色男×2とメタボ野郎と
少し時間が巻き戻る。
ちょうどロディ達が地下でゴリラもどきと対面していた時、J-5では何故か シンディ がとっ捕まっていた。
「痛いわね! 何すんのよ!」
後ろ手に縛られたシンディは、格納庫の冷たい床に放り出されて激怒した。
何とか両手を解放しようともがくものの、よほどしっかり縛られたらしく、ほんの少しも緩まない。怒りがさらに増加した。
「レディは丁重に扱いなさいよ!この朴念仁!」
「間違ってもお前は淑女じゃない。
少しは黙れ、ちびっコロ。」
男が冷酷に言い捨てた。
シンディは相当暴れたようだ。男が来ている安物スーツは所々が破れていた。
「おい!子供に乱暴するんじゃない!」
シンディ同様、突き倒された青年が抗議した。
ジョボレット社長・アントニオの秘書 ルドガー である。金髪碧眼で美形の彼も、後ろ手にきつく縛られている。
スーツ姿ではなくシャツとチノパンの出で立ちだったが、それでも雑誌モデルのようにカッコいい。
安物スーツの男がフン、と忌々しげに鼻を鳴らした。
「結構なご趣味だな、ハンサム・ボーイ。
独身貴族が未成年とデートか? ジョボレット社内の女共が泣くぞ?」
「ナニ僻んでんのよ、自分が真逆の見た目だからって!
そんなに嫉むんなら、ちょっとは努力して痩せなさいよ!アンタ、今着てるジャケット前ボタン留まんないんでしょ!?」
シンディの勢い任せの罵倒は図星だったようである。
「や、やかましいっ!」
露骨に顔を赤らめた男が、大人げなく激昂した。
「 ・・・ お前は!? 何故ここに居る!?」
突然、若い男の声がした。
格納庫内で何やら物々しく動き回っている作業員達。それを押し退けるようにして、高級スーツをビシッと着込んだ男が近づいて来る。
こっちもかなりの色男。幸か不幸かその美貌を買われ、ハニートラップ要員にされた、彼らのボスの用心棒である。
「答えろ バウトル !
なんでお前がここに居る?! どうやってJ-5に入ったんだ!?」
バウトルと呼ばれた男はニヤリと笑い、戸惑いを見せる新参者に向き直った。
「アンタ、 ネーロ・ファミリーの ザード だったな?
J-5に常駐してるアンタの部下を1人、買収したんだ。
そいつに入れてもらったのさ。いろいろ教えてもらった上で。」
冷たい醒めた笑みだった。見た目にそぐわない不敵な様子にシンディ・ルドガーも驚かされたが、新参者=ザードにも彼の態度は相当意外だったようだ。
「チッ! 余計な仕事が一つ増えたな、後でそいつは始末しないといけない。
・・・他のヤツらはどうした? お前以外に役立たずがもう2,3人いただろう?」
「シャトルで地球に向かった。
会社に逃げ込むつもりだろうが、アイツらはもうどうにもならない。」
「? どういう事だ?」
「俺達の会社はもう詰んでいる。
得体の知れないヤツに 襲撃 されたそうだ。本社ビルは半壊、社長邸宅は全壊。現地じゃその話題で持ちきりになっている。
もともとクズ企業だ。襲撃事件に群がるマスコミ共が、裏でやってた悪行三昧を全部暴露しちまう。
ブランドン・エキスプレスはお終いだ。だから俺は行かなかった。」
「・・・お前、知ってて他のヤツらに教えなかったな? 」
バウトルは答えない。
ニヒルな笑みを崩さないまま、ちょっと肩をすくめて見せただけだった。
(思い出した!
そうよコイツ、発信器付ターゲットの1人だわ!)
2人の会話をずっと聞いていたシンディは、不意に気が付き目を見張った。
MC・3Dが始動する前、事前準備の資料を見た時顔写真が載っていた。何人か居るターゲットの中で、一番太ってて醜かった男に間違いない。
(ブランドン社から来た回し者!
でも資料の写真とはまるで別人だわ、何なのこの喰えない奴!?
確か ターゲットA だったかしら?
カルメンさんが発信器食べさせたはずの・・・。)
中枢支社ビルのメイン食堂「セ・デリシユ」。
その辺の男にはもったいないほどいい女♡を自負するカルメンの本性を、一瞬で看破した メタボ野郎 である。
「なるほど、人は見かけによらないな。」
ザードが驚きを隠せず苦笑した。
「しかし、いったい誰がブランドン社を襲ったんだ?
腕利きの傭兵部隊が奇襲掛けたとでも言うのか・・・?」
「さぁな。
それよりアンタ、俺を雇ってくれないか?」
「・・・なに?」
眉を潜めて思案していたザードが改めてバウトルを見た。
「晴れて無職になっちまったんでね。
アンタらがやろうとしている ビジネス が気に入った。」
バウトルが首を巡らせ、素早く目線を走らせた先。
何かが有るのに気付いたシンディは、彼の目線を追って見る。
( !? 何アレ?!)
薄暗い格納庫の真ん中あたりに大きな 檻 が鎮座している。
麻酔薬でも打たれているのだろう。中で横たわる ゴリラもどき は、頑丈な鎖でがんじがらめに拘束されていた。
「ゴリラにしては身体が小さい。なるほど メス の個体か。
商談用サンプルには丁度いいな。
キメラ獣密売は危険だが大金が入る。俺もそういう仕事がしたい。」
ピクリとも動かないゴリラもどきをジッと眺め、バウトルが小さく冷笑する。
そんな彼とは対照的に、ザードは少々神経質だった。
「おい、あまりベラベラ機密を話すな。
そっちの小娘、たぶんアントニオ社長が雇った諜報員だぞ? 何をしでかすかわからない。」
「諜報員?こんなちびっコロが? 」
「さっきジョボレット中枢支社ビルの地下で、そいつと同じくらいの歳の小僧が得体の知れない小道具使って俺達を翻弄した。
ジュニアが最近雇った秘書もスパイだったし、おそらく仲間なんだろう。
コイツらをどこで捕らえた?」
「J-5の周りを仲良くウロウロしてたのさ。
色男と巨乳のちびっコロ、目立つ事この上なかったぜ?」
影で暗躍しているはずの諜報員が、人目引いてりゃ世話がない。
そう言いたげなバウトルの口調に怒りを覚え、噛みつこうとしたシンディをルドガーが身をよじって背中で制す。
「止めろ、この娘は関係ない!
俺の単独行動だ! ドロリス・ナージャの動向を調べていて、J-5に行き着いたに過ぎない!」
「あの女の? なんで社長秘書のお前が単独で?」
「っ! こ、個人的事情でだ!」
「ワケがわからないな。」
ザードがジャケット内側に手を入れ、ショルダーフォルスターから銃を抜く。
ルドガーの額に狙いを定め、銃口を向けてセーフィティを外す。
「話せ! 知ってる事全部だ!」
「 !? 断る!」
「おい、状況わかってるのか?
今すぐあの世へ送ってやってもいいんだぞ?!」
「遅かれ早かれ殺す気だろう!?
とにかく断る!断るったら断るっっっ!!!」
2人の色男が繰り広げる物騒で奇妙な激しい応酬。
それを横目にシンディは、この状況の打開策を1人必死で考えた。
(どどど、どーしようどーしようどーしよう!!!
このままじゃきっと、ホントにあの世に送られちゃう!
あぁんもう! 両手さえ縛られてなきゃ、こんな奴ら簡単にぶっ飛ばしてやれるのに!
そうよ私、強いんだから!
エベルナでリーベンゾル兵に襲われた時だって、アーバインのマイルズでテロに遭っちゃった時だって、何人も仕留め倒したんだから!
なのに、みんな子供扱いして! 誰が巨乳のちびっコロよ、絶っ対に許さない!
自由になったらコイツら全員、殴りまくってやるんだから!!!)
思考がいささか横道に逸れた。
何はともあれ、両手の自由を回復しなければ粋がったところで仕方が無い。
(都合良く誰か助けに来ないかしら?)
救いを求めて辺りを見回し、ふと一点で目がとまる。
知ってる顔が見えたのだ。
格納庫に幾つかある入口の内、一番遠くで開け放たれてる扉の影。
潜んでコッソリこっちを伺っているのは、とても意外な人物だった。
(ス、スーリャ?! なんでここに!?)
ジョボレット火星宙域危険地域配達員・ジラルモの娘、笑顔が可愛いスーリャちゃん。
シンディはただ呆然と、その笑顔を凝視した。
「おいおいおい!こいつぁどういう状況だ?
ルーキー1匹、ミッション離脱。隊長の監督不行き届きだ、鉄拳制裁は免れねぇな!」
都合良く現れた救助者は、別の扉から入ってきた。
鋼鉄製の頑丈な扉をいとも容易くこじ開けたのは、鋼鉄製の機械義手。
格納庫内で作業をしていた男達が、全員一様に血相を変える。
銃を抜き、その銃口を侵入者に突きつけ狙いを定める。どれも威力ある銃ばかりだったが、侵入者は怯むどころか至極幸せそうだった!
「おぉ、いいねぇ!
こうでなくっちゃ、ツキが来ていたルーレットの勝負諦めてきた甲斐がないってモンだ♪」
チェルヴァーリアを出てから今まで、カジノでルーレット・ゲームに興じていたらしい。
闘志溢れるネーロ構成員約4,50人。
それと対峙する 義腕の巨人 が、自慢の義腕をひけらかす!
「OK! いつでもいいぜ、掛ってこい!!!」
マックスが凶暴に破顔した。




