リーベンゾル大戦①
人類が地球を飛び出し宇宙に移住し始めたのは、今からおよそ500年前。増え続ける人口を地球上の領土では養いきれなくなった先進国は衛星都市・植民コロニーを築き、国民を移住させた。
それを可能にしたのは飛躍的に発展した宇宙航行技術とコロニー建設技術だ。
地球から火星までの約2億3000万kmの距離を3時間で飛べる翼と、太陽に近く表面温度が1,000度に達する内惑星エリアから太陽光が届かない極寒の外惑星エリアまで居住可能な空間を確保できるテクノロジーは、宇宙開拓史の最初の100年ほどで太陽系全域を人類の居住区と成さしめた。
しかし日々発展する技術とは対照的に、残念ながら変らないものもある。
国の指導者達は、広大な宇宙空間にも「国境」を引けると考えた。各国は競い合うように衛星都市・コロニー建設に乗り出し、その周辺を「領域」と主張する様になっていった。
結果、争いが起った。
金星や水星の地下資源、太陽光、小惑星に眠る希土類元素。地球では枯渇したエネルギー資源を奪い合って国家間の緊張は高まっていった。
追い打ちをかけたのが、宇宙空間移住者達の母国から離反だ。
各国の衛星都市や植民コロニーの民が、次々と「独立」を宣言し始めたのである。
当然、地球既存国家はそれを認めず太陽系のあちこちで「内乱」が起り、世界情勢はちょっとした事でも大規模な戦争に発展する危機をはらんで混迷した。
事態を重く見た先進国首脳達は、過去歴史に習って世界平和を維持・監視する国際機関を設立した。
これが現在太陽系に存在する約50万の国や自治都市の8割が加盟する「地球連邦」の始まりである。
各国の主席・王族・大統領からなる議員と官僚が行政を執り行う地球連邦政府は、各国の軍隊から提供される軍事力を終結した屈強な「地球連邦政府軍」を有し、その力で混乱を鎮めようと試み成功した。
以来400年、太陽系内で大きな争いが起る事はなかったという。
30年前、外惑星エリア・冥王星宙域の名も無き小惑星で、ある1人の傭兵が突然反旗を翻すまでは・・・。
傭兵の名は、ゴルジェイ。姓はない。ASである。
彼の素性は外惑星エリアの片隅で生まれた以外は一切分かっていない。
そんな男がある日突然、傭兵達を率いて冥王星宙域に駐屯する連邦政府軍の軍事施設を奇襲、一夜のうちに壊滅せしめたのだ。この「宣戦布告」は、太陽系中に衝撃を与えた。
ゴルジェイが武力隆起に至った理由は解っていない。しかし外惑星エリアの人々、特に戸籍を持たないAS達はこぞって彼を支援し、進んで武器を取り戦いに加わった。
大量の犠牲者を生み出した泥沼の紛争の果てに冥王星宙域からの連邦政府勢力追放に成功したゴルジェイが、冥王星族小惑星の一つを「リーベンゾル」と名付け、自らを「元首」として「国」を興した時も、人々の狂信的な支持は揺らぐ事無く、むしろ勢いを増すばかりだった。
地球連邦政府はこれを認めずリーベンゾルを「危険思想を持つ反社会組織」と位置づけるものの、事態を静観する姿勢取った。
外惑星エリアへ軍を派遣するのは多額の資金が掛かる為、連邦政府が介入を渋ったのだ。
この連邦政府の対応は「地球人類史上最悪だった」と、後々まで非難され続ける事になる。
その後間もなく、リーベンゾルは近隣国家への侵攻を開始した。
リーベンゾル軍勢の猛攻は凄まじいものだった。
平和だった幾つもの国が滅ぼされ、そこで暮らしていた数え切れないほど多くの人々が虐殺された。
ここに至って地球連邦政府は、軍の全勢力をかけた「リーベンゾル殲滅」に乗り出した。
人類史上未曾有の惨事と語られる、「リーベンゾル大戦」勃発である。
その後約20年、太陽系は血にまみれた暗黒の歴史を刻む。
地球連邦政府軍とリーベンゾル軍は太陽系の各地で衝突し、多くの民間人を巻き添えに殺し合った。
宇宙空間を星間ミサイルが飛び交い、無数の有人小惑星や植民コロニーがそこに住む人々ごと一瞬で消滅する。
使用後の環境破壊が著しい化学兵器が暗黙に、しかも頻繁に使用され、汚染され死の大地となった地域も一桁や二桁の数ではない。
戦場となった国は都市という都市、名も無い小さな集落でさえ破壊し尽くされ、略奪された。
悲惨極まりない泥沼の戦争。何の希望も見いだせない終わりなき悪夢。
人々は出口の見えない戦乱に絶望し、打ちのめされた。




