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ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
衛星都市マッシモの奇跡
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巨人が来たりて高笑い!

店内の空気が凍り付いた。

驚き怯える弟分の背中に庇い、ナムがジリジリ後ずさる。

「え、何この展開? アンタ、いったい何のプロ???」

「これが道ばたで弾き語りやってるストリートパフォーマーに見えるか、坊主?

悪ぃな、カルメン。あっという間にバレちまった。」

古びたバイオリンケースから慣れた手つきで銃を取り出すテオが陽気な笑顔で詫びる。

カルメンがうんざりとタメ息付いた。

「ったく、しょうがないわね。店ン中でぶっ放さないでよ!」

事態を察したナムが血相変えて噛みついた。

「おい姐さん!どういうこったよこれ!?

さてはアンタ、俺ら売ったな!?このオッサンに金もらっただろ?!」

「だから何?金額によっちゃ当たり前だ!」

「なんだそりゃ?!冗談じゃねーぞ人でなし!!!」

「喧しい!お前は関係ないんだろーが、いいから黙ってろチンピラ!!!」

怒鳴り合う2人をやんわりと、銃を構えるテオが制す。


「落ち着け、お前ら。

(コイツ)が火を噴くがどうかは、 そこで這いつくばってる強面オヤジ次第だ。」


一同一斉に振り向いた。

カウンター向こうには 勝手口 がある。

扉が壊れて半開き。そこを目指してこっそりと匍匐前進して行く強面オヤジの背中が見える。

「あ~~~っっっ!!! オッサン、てめぇ!」

テオに見つかりギクッと固まるサンダースの襟首を、ナムが掴んで引きずり戻す。

「ふざけんじゃねーぞコラ!誰のせいで俺らこんな目に遭ってっと思ってんだ!

元はと言えばてめぇが何か悪ぃ事しでかしたからじゃねぇのかよ!?」

「ひぎゃぁあ!?」

胸ぐら掴んでガクガク揺すると、何とも卑屈な悲鳴が漏れた。

半狂乱のサンダースは何をとち狂ったのか、銃を構えるテオに向かってとんでもない事を口走った。

「お、おい、アンタ!どっちの者だ?! 金なら出す、見逃してくれ!

そうだ、このフラットと同業者なら、アンタも腕が立つんだろ?

利き手を怪我した奴なんか、もう使い物にならんのだ。

コイツはもう解雇するから、私のボディガードになってくれ!

アンタを雇った連中の倍額出す!いい話だろ?な?な?な?!」

「あ”ぁ?!今何つったこのクソオヤジ!

あの人、てめぇのせいで怪我したんだろーがよ!?

どこまで根性腐ってやがンだゴルァ!!!」

「おぐぉ!ぐ、ぐるじぃ・・・!!?」

怒ったナムに襟首絞められ蒼白になる強面オヤジ。この様子を見守るテオの口から苦笑が漏れた。

「報酬2倍、ね。悪いお誘いじゃねぇがな。」

銃に弾倉を装填し、セーフティを解除する。

そして銃口を突きつけた。

呼吸困難に陥りつつあるサンダースではなく、チンピラ少年・ナムの方に。

「え? な、なんで俺?」

「いや、特に深い理由はなんだがな。」

テオが再び苦笑した。

「お前ら下水で水浴びでもしてきたのか?

ちょっと香しいんでな、正直あまり近づきたくないんだ。

だが、俺の雇い主はそいつを『連れて来い』とか言いやがる。

だからお前、悪ぃが雇い主ン所まで付き合ってもらうぞ。そいつ捕まえたまま一緒に来い。」

「・・・マジっすか?」

ナムはすすす、と向きを変え、サンダースを盾にした。


(待て!連れて行かれては困る!)

フラットは必死で打開策を考えた。

そんな彼の様子に気付いたテオが陽気に釘を刺す。

「おっと、動くなよ? 手負いの奴を撃つのは気が進まねぇんだ。

雇い主から壊れた道具みてぇに言われたってのに、まだマジメに働く気かい?

やめとけやめとけ。俺達みてぇな稼業の(モン)は引き際間違うと命が持たねぇ。」

銃口がすぃ、とサンダースに向けられた。

今度は悲鳴が上がらなかった。 酸欠状態になってる彼はほとんど気絶し掛かっていた。

「生け捕れとは言われてるが邪魔が入るなら仕方がねぇ。

1歩でも動いたらあのオヤジは撃ち殺す。このステキな下水の臭いに血の臭いまでブレンドする事ぁねぇだろ?おとなしくしててくれ、頼むから。

ここのマスターはおっかねぇんだ。これ以上店汚すとマジでコッチがぶっ殺されちまう。

おい坊主、オッサン連れてカウンターから出ろ!」

「・・・せめて ナム って名前で呼んでもらえませんかね?」

もはや自力で立つ事もできないサンダースを肩に担ぎ、ナムがカウンターからしぶしぶ出てくる。

「あ、兄貴・・・!?」

「お前はここにいろ。付いてくるんじゃねぇぞ?」

「おぉ、優しいねぇ。見た目はかなぶっ飛んでぶっ飛んでんだが。

心配すんな。用が済んだらちゃんと無事にかえしてやンよ。・・・たぶん。

そンじゃカルメン、邪魔したな。店の掃除ガンバレよ♪」

怯えるロディを気遣うナムに再び銃を突きつけて、テオが女店主に声を掛ける。

返事は思いがけない方向から返ってきた。

しかも、女店主の声ではない。


「掃除はお前が残ってやりな。

そのしょぼくれたオヤジは俺が引き取る。」


「!!?」

突然、テオの手から銃が弾かれふっ飛んだ!

銃はゴトリと床に落ち、ひび割れたタイルを滑っていった。

声は上から聞こえてきた。 店内裏口手前には2階に向かう階段がある。

その階段をテオが睨む。

誰かがゆっくりと降りてきた。


「俺はここのマスターとは顔見知りじゃ無ぇ。

店ン中が臭おうが汚れてようが知ったこっちゃない。」


粗末な階段は一段ずつ踏みしめるたび、大きく軋んで悲鳴を上げた。


「それにだ、俺の雇い主は『殺せ』と仰せでな。

わざわざ獲物を連れ帰るってぇ面倒臭ぇマネする必要なんざ、まったくない。」


低く野太い男の声は、不気味な嘲笑を含んでいる。

立て続けに起こる異変に、ナムがキレた。

肩にサンダースを担いだまま、ヒステリックに喚き立てる。

「だ~~~!今度は何だよ、いったい!?

次から次へと冗談じゃねぇぞ!いい加減に、し、ろ・・・。」

苦情は途中で途絶え尻切れになった。

2階から降りてきた新参者が、一同の前に立ちはだかったのだ。

彼は野性味溢れる強面で、呆気にとられるナム達を面白そうに見回した。

しかもでかい。

頭が天井に届きそうな身丈で筋肉隆々。着ている薄い白地のシャツが今にもはち切れそうである。

おまけに右腕、肩から下はメタリックブルーの機械義手。

ギラギラ輝く鋼の義手は実に器用によく動き、大きな掌がチャラチャラと鉛玉を弄ぶ。

「ビオラ!アンタの仕業だね?!」

困惑するトルーマンの右側で、カルメンが咆えた。

「こいつらはテオさんに売るって決めただろ!?なに勝手に他の男引きこんでんだ!」

「だぁって、こっちの方が金払い良かったんだもーん♡」

ビオラはまったく悪びれもせず、トルーマンの左側でしれっと応える。

互いに相手を罵り始めた女達。その傍らでフラットは、割れんばかりに目を剥いた。


「『義腕の巨人』?! なぜここに・・・!?」


新参者がにんまり笑う。

「おぉ、ファンがいてくれてるのは嬉しいねぇ。

どこの戦場で顔を合わせたかは知らねぇがな。『大戦』中は敵さんによくその通り名で呼ばれてたモンだぜ。

ところで、そこの面白ぇ格好した小僧が邪魔で直接ターゲットを狙えなかった。」

機械の手からヒュ、と乾いた音がした。

呆然と佇むナムの背後で棚の酒瓶がいきなり弾け、中身が派手に飛び散った。

鉛玉を指で弾いて飛ばす「指弾」。機械の手から飛ぶ鉛玉は拳銃並の威力があった。

「ガキを殺す趣味は無ぇ。そのオヤジから放れな。」

ガクガク首を縦に振るナムが、無様に気絶するサンダースを肩から降ろそうと身をよじる。

しかし鼻先に突きつけられた、赤く輝く電磁ナイフの鋭い刃に硬直する。

その柄を握るテオの目の色が変っていた。

陽気でおどけた優しいものから、怒気をはらんだ物騒なモノに。


「降ろすな坊主!

おいオッサン、悪ぃがコイツはちょいと譲れねぇな!」

「譲れとは言ってねぇよ。奪うだけの()った。

小僧、そのオヤジ降ろして消えな!」

「いや坊主、降ろんじゃねぇ!」

「降ろせ小僧!死にてぇのか?!」


サンダースを担いだナムを挟んで、テオと巨人がにらみ合う。

危険なオッサン2人に挟まれ、ナムがオロオロ狼狽える。

しかし「小僧」「坊主」と好きに呼ばれて再びキレた。

店の煤けた天井仰ぎ、思いっきり怒声をあげる!


「だから、名前で呼べっつってんだろが!!!

あ"ーもー、面倒くせーーー!

降ろすのか降ろさないのか、今すぐきっちり決めやがれーーーっっっ!!!」


その絶叫は、しょぼくれオヤジの身柄をめぐる「戦いのコング」となってしまった!




先に動いたのは「義腕の巨人」。

巨躯に合わない素早さで間合いを詰めた。電磁ナイフを構えるテオに機械の義手を振り下ろす!


ボコォン!


床のタイルが木っ端微塵に粉砕した。咄嗟に真横に飛び退きかわしたテオの足下が陥没する。

「本気で殺らなきゃこっちが死ぬな。許せよカルメン!」

すかさずテオも反撃した。電磁ナイフを逆手に握り身を低くして切りかかる!

場末の酒場(バー)の店内は壮絶極まる 戦場 になった!

椅子・テーブルは原形無くなり、壁はえぐれ柱は折られ、酒瓶並べた棚もカウンターもただの瓦礫となっていく。

耳をつんざく破壊の轟音に店主の怒号が共鳴する。

そんな中、「義腕の巨人」はなぜか楽しげでご機嫌ヨロシク 哄笑 する!


「ふははははは!♪ いいねぇこの手応え!

お前、少しはやるじゃねぇか!

さぁ、もっと本気出せ!もっとこの俺を楽しませてみせろ!

ふはははははーーー! ♪ !」


店内はみるみる目も当てられない有様になっていった。

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