司令室での攻防・2回戦
けったいな色彩の市松模様、しかも赤褌のマッチョマン付きの物体は、転がるように司令室に乱入すると絶叫した。
「助けてくれええぇ!!!」
「どわぁ!なんだ何だ!!?」
エメルヒが驚いて椅子から飛び上がる。物体が物体なだけに無理もなかった。
「リグナム!?あんたどーしてここに?!」
ビオラが目を丸くした。
ジャケットを着てない極彩色市松模様Tシャツ姿のナムが、決死の形相で目を剥くエメルヒにすがりついた。
「エメルヒのおっちゃん、助けてくれ!」
「どどどどーしたんじゃい、落ち着け!いったい何があった!?
・・・って、お前がまた、そういう悪趣味な服着やがってよぉ~。」
「いや、そんなんどーでもいいい!助けてくれ、連行される!!」
「連行?」
必死に窮地を訴えるナムに、エメルヒとカルメン・ビオラは怪訝そうな顔を見合わせた。
コンコン♪
蹴り破られた扉がノックされる。
ナムの乱入で一気に騒がしくなった司令室に、もう1人乱入してきた。
「ご機嫌よう、ミスタ・エメルヒ。そろそろ出発させていただきますわ♪」
白衣姿の女医。ドクトル・エーコ・タッカー、ナムの母親だ。
「あぁ、エーコちゃん。もう行くのかぃ?」
「ええ。連邦政府軍が規制に入るから早く発てってうるさくて。
なんですかまぁ、大変なことになりましたわね。でもご安心なさって。
お預かりした訓練生さんは無事に地球へお届けしますわ。」
エメルヒがにんまり笑う。
「すまんね、頼むよ。」
エーコもニッコリと笑った。
そしてエメルヒにすがっているナムの襟首を掴み、ベリッと引っぺがした。
「あと、こいつ。」
「・・・は?」
「うちの子も連れて行きますネ♡」
エメルヒの笑顔が固まった。
「な、なんで?」
エーコの眉がつり上がった。
「この薄情者、4年前にお宅にお預けしてから一度も!母親の私に連絡よこした事ないんですの。まったく親不孝な!
こっちが連絡取ろうとしても、まったく応じようとしないんですのよ!
電話掛けても取ろうとしないし、メールしても返信しない。信じられまして?人が心配してるのを何だと思ってるのかしら?!
おまけに、そちらのカルメンさん達に聞いたらよく自分勝手な事して他に皆さんにご迷惑かけてるそうじゃないですか!恥ずかしいたらありゃしない!
一度連れて帰って、捻くれた根性たたき直してやりますわ!!」
もの凄い剣幕でまくし立てていたエーコが、急にススス、とエメルヒ達に近づいた。
「・・・と、言うのは口実で、実は一度この子の頭の中検査してみようと思いますの。
昨日この子の姿を一目見て、気絶しそうになりましたわ。
こんな悪趣味な服がカッコいいだなんて、はっきり言って頭のビョーキなんじゃないかと思いますの。このままじゃこの子、一生彼女なんて出来ないし下手すると生涯独身、みんなに煙たがられて孤独死決定ですわ!
大学病院ならCTでもMRIでも何でもありますし、優秀な精神科医もいます。今のうちに親としてやれることは何でもやっておきたいんですの!」
「おぉ、なるほど!」
エーコが小声で訴える母の苦悩に、エメルヒはアッサリ納得した。
「そりゃいい考えかもしれねぇな!いや、親ってぇのは有り難いもんだねぇ。
よっしゃわかった、特別に許す!連れてってくれ、エーコちゃんよぃ!
この際だ、徹底的に頼んだぜ!!!」
「ぅおぉい!なに勝手に決めてくれてんだコラ!!?」
見苦しく抵抗する息子を笑顔の母はヘッドロックで拘束した。
エメルヒ達は感嘆した。寸分の隙も無い、実に見事な絞め技だ!
「有り難うございます。感謝しますわ、ミスタ・エメルヒ♡
では、皆様ご機嫌よう♡
カルメンちゃん、ビオラちゃん、またね♪」
「いやじゃああぁーーーーー!!!」
絶叫するナムがそのまま引っ立てられていく。
今の今まで陰湿に火花を散らし合っていた3人は、仲良く並んで笑みこぼす。
「あいつがいつもコンポンにするヘッドロックって、お母様譲りなのねぇ。」
「たまにゃいい薬だ。たっぷり親孝行して来りゃいいさ。」
「あの悪趣味、ちっとでも何とかなるといいなぁ、おい。」
遠ざかっていく悲鳴を和やかに嘲りながら、3人は異色の母子を見送った。
白亜のメイン司令塔を出た所で、エーコはナムの頭を解放した。
「痛ってぇな~。四十路前なんだから少しは丸くなれっつの!」
「お黙り!ホントにMRIかけて頭ン中覗くよボンクラ息子!」
辛辣に応酬した後、2人はニンマリと笑い合う。
ナムはエーコと似ていない。父親似である。
しかしふてぶてしく笑った感じはさすがに親子。誰がどう見ても、そっくりだった。




