闇のロッジで返り討ち♪
暗視ゴーグルを装着した男達が暗闇の中を駆け抜け、ロッジ周辺に集まって来た。
銃を構えた男達が3,4人ずつが5組に分かれ、所定の場所で身を潜める。
ロッジの玄関口に潜む組で、中の様子を伺っていた男が訝しげに首を傾げた。
「・・・静かだな。どうなってるんだ???」
物音1つ聞こえない。ロッジは不気味なほど静かだった。
おまけに人の気配がまったく感じられない。突然起った停電に怯え、恐怖で混乱している宿泊客達の姿を想定していた男達は、全員一様に不思議がった。
「結構な数で来やがったな。
しかもコイツら、ロッジにいる奴皆殺しにする気満々じゃねーか。」
腹が減っては戦は出来ぬ。
バックヤードの部屋でカップラーメンを啜るナムは、PC画面映し出されるカメラ搭載蜂型ロボの映像を見て不機嫌そうにつぶやいた。
「みんなの楽しいリゾート地でなにイキリたってやがんだか。」
『うっわ、イヤッスね~。どいつも血走った目ぇしちゃって。
なんのためにこんな事してるんッスかね?水星宙域にはここまで気合いの入ったテロ組織なんていないはずなんッスけど。』
ピンバッチの通信機からロディの声が聞こえてきた。別の場所でタブレット型の携帯モバイルからこの映像を見ているのだろう。
「スタンバイ、OK?」
『オールOKッス!任せといてください!』
「よっしゃヨロシク!」
やる気満ちあふれるロディから、地下にいるモカへと通信機相手を切り替える。
「モカ、そっちの状況は?」
返事はすぐに返ってきた。
『・・・ロッジのスタッフ、及び宿泊客全員避難完了。
カルメンさんも定位置についています。』
声が冷めてて素っ気ない。ナムの顔から血の気が引いた。
「あ、あれ?もしかして、なんか怒ってる?」
『・・・知らない。』
「ちょ、なにその冷たい反応?!」
慌てふためくナムの背後で、無惨な姿でふん縛られてるマイキーが呆れた様につぶやいた。
「兄ちゃん、もちょっとデリカシーってヤツ勉強しないと可愛いカノジョにフラれちゃうよ?」
「う、うっせぇし!なに上から目線で説教くれてんだこの三品野郎!!!」
「あの~、ちょっとよろしいデスカ?」
マイキーの隣で正座するゲオルグがオズオズと口を挟む。
「コレ、どういう状況なんでしょうか???」
頭に暗視ゴーグル装着、胴には薄手の防弾チョッキ。
ガッチリ防御を固めたゲオルグがすっかり怯えて縮こまっていた。
「ま、あんまり深く考えずに。
人でも足りないしさ、ちょいとばかり手伝ってよ。危険な事はさせないからさ♪」
「・・・はぁ・・・。」
不安げなゲオルグが自分の手元へ目を落とす。
その手には、何に使うか見当も付かない小型の機器が握られていた。
玄関からロッジのロビーに侵入した不審者達は、奥へ奥へと進んでいった。
全員臨戦態勢で銃を構え、緊張した面持ちで用心深く周囲のを伺う。
誰もいない。それが不思議で仕方が無かった。
ロッジの従業員や宿泊客はいったいどこへ?不気味な静けさが不安を煽った。
「・・・???」
先頭を行く小柄な男が、急に足を止め目を見張る。
ロビー中央に据え置かれた、モダンな暖炉。
火が消え冷め切ったトーチ型の暖炉の上に、何かが座り込んでいる。
「えっと・・・サル???」
つい口からこぼれ出たつぶやきを、「サル」は耳にし激怒した。
コンポンは耳が良い。
彼はガバッと立ち上がると、手にした物を身構えた!
「誰がサルだ!
喰らえ!ぬとべちゃ光線ーーーっっっ!!!」
持っていた物は小型のスプレー。ノズルからは光線ではなく白い液体が迸った!
ぬとぐちょどべしゃーーーーっっっ!!!
男達は気色の悪い液体を全身くまなく浴びせ掛けられ、その感触に絶叫した!
「ぎゃーーー!なんじゃこりゃぁぁぁ!?」
「説明が必要ッスね!?♪」
白濁色の液にまみれてのたうち回る男達を尻目に、ロディが元気に声を上げた。
「これは俺が発明した『どっかんクッション・霧っとケシタルデーⅤ』ッス!
奇跡の特製衝撃吸収材を液体化したもので、環境に優しい素材でできてて無味無臭!
・・・って、ナムさん、コレ武器なんかじゃないんッスけど!?」
『いや 凶器 だろ、それは・・・。』
ナジャでその威力を味わったナムの声は非常に暗い。
ラグジュアリーな感触に発狂寸前の不審者達は、コンポンの未熟な棍棒の腕でもいとも容易く仕留められた。
一方、ロッジの裏手では。
通用口から伸びる廊下に みりん醤油 の香りが漂い、無駄に食欲をそそっていた。
「もぉ、ロディさんったら!般若に変な煙、仕込まないで欲しいわ!」
メリケンサックをはめた両手で拳を握るシンディが、仁王立ちして愚痴をこぼす。
「髪に匂いが移っちゃう!停電中だから今日、お風呂に入れないかも知れないのに!」
「どうでもいいだろ、そんなのは。
それより手伝えよ。早くしないと、目ぇ覚ましちゃうぞ!」
フェイがウエストポーチから拘束用のワイヤーを引っ張り出す。
足下に落ちていた物は邪魔だったので廊下の隅に蹴りやった。
まだ口をカタカタ動かしていた「マヌケ顔の般若」は廊下の壁にコツンと当たって動きを止めた。
「こ、この人達、大丈夫???」
白目を剥いてる男達を何とか起こし、後ろ手にしてふん縛る。
おっかなびっくり手伝うスーリャが怯えた声で聞いてきた。
「優しーなぁ、スーリャちゃん♡
大丈夫だよ。この人達プロの傭兵みたいだし、不意打ちされたとは言えシンディなんかのパンチで死んだりしないって♪♡」
「なんか?!アンタ今、アタシなんかのって言った!?」
いがみ合い始めたフェイとシンディ。その背後から危機が忍び寄る。
シンディのパンチを喰らって気絶しなかった者がいたのだ。右頬に大きな痣を作った男がコンバットブーツからナイフを抜き出し、身を翻して襲い掛かる!
バキッッッ!!!
次の瞬間、そいつは飛び散る木片と一緒に吹っ飛んだ!
「きゃー!スーリャったら、やるじゃない!♪」
シンディがスーリャに飛びつき抱きしめた。
息を切らして立ち尽くす茫然自失のスーリャの手には、通路の隅に積み上げられていた デカくてごっつい木製の椅子 の背もたれ部分がしっかり握りしめられていた。
「スーリャちゃん、ステキだーーー♡♡!」
バキッッッ!!!
同じく抱きつこうとしたフェイは、シンディの拳で成敗された。
さらに一方、地下ショッピングモールの非常階段。
直接外部に出られる仕様のこの階段から侵入を試みた連中は目を剥いた。
(・・・ここ、スキー場、だったよな???)
待ち構えていた女の姿に度肝を抜かれ、思わず心に問いかける。
女はまるで戦地の激戦区にでもいるかのような、とんでもない出で立ちだった!
「よくも来やがったなクズ共が!」
両手に銃を一丁ずつ構え、女が目を据わらせた。
「ここから先に行けると思うな、全員まとめてぶっ殺してやる!」
『待ってくださいカルメンさん!
宿泊客の皆さんが怯えてます、ここは一つ穏便に・・・!』
カルメンの通信機はピアス型。そこから聞こえるモカの叫びは無視された。
問答無用で戦闘開始!
どっかんクッションで身を守りつつ、果敢に攻め込むカルメンの狂気を感じる怒濤の連射!
持ちうる銃器の全てを使い、弾倉全部撃ち尽くすまで、彼女はトリガーを引き続けた。
敵方殲滅までに掛った時間は、約3分と25秒。
ショッピングモールの非常階段は見るも無惨な有様になった。
床に穴が空き壁はえぐれ、階段は銃創だらけでボッロボロ。
・・・凄惨だった。
「ちょっと姐さん。ソレ、やり過ぎ・・・。」
『殺さない程度にヤレっつったの、お前だろ?
大丈夫だ死んでない。トラウマ植え付けて再起不能にしただけだ!』
「・・・。」
トリガーハッピーな姉貴分の活躍(?)をカメラ搭載蜂型ロボのカメラを通して見ていたナムは、頭を抱えて項垂れた。
このロッジを経営しているジョボレットに申し訳ない。妙な罪悪感が胸をよぎった。
しかし。
「まぁしょーがないか。
手ぇ打たずにアイツら好き勝手させてりゃ、ホントに死人が出たんだし♪」
汁までキレイに飲んでしまったラーメンのカップをデスクに置く。
空いたその手で棍棒を握り、ナムは椅子から立ち上がった。
「人に命にゃ替えられないよな。いろいろ ぶっ壊れ たりしても♪」
・・・含みのある言い方だった。
不穏なモノを感じたゲオルグが、怯えた目をしてナムを見上げる。
「な、何する気なんですか、いったい・・・???」
ナムは答えない。
その代わり、PC画面の映像を見てニヤリと笑った。
ふてぶてしく、狡猾に!
カメラ搭載蜂型ロボが送る映像の一つに、ロッジの厨房を映したものがある。
厨房内部にはロディ特製のブービートラップが仕込んであった。
映像ではトラップにはまり阿鼻叫喚する不審者達が見て取れた。




