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ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
レディ・リーベンゾル
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傭兵達の饗宴

J-5(ジェイファイブ)に駆けつけたナムが先ず目にしたのは、ザードに押さえつけられてる シンディ だった。

赤黒く腫れ上がった義妹の顔。

意識不明で床に散らばるチンピラ共と、敵に囲まれ佇むリュイ。

それだけで状況は推して知れた。ロディの制止を振り切る形でナムは地を蹴り走り出す。

全力疾走の勢いのまま、義妹を捕える悪党(ザード)の顔を思いっきり蹴り飛ばした!


「ウチのチビに何してくれてんだ、ゴルァーーーっっっ!!!」


吠えて敵を威嚇した後、怒りの矛先をリュイに向けた。

意気消沈するシンディの姿が許せない。リュイに向かって拳を握り、怒号と共に突き上げた!

「てめぇ冷血暴君!

何シンディにチンピラの始末させてんだ!?

しかも怪我までさせやがって!どうして守ってやらなかった!!!」

佇むリュイは答えない。

その代わり、ナムに一瞥も与えないまま、いつもの口調で命令した。


「倒 せ。 3分 だ。」


「 あ"ぁ ?!」

ピキッと頬が引き攣った。

しかし目の前には殺気漲る敵がいる。

ネーロ構成員のチンピラ共に、武装兵合わせて約30人。コイツらを何とかしなければ、話をする事もままならない。

「上等だよ! クソッタレ!」

ナムは上着の背中に手を突っ込んだ。

引っ張り出した棍棒のレンズに指紋を読み込ませる。

身の丈ほどに伸びた棍棒の切先がヒュン!と空を切る!

「ウチのチビ、ぶん殴った奴ぁどいつだ?!

フルボッコにしてやらぁ!!!」

襲撃者の戦線布告に、敵の男達がどよめいた。

慌てて銃器を構え直す。しかし彼らの 殲滅 は免れなかった。

「・・・3分26秒。

任務未了ミッション・インコンプリート。鉄拳制裁だな。」

腕時計を眺めるカルメンが、ヤレヤレと首を左右に振る。

そして脚のフォルスターから電磁銃を引き抜き抜いた!


ボヒュン!


赤い光弾が襲ったのは、スーリャを捕える肥満の男。

驚いた事に標的は、カルメンの狙撃をかわして見せた。銃口を向けた瞬間に、スーリャを突き飛ばして逃走したのだ。

光弾は標的の肩口を掠め、コンクリートの壁に穴を穿って消滅した。




最後の1人を仕留め倒すなり、ナムは踵を返して走り出した。

自分が倒した敵を踏み越え、佇むリュイに奇襲を掛ける。

「スカしてんじゃねぇゲス野郎!

答えろよ!なんでシンディにやらせた!?

傭兵崩れの連中なんかに、アイツが敵うわけねぇだろ!!?」

リュイの胸ぐらを掴み上げ、怒りのままに怒鳴り付けた。

「・・・。」

またしてもリュイは答えない。

上官に手を挙げ罵倒する。部下がそんな暴挙に出たにも関わらず、ひたすら虚空を見つめている。

どうやら全神経を集中させて、耳を澄ましているようだ。

やがて微かに眉を潜めた彼は、とんでもない事を呟いた。


「 来 襲 。3時の方向、距離16m。」


「・・・なに?!」

思わず「3時の方向」に目を向ける。

リュイの正面を0時と見て、彼の右側、真横が3時。

その16m先にあるのは、コンクリートの無機質な壁。何の変哲も無い壁の向こうから、不穏な物音が聞こえてくる。

しかも物音は次第に大きくなってきて・・・。

恐怖と戦慄が湧き上がる。

ナムは突き飛ばすようにしてリュイを解放し、仲間達の元へと走り出した!


「ロディ! 姐さん!

来るぞ、キメラ獣だ!!!」


事態を察した2人が即座に動き出す。

カルメンはすぐさま走り出し、まだ座り込んでいるシンディとスーリャを両腕に抱えて退避する。

ロディは気絶しているルドガーを担ぎ、何故かここまで付いてきているステイシアを連れて逃げ出した。


ドカーーーン!!!


「3時の壁」が吹っ飛んだ!

舞い上がる砂塵で周囲が白濁、両目と喉を痛めつけた。

大小様々なコンクリート片が、弾丸のように飛んで来る。ヘッドスライディングで床に伏せ、白煙越しに仲間を捜す。

無事のようだ。物流用ベルトコンベアーの影から「どっかんクッション」が膨らむのが見えた。


うごおぉあーーーーーっっっ!!!

「きゃあぁーーーっっっ!!!」×3


壁の中から現れた ゴリラもどき の咆吼に、娘達の悲鳴が共鳴する。

ナム達を見下ろす異形の獣は、すでに全身血まみれだった。

ゴリラ特有の剛毛越しでもハッキリわかる、痛ましいほどの銃創の数々。

こんな状態に成り果ててさえ、強化された肉体がその死を許さず怒りを煽る。

心無い研究者達に植え付けられた憎悪と闘争が戦う事をひたすら強いる。

ゴリラもどきの凄惨な姿を、ナムは愕然と凝視した。

あまりにも残酷で、哀れだった。


「オラ立て! ボサッとしてんじゃねぇ!」


いきなり襟首を掴まれ引き起こされた。

 テオヴァルト だ。打突武器(トンファー)を握る彼もまた、満身創痍でボロボロだった。

何故ここに? の疑問よりも、彼の正気を疑った。

キメラ獣倒すには大砲が要る。生身一つで突撃するなど狂気の沙汰としか思えない!

「アレ相手に接近戦?! マジかテオさん!?」

テオヴァルトはニヒルに笑うとナムを立たせ、自分の背後に突き飛ばした。

「リーチェにランチャー使わせるんなら、少しでも場が広い方がいいだろ?

邪魔だ! すっ込んでろ!」

「げ! って事はアンタ、アレをここまで誘導してきたのかよ?!」

「しかも捨て身で、だ。楽じゃねぇなぁ、(おとり)ってやつは!」

余裕無い顔でもう一度笑い、テオヴァルトが地を蹴り走り出す。

身を低くして打突武器(トンファー)を構え、ゴリラもどきの脚を狙う。水平に構えた打撃具は、踏み出そうとしていた左足ではなく体重を乗せた右脚、脛にヒットしまっ二つに折れた。


があぁぁぁーーーっ!


ゴリラもどきが体勢を崩す。よろめきながらも腕を振り、足下の敵を薙ぎ払う。

吹っ飛ばされたテオヴァルトは壁に強く叩きつけられた。咄嗟に受け身の体勢を取り激突の衝撃を和らげたものの、すぐには立てず蹲る。

「テオさん!」

駆け寄ろうとするナムの行手を誰かが横から遮った。

ショットガンを構える アイザック 。

彼は立て続けに4,5発連射し、忌々しげに舌打ちした。

「くそ! スラッグショット(対大型獣用単発弾)じゃ効きゃぁしねぇ!

立てテオヴァルト! さっさと逃げろ!!!」

極めて危険な非常事態に遭遇した時、アイザックはとぼけた態度をかなぐり捨てる。

必死の面持ちでショットガンを撃ち続けるが、それがゴリラもどきの逆鱗に触れた。怒り狂った異形の獣は、今度はアイザックに目を付けた!


ぐぉげぇーーーっっっ!!!


狂ったように一声吠えるとアイザックへと突進する。

彼に掴みかかった獣の腕は、機械の義手に阻止された!

「止めとけ。これ以上暴れりゃ傷に障るぜ?」

ゴリラもどきの腕を掴み、何故か労る 義腕の巨人。

自慢の義手はボコボコに変形してるし、生身の身体も傷だらけ。

それでも妙に優しさを見せる副官・マックスに、ナムは思わず問いかけた。

「アンタの騎士道精神、人類外にも適用すんの???」

「おう! 俺ぁ死んでも女は殴らねぇ!」

「イヤそりゃ、そいつメスだけどさ・・・。」

ンな事言ってる場合じゃない。

そう言おうとしていたナムの真横でガチャリと重々しい音がした。

「そぉよぉ♡

私のダーリンはフェミニスト♡ 絶対に女の子には手を上げないわ♡♡♡」

「 え? って、ぅお?! リーチェ姐さん!!?」

笑顔愛らしいベアトリーチェが担いでいるのは、84mm口径無反動砲。

ナムの顔から血の気が引いた。

「ちょ、待っ、それ・・・!」

「心配ム・ヨ・ウ♡ 装填してんのは徹甲弾よ♡

装甲車の外装ぶち抜いちゃうけど、爆発なんてしない弾♡

でも外すと建物、倒壊しちゃうかも。慎重に狙わなくっちゃねン♡」

「いや、『狙わなくっちゃねン♡』じゃなくってさぁ!!!」

砲弾の性質にもよるが、ベアトリーチェが担ぐ無反動砲の有効射程は500~800m。それだけ弾をぶっ飛ばすのなら、発射時の衝撃は半端じゃない。

間違っても、建屋内部で使用していい武器ではあり得ない。

ナムの狼狽を可憐に無視し、ベアトリーチェが表情を一変させた。

チェルヴァーリアの雪山をマルッと一つ崩壊させた時の表情(かお)

慎重に、とはほど遠い荒さで、彼女は担いだ大砲を構え直した!


「オラオラオラぁ!

ウチの旦那から放れやがれ!このメスザルがぁぁーーーっっっ!!!」

「アンタもかよ?!

人類外の女に嫉妬してんじゃねぇよ面倒くせぇ!

全員伏せろ! 耳塞げーーーっっっ!!!」


 ズ ドォ ーーーーー ン !!!


発射音と衝撃波で建物自体が大きく揺れた。

床に伏せて耳を塞いだが、至近距離では防ぎきれない。内耳がキーンと痺れて痛み、目眩で頭がクラクラした。

それでも必死で両目を見開き、砲撃の結果を目視する。

「 !!! 」

言葉を失い戦慄した。

あまりにも凄惨な有様だった。


「・・・これ以上苦しまないよう、一瞬で終わらせてあげたつもり。」


華奢な肩から大砲を下ろし、ベアトリーチェが呟いた。


「もう痛みも苦しみも感じないでしょう。

悲しいわね。こんな優しさ・・・。」


妻の言葉に夫のマックスが小さく頷く。

彼はゴリラもどきをそっと床に寝かせてやった。

その横には先端が潰れた鉄の塊が一つ無惨に転がっている。

装甲車の外装ぶち抜く徹甲弾。

そんな威力の砲弾でさえ、キメラ獣の強化骨格を貫通する事が出来なかった。

しかし砲撃を受け止めたゴリラもどきの頭部は原形留めていない。

兵器としてこの世に生まれた悲しい命を終わらせてやれた。

残酷で悲しい優しさだった。

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