お客様の笑顔のために!
荒野を走るバギーの速度は時速300キロに近づきつつあった。
ハンドルを握るのはサマンサ。助手席にシンディ、後部座席にはモカ。ルーフは全開、風を切る轟音でオーディオから流れる曲なんて聞こえないのに運転手は鼻歌交じりで、2人の少女が顔を引きつらせて硬直しているのもお構いなしにアクセルをべた踏みしている。
途中何匹か遭遇した猛獣キメラでさえ逃げ出す勢いで道なき道をぶっ飛ばし、一行は荒野の真ん中にある岩場にたどり着いた。
岩場といってもこんもりした大きな岩が横たわっている周りにいくつか小さめの岩が転がっているだけで、特に何の変哲も無い。
「ここ、何?」
フラフラの足取りでバギーから降りたシンディが聞いた。
「今に解るわ。ちょっと面白い物が見られるわよ。」
サマンサもバギーを降りて微笑んだ。
「えー、何なんですか、もー!って、モカさん?」
シンディが風圧でクシャクシャになった髪を気にしながら振り向くと、バギーから降りたモカがぼんやりと地平線を眺めていた。
「モカ、どうしたの?貴女、最近変よ?」
声を掛けるサマンサにハッと我に返ったモカが慌てて笑顔を作る。
「いえあの、そんな。久しぶりにサムさんのバギーに乗ったから、驚いちゃって。
相変わらずのドライビング・テクだなー、なんて。」
「今も昔もこんな運転してんだ・・・。」
顔を引きつらせてシンディがつぶやいた。
ぎこちなく微笑む少女を心配そうに見つめていたサマンサが、ふと、空へ目を向ける。
「あら、時間ぴったりね。来たわよ。」
何が?と、シンディも空を見上げた。
遙か上空を長い飛行機雲を描きながら航空機が飛んでいる。眺めていると航空機からきらり、と小さな光が飛び出してきた。
光はこっちへ向かって一直線に猛スピードで落ちてくる。
その姿が正しく目視できる高度まで落ちてきた時、シンディは悲鳴を上げた。
「きゃー!人!!?」
メタリックシルバーのつなぎに身を包んだ人型は、かなり際どい高度まで落ちてからパラシュートを開いた。
「毎度-!!ジョボレットでーっす!!!」
弾けるような笑顔で大地に降り立ったのは、でっかい荷物を担いだ黒人のイケメンだった。
天空から来たジョボレット配達員は、腰のベルトに装着したリモコンボタン一つでパラシュートを折りたたみ収納すると、背中の荷物を下ろしてサマンサと向き合った。
「お待たせしました!ご注文のお品です!!」
大きな段ボール箱を2つ渡して破顔する。最高の営業スマイルだ。
モカが渡す支払いのマネーカードをカードリーダーに通す。カードの表面にデジタル数字がパパパッと閃き、残高を表す数字を3回点滅させた。
「はいっ、お支払い完了です!ありがとうございました!!」
「ご苦労様。」
サマンサが手渡されるタブレット画面に「フローラ」と署名する。
偽名だ。見ていたシンディが目を丸くした。
ジョボレットでは、代金が無事支払われれば偽名での取り引きも黙認されるのだ。
支払いさえ確かなら、例え相手が犯罪者だろうがテロリストだろうがまったく厭わず取引OK。
商品お届けも迅速かつ確実で、危険とされる内戦状態の地域へでも余裕で配達承る太陽系最大にして最強の通販物流大手。それがジョボレットの「宇宙通販」である。
お客様第一のこの会社では、受取指定場所の融通も利く。
世を忍ぶ隠密集団の諜報傭兵部隊が拠点基地に宅配便など来させるわけにはいかないので、サマンサやモカはいつもこの場所を指定して注文の商品を受取っているのだ。
「いつも悪いわね。商品の受け取りにこんなところ指定して。」
「いえ、お気になさらず。お客様のご都合ご要望にお応えするのが仕事ですから!
それでは、またのご利用お待ちしています。じゃ!」
「じ、じゃってアンタ、どこ行くの!?」
残った荷物を担いで走り出そうとする配達員にシンディが驚いて呼び止めた。
「ここから北北西500kmにあるポイントで別のお客様が待っていらっしゃいますので。」
「500kmって、まさか走って行く気!? 普通に無理でしょそんなの!
だいたいこの辺ってキメラ獣出るし、危ない思想回路の武装組織もたくさんいるって聞いてるわよ!?」
「大丈夫です、お嬢さん。」
配達員は並びのいい白い歯を見せて笑った。
「お客様が待っていらっしゃる以上、ジョボレットはどこへでも配達するのです!」(キラーン!!)
・・・その代わり、べらぼーに高い配達料金を取るという話である。
「では、失礼します!!」
元気のいい別れの言葉を合図に、配達のスニーカーが火を噴いた。小型ジェット・エンジンを取付けてあるようだ。
「・・・彼のような『危険地域配達員』は連邦政府陸軍歩兵並の軍事訓練を積んでいるそうよ。」
砂埃を巻き上げまさしくジェット機の速さで走り去る配達員を見送りながら、サマンサがつぶやいた。
「強盗目的で配達員を襲う事件は後を絶たないけど、そのほとんどが返り討ちに遭ってるわ。
中でも勤続年数が3年を超えると、傭兵チームやテロ組織から勧誘されるほどの猛者になる。でも彼らはどんなに高額な報酬を積まれても絶対になびかないの。何でだかわかる?」
「さぁ・・・?」
「『お客様が自分の配達を待っているから(キラーン!!)。』、だそうよ。」
「そのキャッチフレーズ、ジョボレットのTVコマーシャルでも言ってるよね・・・。」
そうこう言ってる内に、ジョボレットのイケメン配達員の姿は遙か地平線の彼方へ消え見えなくなった。
後で聞いた話では、彼の勤続年数は8年。
間違いなく、「猛者」だった。




