円周率はどこまでも
・・・避けられている。
ナムは巨大な掃除機のボディに座って手を後ろに組み壁にもたれ陰鬱な気持ちを持て余していた。
部屋の主であるロディはガラクタまみれの床に胡座をかいて座り、発明品の製作に没頭している。
その背中を眺めながらぼんやりと考える。
(どー考えても、避けられてる、よなぁ、やっぱし・・・。)
ナムは頭の後ろを掻きむしった。
あのシャワー室でキメラ獣と共闘して以来、モカとはまともに話が出来ていない。
それどころか会う事すら滅多になくなってしまった。
モカは元々局長室で仕事してる事が多く、他のメンバー達と交流する機会が少ない娘だった。それでも食事の時や廊下ですれ違う時などでは挨拶を交わし雑談する程度には親しかったはずだ。
なのにここ最近ときたら・・・。
① 食事の時間にナムが食堂に行くと、さっきまでモカがいた気配があるのに居なくなってる。
② 廊下等でモカの声や気配を察してそっちへ向いてみてもいない。
③ たまに逃げ遅れるらしい。
食堂の入り口や廊下の曲がり角で出くわした時には一応挨拶はしてくれる。
でも目が泳いでまともに見てくれないし、そそくさと去って行く。
疑う余地なく避けられている。ナムは自分の行いを省みた。
(原因はシャワー室での事だよな、きっと。
バッチリ見ちゃったもんな。そりゃもうガッッッツリと・・・。)
「さ! 3.1415926535 8979323846・・・!」
「ちょ、ナムさんどうしたんッスか!?」
細かい手作業していたロディが驚いて振り向いた。
「いや、ちょっと気を紛らわす為に円周率を・・・」
「どんな気になったら円周率そこまで言い飛ばせるんッスか、もー!」
「R18・・・い、いや気にすんな!」
微妙な表情で首を傾げるロディが再び作業に戻ると、ナムもまた考えにふけった。
(余計な事は考えるな俺!今はこの胸がモヤモヤする感じを何とかしないと、すっげぇ気持ち悪い!
・・・そういえば、モカがこんな事言ってたな。「裸、の他に、何も見てないの?」・・・。
なんかあったけ? あの時見たのは、シャワー室いっぱいに這い回る気色悪い触手と、それに捕まって宙づりにされた、モカの白くて綺麗な・・・。)
「ささ!3.1415926535 8979323846 2643383279 5028841971・・・!!」
「桁数増えてる!?何なんッスかナムさん!!」
「言った事無かったっけ?俺100桁まで言えんだ。」
「へー凄い。って、何で今、円周率?!」
「・・・円周率・・・なな何でもねぇ!!!」
「・・・。」
ロディの目つきが不審者を見る目になっていく。
(だからそっちは思い出すな俺!いちいち思い出してたらモカが可哀想だろ!
・・・でもまぁ、俺だってお年頃だし?ちょっとくらい「ご飯のおかず」にさせて頂いても・・・。
いや、仲間!モカは仲間だから!!!)
「ダメだ、まともに考えらんねぇ・・・。」
「そッスね。まともじゃないッス。」
あきれ果てたような舎弟の言葉が心に痛い。
「だいたい何悩んでんッスか?キメラ獣の1件以来、いつも以上におかしいッスよ?」
「変なところで真面目な自分の理性・・・。」
「ワケわかんないッス。」
ナムはまた頭の後ろを掻きむしった。
健康優良な思春期男子が抱えるちょっとした問題は置いといて、本当にワケがわからない。一番わからないのはあのシャワー室でのリュイの行動だ。
何故、あの時モカがシャワー室に居た形跡を隠した?
彼女がずっと局長室にいるなどと、ウソをついてまで・・・。
ふと、ナムは思った。
もしかして、モカが言っていた「裸の他に見た物」と関係がある?
シャワー室にいたメンバー達からそれを隠す為、もしくは気付かせない為に嘘をついた?
だとしたら、あの時シャワー室にはいったい何が・・・???
普段からこっちが話しかけても気が向かなかったらガン無視、機嫌によっては拳で返答してくる男である。直接聞いたところで答えてくれるわけがない。
気になる。もう一度よ~く思い出してみよう。
あの時、シャワー室で見たモノは・・・・・・・・・。
「さん!3.1415926535 8979323846 2643383279 5028841971 6939937510 5820974944 592307816・・・・!!!」
「ナムさん!大丈夫ッスかナムさん!? ナムさーん!!!」
掃除機の上で頭を抱えてのたうち回る兄貴分の正気を疑い、たまりかねたロディが絶叫する。
それにカブって2人の通信機が同時に鳴った。
『みなさぁ~ん、そろそろディナーよ♡ 食堂に集まってね♡♡♡』
ベアトリーチェのアニメ声が告げる、夕食の招集だった。




