キミの友情は「公開処刑」
冷たいライト・コーラが美味い。
エベルナ司令基地も火星の支局基地と同様に街から離れた荒野にあり、こういった清涼飲料は手に入りにくい。この一缶は大変な貴重品と言えた。
「いや~、オモロイもん見せてもろたわ!兄ちゃん、やるな~!!」
「ホントにすごいわ。アタシA・Jがあんなになったの初めて見た!」
スレヴィもマルギーは未だ驚きが冷めやらない様子だった。
ナムとロディ、ルーキー達3人は、変質者・オーサカ民とB棟裏のタイヤの山で、スレヴィがどこからともなく持ってきた缶ジュースを飲み交わしていた。
「コーラ、サンキューな。悪いね、滅多に手に入んないモノなんだろ?」
「ええってええって!ワイ、兄ちゃん気に入ったわ!!」
「ついでだけど、このドケチが他人にモノくれてやるの見たのも初めてだわ。あめ玉1個にも金取るヤツなのに。」
スレヴィがナムの肩を上機嫌でバンバン叩き、呆れ顔のマルギーがそれを眺めて感嘆する。
何だか盛り上がってる3人をよそに、舎弟達は静かだった。
さっき緑のグラウンドで繰り広げられた「喜劇」がとても人ごととは思えない。それぞれ好みのジュースを啜る彼らの思いは、複雑だった。
「貴様、リグナム・タッカーぁーーー!!!!」
A・Jの雄叫びが凄まじかった。
退廃的な雰囲気は一瞬で消し飛び、怒りの形相でナムを睨む。
まるで親の敵にでも出くわしたようなA・Jに対し、ナムは至って通常どおり。
むしろ陽気で、楽しげだった。
「おー、元気全開だな、エーちゃん!何年ぶりだっけ?2年くらい?」
笑顔でハイタッチを求めるナムの手をA・Jは乱暴に叩き返した。
「貴様、よくも俺の前にその面出せたもんだな!?あの時はよくも!!!」
「あの時?何だっけ?」
首を傾げるナムの態度にA・Jの怒りは倍増した。髪を振り乱して詰め寄ってくる。
「しらばっくれるな!忘れたとは言わさんぞ!!」
「えっと、何だろな?」
ナムは腕を組んで考えた。眉間に皺を寄せて記憶を辿る。
「あれかな?エーちゃんがメアリー訓練教官に告白ろうとしたのを止めた件。
いや~、悪い悪い。でもあれ、玉砕確実だったじゃんよ。
メアリー訓練教官、すっげぇ厳しい拳闘の教官とつき合ってるって話だったろ?お前、スカした態度とるからそいつからよく思われてなかったし、告白ったのバレたらエーちゃんがキツく当たられると思ってさ。ついみんなの前でメチャクチャ大声で怒鳴っちゃったんだよね。
あ、それともエーちゃん襲ったキモヲタ先輩諜報員を成敗した件か?
アレはそんなに怒んなくていいんじゃね?
親友に不埒なマネしやがったクソッタレをフルぼっこにしただけじゃん。ああいうヤツが居るっつーのは、周知しとかなきゃヤバイだろ?だからわざわざ人前に引きずり出してボコったんだけど、何か悪かった?みんな『貞操死守できてよかったね♪』って言ってくれてたし。
もしかして、エーちゃんがおたふく風邪になった時の事かな?
顔がパンパンに腫れて辛そうだったくせに注射怖がって駄々こねるから、俺、強引に担いで病院まで走ったんだよな?懐かしいな~、俺、その後みんなに褒められてさぁ。
エーちゃんもいろんな人に心配してもらったよな?人の優しさって、有り難いよな~。
あ、上官から嫌がらせで水ぶっかけられたエーちゃんが俺の服貸した事もあったな。
風邪引いちゃいけねぇと思って無理矢理着替えさせんだけど、お前、以外と金ラメフリル付赤紫のトレーナー、似合ったよな~!
あの時みんな大絶賛だったんだぜ!お前、すぐ脱いで部屋に閉じこもっちまったけど。」
「ぎゃあぁぁぁ!!!それ以上、言うなーーー !!!」
誰が聞いても間違いようのない、彼にとっての黒歴史。A・Jは頭を抱えて仰け反った。
フェイが隣で佇むロディを見上げる。
「ロディさん、今のって・・・。」
「多分、全部 『公 開 処 刑 』・・・。」
呆然とつぶやくロディの顔は、何ともビミョーな表情だった。
髪を掻きむしって悶えるA・Jに、ナムは心配げに声を掛ける。
「おい、エーちゃんどーした?大丈夫か?」
「喧しい!この悪趣味野郎!!!」
カウンターで怒鳴り返すA・Jがビシッと人差し指をナムの顔に突きつける。
「だいたい、人のこと勝手にあだ名で呼ぶな!馴れ馴れしい!!!」
「あだ名と愛称って違うんだぜエーちゃん。」
ナムはまったく答えない。それどころか、さらに神経を逆撫でる。
「本名で呼んだらお前、怒るじゃんよ。俺はカッコいいと思うんだけどな~。
『アレキサンダー・ジェラルディン・マクガイヤー・ゲッペンス』!
いいねぇ、カッコいいねぇ!♪」
フェイとコンポンが思わす叫ぶ。
「なが!名前、めちゃ長い!」
「しかも、なんか重!どっかの国の貴族っぽい!」
マルギーが呆然とつぶやいた。
「アタシ、A・Jの本名、初めて聞いた・・・。」
「言~う~な~!!!!」
A・Jは絶叫した。
ナムの一方的な友情アピールは続く。
「エーちゃん、紹介しとくわ。こいつら俺の舎弟と義妹な。
お前ら、こいつはエーちゃん。ガキん頃一緒の養護院に居てさ、偶然エベルナでまた会えた俺のマブダチだ。取っつきにくいけど実はいい奴だからよろしくな!」
「誰がマブダチだ誰が!!!!」
「照れるなってもー、エーちゃん変んねぇな~♪」
「貴様あああぁ!!!!」
舎弟達と義妹は、「エーちゃん」がカワイソーになった。
「誰とでもゴーインなくらいすぐ仲良くなっちゃう人だからなぁ。」
「僕・・・いや俺、ナムさんなら今話題のリーベンゾル・タークともすぐ仲良くなれると思う。」
「あー、ありそー。今ここにそいつが来たら、きっとすっげぇ事になるぜ。」
「止めてよ、実現しちゃったらどーすんのよ?!」
実現しそうで、怖い。
リーベンゾル・タークに会う機会が、あればの話だけれども。
ロディ達は胸中をよぎる不吉な予感を振り払った。
まさか、ね・・・。




