リーベンゾル大戦②
ところが、戦況が突然一変する。
ある日、突然リーベンゾル軍が蹂躙し尽くし支配下に置いた国々から撤退、外惑星エリア・冥王星近宙域まで引き下がったのだ。
そしてあれほど近隣国家に猛攻を仕掛けてきたのが嘘のように、沈黙したのである。
あまりに突然の変貌に太陽系中の人々は戸惑いを隠せなかった。
それから間もなく地球連邦政府は大戦の「終結」を宣言する。
消滅・殲滅した国家約5,350、破壊された都市約26万8400、被害総額は天文学的な数に登り、死者・行方不明者は当時の人類総人口の半数強。
その後も外惑星エリアでは各地で内乱や紛争が続き、化学兵器使用による深刻な汚染が広がり、住む場所を追われた大量の戦災難民が明日をも知れない生活を余儀なくされた。
人類史上間違いなく最大にして最悪な「リーベンゾル大戦」は、太陽系中全ての人を不幸に陥れ大きく醜い傷跡を残して終結したのだった。
大戦終結後も、リーベンゾルは不気味な沈黙を守り続けた。
連邦政府は幾度も内状を探ろうと試みたがことごとく失敗した。送り込まれた諜報部隊や特殊任務部隊は何の音沙汰もなく誰1人帰ってこなかった。
しかしただ1小隊、リーベンゾル内状を報告した隊がある。
雇われ傭兵で編成されたその小隊の隊員達も帰還することなく生死不明となったが、消息を絶つ直前に通信があった。
瀕死と思われる無名の傭兵が宇宙無線のノイズ音の彼方から通信士に告げた言葉は、連邦政府軍はもちろん、太陽系中の人々に衝撃を与えた。
「リーベンゾル・ゴルジェイ、領土内に所在、つかめず。その行方、不明。」
にわかには信じがたい情報だった。
しかしこの報告以降、リーベンゾルから大量の難民が流出するようになった。
彼らの口から反乱が各地で勃発し、壮絶な内乱状態に陥った国内情勢が知られる事となる。
戦災の火はリーベンゾル国内から周辺宙域に飛び火し、外惑星エリア全域に広がる様相を見せ始めた時、地球連邦政府は大きな、しかし恐ろしく愚かな決断をした。
外惑星エリアの治安回復のため戦災の根源を絶つ。
そう称してリーベンゾルに軍勢を派遣、宇宙艦隊から主要都市への大規模な空爆に踏み切ったのである。
後に「7日間の粛正」と称される1週間にもわたる激しい空爆は、さほど大きくない小惑星上に点在していたリーベンゾルの都市を破壊した。
連邦政府はこの「粛正」後、もはや脅威は去ったとして外惑星エリアから主力艦隊、軍隊を一斉に引き上げリーベンゾルの殲滅を宣言した。
後に残ったのは焼き尽くされた廃墟と傷つき苦しむ1億500万人にも上る戦災難民。「戦災復興は連邦政府加盟国優先」とする連邦政府の方針の元、彼らは何の救済も得られずうち捨てられた。
支援も与えられず治安を守る力もない。未だ紛争が続く荒れ果てた地に取り残された難民達の苦難は想像を絶する。
「リーベンゾル大戦」終結から10年、「7日間の粛正」から6年たった今でも、外惑星エリア、特に完膚なきまで「粛正」を受けた彼の地の民は、血を血で洗う抗争に苦しみもがいているのである。
「このご時世に『大戦』の元凶だった野郎の血筋をかたるたぁいい度胸だ。」
マックスが渋く苦笑した。確かにペテンでかたっていい名前じゃない。
例え偽者だったとしても連邦政府軍に特級テロリストとして全太陽系中指名手配。捕まれば軍監視下特別収容所で永久投獄されるか、最悪の場合裁判無しで即刻死刑である。
『・・・繰り返します。
今日未明、外惑星エリア・宇宙ステーション「アリエル」で、旧リーベンゾル帝国元首ゴルジェイの実子を名乗る男性が、帝国の復興を宣言しました。地球連邦政府は事実確認を急いでいます。・・・』
モニター画面ではキャスターが繰り返し件の帝国復活の報道を読み上げている。
食堂内の空気は張り詰め、重く沈んでいった。
マックスが自分の側で呆然とモニター画面を見つめるカルメンに訊いた。
「カシラは?」
「まだ局長室です。呼びますか?」
平静を装うカルメンの声も微かに震えている。
「いや、いい。・・・おい、飯まだか?」
マックスは義手を振って断ると、キッチン入口に立つヨメに声を掛けた。
厳しい目でモニターを睨んでいたリーチェがランチャーを近くにいたロディに押しつけ、重さによろめく彼の横をすり抜けキッチンに下がろうとした時だった。
『地球連邦政府は事実確認を・・・。えっ!映像が?!
い、今、映像が届きました!
ゴルジェイ実子を名乗る人物の、復興宣言の映像ですっ!!!』
キャスターの絶叫に、食堂内の全員が弾かれたようにモニターに向き直った。
「おいおい、飯くらい食わせろや・・・。」
マックスがぽつりとつぶやく。
呑気な平静を装いつつも、彼の額にはじっとりと汗がにじんでいた。




