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ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
シャワールームの共闘
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もう一つの「厳命」

局長・リュイは、無慈悲で冷酷だが決して虚偽は許さない。他人はもちろん、自分にも。

ナムは出会って4年になるリュイが、「嘘をつく」のを見たのは初めてだった。

しかもなぜあんな嘘をついたのかがわからない。あのシャワー室での共闘後、窓から消えたモカを庇うかのような嘘だった。

「前のミッションでターゲットと接触したチンピラ共、ひっ捕まえてこい」。ビオラが「公安局が動き出す前に助けてこい」と解釈したこのミッション不可解だ。

火星の中央都市マルスは広い。いくら諜報員でも人口100万人の大都市でたった3人のチンピラを、特に手がかりもなく1日や2日で捜し出せるわけがない(偶然にもアッサリ見つかったんだけども)。

自分に余計な詮索をさせない為の口実だとナムは感じていた。

そもそもなぜモカは逃げたのか?

「誰にも言わないで」彼女はそう言った。いったい何を? ・・・あ、これは裸見たこと、かな?

いろんな考えが頭を回ってミッションに集中できない。

ただでさえイライラするのに特に目の前で騒ぐカルメン達を見ていると余計苛立った。

とにかく早く帰りたい。帰ってモカに会って聞いてみたい。何をそんなに怯えていたのか、と。

しかしナムは見てしまった。

スーツ姿の男達が静かに周囲を取り囲むのを。

その中にサングラスを掛けたヤツがいて、フレームの縁からチラチラ細かい光が漏れているのを。

そしてルーキー達と立ち去ろうとする弟分に、そいつが掌に隠れるほど小さな電磁銃の銃口をむけるのを!

サングラスの光はスキャナー、おそらく望遠が効く好感度の網膜スキャナーだろう。

そいつは逃げようとするロディの網膜を読み取り、判断したのだ。

戸籍登録情報の無い「AS」だと。つまり、銃撃しても構わない存在なのだ、と。

鬱屈していた感情が爆発した。考えるより先に身体が動いた。

ナムの棍棒が繰り出す力任せの一撃はサングラスの男の顔面にヒットした。


いつもリュイやリーチェから庇ってくれる、陽気で楽しいナムじゃ、ない。

(あれ、誰・・・?)

ルーキー達は一触即発の修羅場に呆然となった。

ロディの肩越しに見えるのはナムの背中だが、ひどく恐ろしい猛獣のように見える。

「ナムさん、止めてください!俺ら大丈夫ッスから!ナムさん!!」

ロディの必死の呼びかけも届かない。

止めるどころか、棍棒を振り上げ今にも相手に・・・プロの殺し屋どもに飛びかかりそうだ!

「あんた、何してんのよ!?」

突然、ビオラが悲鳴を上げた。

カルメンがスーツの男達に気付かれないよう、ゆっくりとジャケット内側のショルダーフォルスターから愛銃を抜き、セーフティを外したのだ。

「あの子を撃つ気!?」

「急所は外す!すぐ逃げれるよう構えて!」

カルメンの声は震えていた。

「正気なの!?止めて!!」

「あんた、アレ止めれるの!!?」

ビオラがグッと口をつぐむ。

マッシモでナム本人が言ったとおり、ナムの実力はカルメンとビオラの遙か上をいく。

ナムの棒術を仕込んだのは局長・リュイ。「大戦」で最強と恐れられた傭兵自らがつきっきりで徹底的に鍛え上げたのだ。舎弟とは言え、差しでやり合って到底勝てるものじゃない。

そのナムが時折起こす感情の爆発。キレた時のナムは自分のコントロールが出来ず手加減が一切ない。

マッシモでの修羅場の時、キレた相手は機械兵だった。万に一つも勝機が無く、むしろナムの命を心配したが今回は違う。

例えプロの殺し屋相手でも、自分が動けなくなるまで力の限り暴れ回るだろう・・・。

「局長命令だ。」

カルメンが銃を構える。

「あいつに、人を殺させるわけにはいかない!」

これが、リュイがカルメンに与えた「もう一つの厳命」だった。

トリガーに指が掛かる。その指は微かに震えていた。

(絶対に外さない。最小限の痛みしか与えない!)

カルメンは萎えそうになる気力を振り絞った。


スーツの男達は一瞬、驚愕の表情で倒された仲間を見やった。

しかしすぐに感情を押し殺してナムと対峙した。倒された男も鼻血を拭いながらゆっくりと身を起こす。

あの一撃を喰らってなお立ち上がるとは、さすがと言えた。

ジャケットの下に銃が収まっているのがわかる。袖口から電磁ステッキを引き出す奴もいる。どいつも無表情でさりげなく佇んでいるように見えるが、油断なく、残忍に獲物を凝視している。

(おもしれぇ、ちょうどムシャクシャしてたんだ、やってやるよ!!)

ナム棍棒を一振りすると、上段に構えた。

一瞬の、張り詰めた緊迫の後、渾身の力をこめて地面を蹴り走り出そうとした時だった。


『・・・Call(伝令)


ナムは足を踏みしめて留まり、腕の般若時計を見た。

カルメンもトリガーから指を放し、ピアスに手を当てる。

ビオラはブレスレットを、ロディは自作の腕時計を、ルーキー達はそれぞれもらったばかりの通信機を見た。


『ミッションコード・5A(ファイブエー)(地球連邦政府からの依頼で国際テロ組織・国家の内政等の諜報活動。)完了しました。

諜報部隊は速やかに撤収してください。』


全員が愕然となった。

いつも間にかミッションコードがついてる!? しかも5A(ファイブエー)って・・・!?

スーツの男達の1人がハッと胸に手を当てた。ジャケットの内ポケットから取り出した見た事無い型の携帯電話がバイブレーションで着信を告げている。

しばらくボソボソと通話していた男の口から「撤収」の一言が漏れ聞こえた。

信じられない、といった表情で男は電話を切り仲間達に向き直る。他の男達も戸惑いを隠せなかった。

そんな男達をさらに困惑させたのが、これから修羅場を演じようかと対峙していた相手だった。

「お仕事終わりみたいっすね♪!あんた達もミッションコンプリート!とか言うの?」

呆然となる男達の背中に元気いっぱいの声が掛かる。

・・・はぃ?

男達は振り向いた。

そして棍棒を肩に担いだナムが白い歯を見せて陽気に笑うのを、あんぐり口を開けてガン見した。

・・・いや、お前、誰だっけ?

さっきまでとは別人じゃん!!?

プロ諜報員のプライドも見栄も何もない。全員がマヌケに呆けた顔だった。

あまりの激変ぶりに混乱する男達にナムが早口でまくし立てる。

「ま、よく分かんねぇけど命令じゃしゃーないよね。

舎弟撃ったヤツはど突いたし、今日の所はこれでチャラって事で。

あ、このチンピラ3人ももういいよな?下っ端みたいだしさぁ、許してやってよ♡ 

ほんじゃお互い裏家業の者同士、口は堅くフットワークは軽く行こうぜ! おっ疲れっしたー!!!」

天下の地球連邦政府軍公安局員達を舌先三寸で追っ払い、ナムは棍棒を背中のGジャン裏に片づけた。

「ロディ、怪我ないっつってたか? チビ共は大丈夫か?」

笑顔で振り向くナムを、光の速さでロケットダッシュしたカルメンが安堵と怒りを込めた拳で思いっきりど突き倒した。

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