今まさに、カタストロフィ
今日の夕飯はリーチェ特製ハンバーグ。
うま味たっぷりの肉汁を含んでふっくらと焼き上げたハンバーグに、特製の濃厚なデミグラスソースをかける。三つ星レストランのシェフ顔負けの美味さだ。
ロディに腕を引っ張られるようにして食堂に入ったナムは、無意識に食堂内を見回していた。
モカは、いない。代わりにいて欲しくない奴がいた。
アイザックが食堂の壁の備付け大画面モニターの前に正座している。
放送されているのは小惑星帯エリアで先日デビューしたアイドルグループ・カタストロフィP(プリティのPだそうな)の生ライブ。9人組ユニットの少女達がまったく揃ってない振り付けでビミョーな歌声を披露していた。
彼女達の生足をガン見しながら無言で含み笑う三十路の天才ヲタクハッカーは、気色悪いの一言に尽きる。怪しげなヲタ芸ペンライトを持って躍ってないだけマシだが、それでも相当うっとうしい。
テーブルに着いているカルメンやビオラ、ルーキー達は全員テンションだだ下がり。キッチンから香ばしいハンバーグの香りが漂ってくる中、ゲンナリとこの状況に耐えていた。
『みんな、楽しんでる~!?♪♡』
9人ユニットのカタストリフィPでセンターを勤めるリリアンちゃん(アイザック解説)が満面の笑顔で叫んだ。観客のヲタク達が咆哮する。
モニター画面いっぱいにリリアンちゃんの上半身がアップなった。ラテン系の綺麗な少女でドレスの胸がはち切れそうだ。
アイザックがガバッと画面に取りすがる。ドレスの胸元を上からのぞき込もうとしているようだ。
あ、浅ましい・・・!!食堂内のメンバー達は一斉にドン引きした。その時・・・。
プツン!
突然、モニター画面がブラックアウトした!
「・・・ぎぃゃあああぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
アイザックはこの世の終わりでも来たかのように絶叫した!
「ぅお!何だ!?」
「どうした!みんな無事か!?」
「メシ時に襲撃たぁいい度胸だクソッタレが!!?」
そのけたたましさを「敵襲」と勘違いしたマックスとテオが機関銃を構えて食堂になだれ込み、キッチンからリーチェがランチャー担いで突っ込んで来た!
食堂が一時騒然となる中、モニター画面はすぐに画像を映し出す。
しかしそれはもう、女の子達の生足などでは無かった。
華やかなコンサートステージではなく無機質のニューススタジオが映った。
キャスターが形ばかりの挨拶の後「臨時ニュースです。」と告る。
ベテランと思われる男性キャスターの声は震えていた。冷静を装おうと必死に努めているが、目が血走り汗だくで、顔色も青く明らかに悪い。
その様子だけでもとんでもない事態が起きた事を充分過ぎるほどに告げていた。
キャスターが手元の原稿を読み上げる。
「・・・今日未明、外惑星エリア・宇宙ステーション『アリエル』で、
旧リーベンゾル帝国元首ゴルジェイの実子を名乗る男性が、帝国の復興を宣言しました・・・!」
太陽系中を想像を絶するほどの衝撃が走った瞬間だった。
『地球連邦政府は事実確認を行っています。繰り返します。今日未明・・・。』
引きつった声で「事実」を告げるキャスターの声が食堂内に響き渡る。
見苦しく床に転がって「リリアンちゃんの谷間~!」と手足をバタつかせていたアイザックがスッと立ち上り、別人のような厳しい顔つきで眼鏡を整えた。
ランチャーを構えたリーチェが青ざめ、目を見開いてモニターを凝視する。
マックスとテオは平静を装い、銃器を担いだまま手近なテーブルに着いた。テオが側に呆然と佇んでいるビオラにあごをしゃくって指示を出す。
不穏な空気にシンディが怯えている。ビオラはハッと我に返り少女に寄り添った。
傭兵達は、全員「大戦」を経験している。額にじっとりと脂汗浮かべて原稿を読むキャスターよりも、事の重大さを理解していた。




