綺麗な黄昏色の空になる。ベルはこれが『黄昏の洞窟』と呼ばれている所以だと思っていた。


 水晶の色だけでなく、上層に行くにつれて魔物は強くなったが、ベルには関係なかった。マンシャムの言う通り、ほとんどの魔物は難なく倒せるようだった。


「地上についたよ」


 洞窟を出ると目の前には群青色の宵と草原が広がっていた。高地なので植物の背が低く、木々の類はあまり見受けられない。低い草花が根を生やしている程度である。草原の先にはぽつんと朽ちかけた神殿が建っているのも見える。最初にベルが目を覚ましたところだ。


「あそこに見えるのが『太陽と月の神殿』だ。……古代人はこの世界にない力を求めてあの神殿を建てたと言われている」


「この世界にニャい力?」


「太陽と月の力だ。恵みを与えてくれる太陽と、満ち欠けを繰り返す月に特別な力があると考え、その力を手に入れようと研究していたそうだ。様々な実験をここで繰り返していたそうだが……この神殿のなれの果てと、研究が後世に伝えられていないことから、その研究は失敗に終わったのではないかと考えられている。そんな研究がされていたことさえ、怪しいとも」


 マンシャムは笑った。ベルは頭の中でなるほど、とマンシャムの話を飲み込みながら別のことを考えていた。


(私が目覚めた場所があそこだということを言った方が良いのだろうか……)


 悩んだが、結局言わないことにした。言っても何の意味もなさそうだったからである。


「さて。今日の修行はここまでにしよう。帰って夕食にしようか」


「はい。お手伝いします」


 ベルがすっきりした顔で言うと、マンシャムは満足そうに頷いた。

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