独立したの?浪速っ子
エメルヒの司令室から逃走&失踪したモカは、武器弾薬庫B棟裏、廃タイヤや壊れたコンテナが積み上げられた一角に逃げ込んでいた。
フェイも一緒である。2人は並んで歪んだコンテナに腰掛け、ひっそり息を潜めていた。
「ゴメンねフェイ君、健康診断受けられないね。
でもキミもエメルヒに見つからないよう、隠れといた方がいいと思って・・・。」
「うぅん、僕・・・俺も、そう思うから。
でも、モカさん隠れて逃げるの上手いね。僕・・・俺、弟子入りしちゃおっかな♪」
フェイが笑顔を見せた。
最近フェイはよく笑うようになった。火星の渓谷から生還してからというもの、少しずつだがみんなに心を開き始めている。
いつもコンポンに一緒にいるのもいいようで、彼の底抜けの明るさが間違いなくフェイにいい影響を与えていた。
「言葉使い、変えようとしてる?」
「うん。コンポンみたいな話し方になろうと思って。僕・・・俺、話し方固いから。」
「丁寧だし全然可笑しくないよ?」
「コンポンは俺、の話し方、『お坊ちゃま丸出し』って笑うんだ。
俺、もそう思うし、上品に話してる人って、何か弱そうでしょ?」
「そうかなぁ?」
「うん。それにさ。」
「うん?」
「ちょっとくらいワイルドに話した方が、女の子にもてると思うし!」
「・・・。」
フェイの目がキラキラしてる。
そうだよね?と同意を期待する笑顔がやたらと眩しい。
(でもそれってワイルドっていうより、ただの「チャラ男」じゃないのかな?
どうしよう、この子の将来ちょっと心配・・・。)
そう思っても、こんな夢を語る目で見られると言いにくい。
返答に困るモカの代わりに、意外な所から賛同の声が聞こえてきた。
「そやでぇ~、女っちゅうのは、ちょい悪くらいの男がええっちゅうのが多いからなぁ♪」
上からだった。
驚いた2人が声の方を振り仰ぐ。
雑多に積まれたでっかいタイヤの山の上に男が1人、のんびりと寝そべっていた。
彼はのっそり起き上がりタイヤの上で胡座をかいた。伸ばし放題の癖がある黒の剛毛、黒い瞳のつり目。彫りの深い顔が愛嬌のある笑顔を浮かべている。
地球の中東付近で見かける人種だ。しかし・・・。
「もっと言うたらな、ワイみたいな特徴の有る話し方したらええねん。
女の子グイグイ喰い付いてくるで~。最初は珍獣扱いやけどな、好感もたれて次のチャンスが来やすいんや。」
「そっか、特徴有る話し方か。」
モカは考え込むフェイに苦笑した。
確かに独特の話し方だ。こんな口調は「あの国」の都市民以外思い当たらない。
「『オーサカ共和国』の人なんですね?」
「おぉお!『オーサカ』知っとるんかいな!嬉しいなぁ!」
男は破顔し、ひらりと地面に降りてきた。
歳はハタチ手前といった所だろうか。痩せているがよく鍛えられていて背が高い。
「地球エリア・日本国特別自治植民コロニー・オーサカ。
通称『オーサカ共和国』や。ワイこう見えても生粋のオーサカ民やで!
・・・おネェちゃんらも逃げてきたんか?」
「え?」
「ケンコー診断や、ケンコー診断!
ジョーダンやないでぇ、ワイ、医者と学校のセンセは寒イボできるくらい嫌やねん。
ま、ゆっくりしていきや。ワイも訓練サボる時なんかでよくここに来るけどな、意外と見つからへんもんやで♪
ワイはスレヴィ。第3支局隊の見習い諜報員、スレヴィちゅうモンや。」
スレヴィと名乗ったつり目の男は、よれよれのジャンパーのポケットからキャンディをいくつか取り出した。
「お近づきの印や。」
「わぁ、ありがとうございます!」
フェイがひとつ取って包みを開ける。
「1個100エンや。」
「・・・え?」
「ジョークやジョーク♪」
「はぁ・・・。」
「200エンや。」
「・・・。」
この男、どうやら曲者のようである。
剥きかけたキャンディを手にしたまま、フェイが困惑した顔でモカの方に振り向いた。
何となく2人で顔を合わせ、困った笑いを漏らした時だった。
「きゃ~~~~~~!!!!」
少女の悲鳴が轟いた!
絹を裂くような絶叫だった。ただ事じゃないはずだ!
モカは咄嗟にワイヤーソードを構え、フェイを背中に庇って警戒した。
しかし、『オーサカ共和国』のスレヴィはモカとは真逆の反応を示した。
呑気にキャンディを包みを開けて口に放り込むと、呑気にヘラヘラ笑ったのだ。
「あー心配ない心配ない。
興味あるんなら見に行ってもええけど、たいしたことあらへんで?」
「大したことないって・・・女の子の悲鳴だよ?!」
フェイの抗議にもスレヴィは動じなかった。
「アレはいつものこっちゃ。
ビョーキの発作みたいなモンやで。たく、毎日飽きもせずようやるわ。」
ビョーキ???
モカとフェイは首を傾げて、再びお互いの顔を見あわせた。




