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ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
シャワールームの共闘
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言わないで

夜も更けてきた。あと少しで地球時間で日付が代る。

「いやんなっちゃう。夜更かししなきゃならないなんて、お肌が荒れちゃうわ!」

「グズグズうっさい!アンタが喰らった懲罰だろ、とっとと働け!」

「何よエラそーに!あんただって懲罰喰らってんじゃないのよ!」

「おだまり!アンタのエロ下着で喰らった罰と一緒にすんな!」

箒とデッキブラシを片手に、カルメンとビオラが何度目かのケンカを始めた。

ビオラはセクシーランジェリーで寝ていたのをサマンサからリュイにチクられて罰則を喰らってるが、カルメンは少し違う。

今回のミッションで起った幾つかのアクシデントに責任を感じ、自らリュイに懲罰を申し出たのだ。

(変な所で真面目なんだよな、カルメン姐さんは。)

ナムは触手の残骸を大きなゴミ袋に押し込みながら、口汚くののしり合う女2人を横目で見た。

昨日今日といろいろありすぎてヘトヘトだ。なのにこんな夜更けにシャワー室でせっせと掃除しているのには、ワケがある。

ナムの「ランニングマン」がキメラ獣と一緒に吹き飛ばしたシャワー室の配水管は結構重傷で、修理期間は最短でも3日はかかる。

この3日の間にサマンサが独自に定めた「5日以上入浴しない者は強制洗浄」のルールに、日頃シャワーをサボりがちな男共のほぼ全員が該当してしまうのだ。

心から楽しそうに愛用の高圧洗浄機のノズルを点検するサマンサに、男共は震え上がった。

それでナム達に「何とかしろ今すぐシャワー室を直せ!」と無茶ぶりがきたのである。

直せと言ってもシャワー室一面キメラ獣の残骸で足の踏み場もないほどで・・・。

「ロディさぁ、あの高圧洗浄機、破棄とか出来ねぇの?」

「無理ッス。俺が殺されるッス・・・。」

「そもそもお前別に罰則喰らってねぇじゃん。

手伝ってくれてんのは有り難いけどさ、疲れてんなら寝た方がいいぜ?」

「いやぁ、まぁ・・・。」

罰則組3人にを手伝うロディがパンパンになったゴミ袋の口を縛りながら言葉を濁す。

明日朝一から突貫工事でシャワー室を直さないといけないし、他の場所も相当破壊されてて(特にコンポンの部屋)その修理で目が回るほど忙しくなるだろう。

体力温存の為にもさっさと寝てしまいたいのが本音だった。

でも・・・。


『俺の舎弟に何しようとしてくれてんだ!!!』


自分の為に本気で怒ってくれた兄貴分の勇姿が頭をよぎる。

礼を言うのは照れくさい。それに改まった感謝の言葉なんか求める人じゃない。

ロディは指先で目尻の辺りを掻きながら苦笑した。

「ま、手の掛かる兄貴分はほっとけねぇって感じッスかね。」

「なんじゃそりゃ?」

ナムはゴミ袋を幾つかまとめて担いだ。

「あーもう、これ手作業じゃ無理!ロディ、この間作ったでっかい掃除機どこ?」

「俺の部屋に転がしてあるッス。でもアレ失敗作ッスよ?

吸引力強すぎて何でも吸い込んじまうから使えねぇってリーチェさんに怒られたッス。」

「今ならそのくらい吸う方が役に立つだろ。こいつ捨てにいくついでに取ってくる。」

今にも取っ組み合いが始まりそうな姉貴分2人に呆れた目線を送って、ナムはシャワー室を出た。


どこからか入り込む隙間風が刺すように冷たい。

シャワー室で渋々清掃に勤しむ連中以外は全員寝てしまったらしく、建屋の中は風の音以外はシンと静まり帰っていた。

ナムは身震いしてGジャンの襟を合わせ、ロディの部屋へ向かう。

明かりが乏しい殺風景な廊下は暗く陰気で、ある種の雰囲気をほどよく醸し出している。

だから暗がりから自分を呼ぶか細い声がした時、思わず悲鳴を上げそうになった。

辛うじて堪えたのはそれがモカだと気が付いたからだ。

「ゴメン、驚かせるつもりじゃ、無かったんだけど・・・。」

ひっそりと闇に佇むモカは、シャワー室にいた時のようにひどく怯えて頼りなげに見えた。

そんな彼女の様子に戸惑いを隠せない。

「い、いや、あの、だ、大丈夫・・・。」

裏返ってしまう声が情けない。ナムは激しく狼狽している自分に驚いた。

「ど、どしたの?そっちこそ、大丈夫?」

「・・・。」

モカは俯き、身を固くした。微かに震えている。

空気が重く張り詰めていく。つかの間の沈黙の後、モカがポツリとささやいた。


「シャワー室で・・・見た、の・・・黙ってて・・・お願い・・・。」


「え・・・?」

ナムは思わず聞き返した。

しかしモカが言った言葉は何となくわかった。昨日シャワー室で言っていた事と同じだ。

(・・・えっと、見たってのは、裸、の事、かな?)

そう思い当たると、かぁっと体が熱くなった。

個性強烈な基地の女達の中にあってモカは地味でおとなしい。

そういう子が素っ裸見られちゃったワケだから、こんな風になるのも無理もないのかな?

ナムは取り乱し、ワケもなくオロオロと周囲を見回した。

「・・・ごめんなさい・・・でも、お願い・・・お願い、します・・・。」

懇願するモカの声がどんどん小さくなっていく。

ヤバイ、今にも泣きそうだ! ナムはさらに焦って弁解にのりだした。

「いや!言わねぇよ?!

俺何もそんな、他のヤツにモカの裸()()、なんて!絶対言わないから、うん!

こっちこそゴメン!女の子の入浴中に乱入して()()()()見ちゃうとか、サイテーだよな!

まさかあんな事になってるとは思わなかったとはいえ、非常時に裸()()()するとかあり得ねぇよ!ほんと、俺が不謹慎だった!

でも女の子の裸なんて()()()()見たことなかったし、つい・・・って、いや、マジでゴメン、申し訳ない!!!」

汗だくでテンパるナムの話を聞いていたモカの様子は変わっていく。

不安げに怯えた表情が次第に不審そうなものになり、最後の方では頬に少し朱が差した。

「あの、ナム君?」

モカがオズオズと口を開いた。

「まさか、裸(ここで恥じらい少し声を落として)、の他に、何も見てないの?」

「・・・へ?」

しばしの沈黙。どうやら話がいまいちかみ合ってないようだ。

他にって、何を??? ナムが聞こうとした時だった。

「リーグーナームー!!!てめぇ、どこ行きやがったゴルァー!!!」

「逃げたんじゃないでしょうね!だったらタダじゃ済まさないわよ!!!」

シャワー室から女二人の怒号が轟いた。

・・・この姐さんたちなら素っ裸見たって平常心でいられる自信がある。

そんな考えがチラッと頭をよぎった隙に、モカが横をすり抜けた。


「ゴメン、全部忘れて・・・お願い・・・!」


念を押すように一言言い残し、彼女は闇の中へ消えた。

この廊下の先、一番奥には局長室がある。ナムはしばらく呆然とモカが去った暗闇を見つめた。

「女の子」を意識しすぎたせいだろうか?

なんとなく柔らかい優しい香りがかすめていったような気がした。

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