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ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
潜入!無敵通販ジョボレット!②
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危険な「アレ」は新商品

相手がネーロのチンピラだけなら、モカの予想通りにビオラが「圧勝」していただろう。

彼女はハニートラップを得意とする諜報員だが、優秀な戦士でもある。電磁ムチを使わせれば(女王様なだけに)ほぼ無敵だし、体術の腕もかなりなもの。

しかしそれが今、相手が痩せっぽちの中年女だというのに押されている。

電磁ムチの攻撃を最小限の動きでかわし、狙い定めて銃を撃つ。ドロリス・ナージャの動きにはまったくもって無駄がない。

すでに息を切らしつつあるビオラが、次第に壁際へ追い詰められていく。

(あり得ね~。あのオバちゃん、手練れじゃんよ。

なんで一企業の社長夫人(事実婚)が、傭兵並の実戦訓練積んでやがんだ?)

ジュニア=ナムは驚きを隠せなかった。


「・・・きゃっ!?」


突然、ビオラがよろめいた。

疲弊した足がもつれ、体勢を崩したのだ。この絶好のチャンスを敵が見逃すはずはない。

銃を構えるドロリスが口を歪めて嘲笑した。

(ヤバい!)

ジュニア=ナムは咄嗟にエレベータから飛び出した!


「 ママぁ ~!」


ドロリスがハッと振り返る。ビオラを狙う銃が下ろされ、険悪だった顔つきが甘ったるい笑顔になった。

「まぁ坊や!無事だったのね?

とっても心配したわよ、マイ・ボーイ♡♡♡」

(うわぁ・・・。)

全身の毛が逆立った。

嫌悪感が半端ない。逃げ出したいのを必死で堪え、愛想笑いで「ジュニア」を演じる。

「う、うん大丈夫だよ、ママ♡」

「もう、イケない子ね。意識が戻ったならママに教えてくれないと。

それに、勝手にママから離れちゃ めっ♡ でしょ? いったいどこに行ってたの?」

「(ひいぃ、キモ!)ゴメンねママ。

助けを呼ぼうと思ってエレベータで1階まで行ってたんだ。誰もいなくて戻って来たけど。」

「1階へ? それじゃアナタ、ザードを見なかった?

あの人もいなくなっちゃったの。」

「えっ?あー、み、見てない、かな?」

実際、ザードの姿は見ていない。

ジュニア=ナムが地下へ向かうエレベータの前に駆け付けた時、かご室は1階で止っている状態ですぐに乗込む事ができた。ザードが逃走した後だったのだろう。その行方が気になるが、今はそれどころじゃない。

ドロリスにはジュニアのオフィスで対峙した時、変装を看破されている。

また見破られると厄介だ。騙し通すのは無理だとしても、この場を凌ぐまではなんとか気づかずにいて欲しい。

「そ、そーだママ!

あの扉の向こうへ行っちゃったかも知れないよ?

もしかして、だぶん・・・。」

特に深い考えも無い口から出任せの一言だった。

しかしドロリスの顔色がサッと変わる。彼女は忌々しげに舌打ちした。

「そういえば一緒にくっついて来たネーロのチンピラ2匹もいないわね。

厄介だわ!ステイシアの小娘はともかく、アレ をアイツらに嗅ぎつけられると面倒なことになる!」


(・・・アレ、とな?)


聞き捨てならない言葉である。

ジュニア=ナムはさり気なくカマをかけた。

「え~、いいじゃんそんなの~。早くお家に帰ろ~よ、ママぁ~。」

「ごめんね、マイ・エンジェル♡

アレだけは連中にバレるわけにはいかないの。」

あえて撤収を促す発言をすると、案の定「アレ」について話し出した。

ドロリスの口元がいびつに歪む。

負の感情しか持ち合わせていない、まさに悪女の笑みだった。


「せめて 買い手 がつくまでは秘密にしておかないと。マフィアなんかに気取られたら、なんのちょっかい出されるかわかったものじゃないわ!

そうそうマイ・ボーイ。貴方、アレに名前付けたがってたわね。

いい 商品名 を思い付いたら、ママに教えてちょうだいね。わかった?ハニー♡」


「・・・わかったよ。ママ・・・。」

ジュニア=ナムはうなづいた。


ドロリスは「アレ」を商品だと言った。

この場所で造られた、まだ名前の無い商品。これはある恐ろしい事実を言い表している。

キメラ獣の新規開発・製造である。

「大戦」最中に生物兵器として生み出されたコンバット・ベアー等の既存種。その製造・売買でさえ問答無用で土星強制収容所(極悪人の墓場)送りになる事案。

ましてや、新たな「種」を生み出したとなると・・・。


(こんなの世間にバレちまったら、アントニオ社長が破滅するだけじゃ済まねぇし!

企業そのものが太陽系中からヤバい思想のテロ組織扱いだ。ジョボレットは完全に終わっちまう!

夫婦ゲンカでここまでするか? マジイカれてンな、このオバちゃん!)


ここまでやっちゃう要因は、いったい何だというのだろう???

ジュニア=ナムはゴクリと生唾を飲み込んだ。

「それじゃ坊や。

ママ、ちょっとこの先に言ってみるわね。」

慄く偽息子の心情をよそに、母は再び銃を構えてビオラの胸元をピタリと狙う。

「でもその前に。

このアバズレをどうしようかしらね?

ここで息の根止めてもいいけど、死体の始末が面倒ね。

ネーロのチンピラ共に始末させようかしら?見た目()()はお綺麗だもの、喜んで請負ってくれるでしょうよ。」

「あっ、じゃあ、縛っておくよママ!」

ジュニア=ナムは自分がしていたネクタイを解いた。

「それから、この先には俺も行くよ!

ママの事が心配なんだ。何かあったら大変だし。ね?ね?ね!?♡」

「あらあら、坊やったら。」

息子(偽)の必死の懇願に、ドロリスが呆れたような吐息をついた。


「そんな事言って!ママはちゃぁんとお見通しよ♡

一緒に来たがる狙いは ステイシア でしょ?

貴方、ずっと前からあの娘を()()にしたがってたものねぇ。」

「え?は、ははは。バレた?(うっわ、ゲス過ぎる!)」

「仕方ない子!でもまぁいいわ。始末する前に()()くらいは許してあげる。

でもその女はダメよ!

ブラジャーのサイズで玩具を選んじゃダメって、ママ、いつも言ってるでしょ?」

「ヤ、ヤダなぁママ。こんな見た目()()の女なんて要らないよぉ♡

(何ちゅー会話だ、コレ。)」

「わかればよろしい。いい子ね、マイ・ボーイ♡」

「・・・。(サイテーだなコイツら。)」


嫌悪感で吐き気がした。

それでも必死に笑顔を作り、ジュニア=ナムはビオラ傍らに跪く。

彼女の両手を後ろ手に、すぐ解けるよう緩めに縛る。

おとなしく縛られるビオラが前を向いたまま、小声で悪態付いてきた。


(誰が「見た目だけ」ですって?!アンタ、後で覚えてなさいよ!)

(助けてやったんだろーが。文句言うなっつの!

それより俺達がこの先に進んだ後の事、ヨロシク。

1階と25階でうろついてるルーキー2匹、拾ってモカと合流してくれ!)

(2匹? 1匹どーしたのよ?)

(シンディがミッション離脱。また1人で勝手に行動してる。

他にも離脱者がいてね、今、カルメン姐さんがとっ捕まえに行ってんだ。)

(まったく何やってんだか!)

(俺は陰険ババァにくっついてってロディとお嬢様回収する。

頼んだぜ姐さん!)

(わかった。ムリすんじゃないわよ!)


ビオラが小さく頷くのを見届け、ジュニア=ナムは立ち上がった。

「ママ、できたよぉ~♡」

「上出来よ♡ さぁ行きましょう。」

まだ変装がバレてない。偽の息子に甘ったる~く微笑みかけて、ドロリスが扉の脇に立つ。

ジャケットの内ポケットから カードキー を取り出すと、素早くリーダーにそれを通す。

暗証番号の入力はない。扉はすぐに左右に開いた。

「くれぐれもママから離れちゃダメよ?

大事な貴方に何かあったら大変だから。いいわね、マイ・ディア♡♡♡」

「は~い、ママ♡(・・・ひぃ~。)」

正直、メチャクチャ気色悪い。

舎弟の命が掛っていなけりゃ、関わり合いたくない相手。

糖尿病誘発系毒母親に付いていく、ジュニア=ナムの足取りは重かった。

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