ナンパ少年、手当たり次第!
へっぴり腰で滑り出すたび、派手に悲鳴を巻き散らしては人目を集めてすっ転ぶ。
スキー初心者シンディを連れての上級者山林コース滑降は、当然ながら困難を極めた。
「アタシ、もぉスキーなんてやんないんだから!」
「あーそー、そーしてくれたら助かるわー(怒)!」
「だから付いてくんなって言ったンッスけどねぇ・・・。」
軽快に滑走するスキーヤーやボーダー達に遠慮しながら愚痴る子供を背中に背負い、3人分の板やボードを両手に抱えてふらつく舎弟と一緒に歩いて下山。
みっともない事この上ない。無事に麓に辿り着くときには精根尽き果て、クッタクタだった。
「お帰りなさい!寒かったでしょ?ココア、あるよ♪」
ロッジのロビーで待っていた愛しいカノジョが女神に見えた。
ナム達が泊まるスキー場のロッジもまた、ジョボレットの施設である。
1階のロビーは木造風に設計され、木の温もり好ましい明るく広々した空間になっている。あちこちに古風な薪ストーブや暖炉を模した最新式の暖房機があり、それを囲むように座り心地のいいモダンなソファが据え置かれていた。
一番隅のストーブ脇にみんなで陣取りココアを啜る。冷えた身体に甘さと熱さが優しく染みいり、実に美味い。
「モカ、姐さん達から連絡あった?」
山林コースの頂上で見たターゲットの「要塞」に、先行潜入しようとしている姉貴分達の安否が気になる。
マグカップを両手で包み、冷えた指先を温めながらナムはモカに聞いてみた。
隣のソファに腰掛けたモカの表情が微かに曇る。ウエストポーチから携帯モバイルを取り出すものの、画面を見ただけで収めてしまった。
「うぅん、まだ。2人とも、入り込めたらすぐ連絡するって言ってたんだけど・・・。」
「い、生きてるッスよね?」
「それは大丈夫だよ、ロディ君。
あんな兵器だらけの別荘に正面から攻め込むなんてとても無理。
裏口から入るって言ってたよ。出入りしている業者さん(男)や働いてる従業員さん(男)に協力してもらって。」
「結局、ハニートラップか。ま、カメラ搭載蜂型ロボが使えないんじゃ仕方ないな。人力で情報かき集めるんだったら、何とかターゲットの根城に潜入しないと。」
ナムはマグカップを煽ってココアを飲み干し一息ついた。
「珍しいな、モカがココア飲むなんて。今日はコーヒーじゃないんだ?」
「うん。コン君が美味しそうに飲むから、私も久しぶりに飲みたくなって♪」
モカがストーブを挟んだ向かい側、ロビーから出るテラスに近い壁際のソファを眺め見る。
コロコロに着ぶくれしたコンポンが、ココアをチビチビ啜っていた。
「俺、雪って嫌いなんだ。」
セーター、マフラー、ニット帽。完全防寒のコンポンがストーブの前で丸くなる。
「寒いのは服着りゃ何とかなるけど、雪って冷たいし濡れるしさ。積もってると動きにくいし。」
その幸せそうな様子に呆れ、シンディが眉をつり上げ噛みついた。
「もー、なにさぼってんのよ!
アンタはロッジでいろいろ聞き込みする事になってたでしょ?!ちゃんと働きなさいよ!」
「ンだよ!聞き込みならちゃんとしたぞ?!特に何にも無かっただけで!」
反撃するコンポンの言葉に、モカが困ったように言い添えた。
「そうなの。コレと言った情報はなにも拾えなかったの。
ロッジの従業員さん達も宿泊客も、世間話はしてくれるけど社長の事となるとさっぱりで。
教えないっていうより、よく知らないって感じ。すごく尊敬はしてるみたいなんだけど。」
ナムは空のマグカップをテーブルに置き、腕組みして考えた。
「このスキー場にはターゲットも時々顔見せに来るっつーから探ってみたけど、聞き込みで得られる情報はまるで無し、か。
なんかネタ持ってりゃ、子供相手ならポロッと喋ってくれる事あるんだけどな~。
・・・って、あれ?」
ふと、気が付いて当りを見回す。
子供が1人足りない。フェイの姿が見当たらなかった。
「フェイのヤツ、どこ行った?」
「あ、えっと・・・。」
モカの笑顔が微妙に引きつった。
言いにくそうに口をつぐみ、ナムの肩越しに目線を送る。
ロビー中央付近に設置されたモダンな暖炉が炎を上げて暖かそうに燃えている。
その前に据え置かれたソファの前に、軽薄な感じの見知った子供。
フェイだった。みっともないほど饒舌に、ソファに座って暖を取る可愛い女の子を口説いている!?
「・・・嘘じゃないよ?キミ、信じられないくらい可っ愛い~♡んだ!
ここ、雪山なのにさ、南海の人魚姫に出会っちゃったかと思ったよ♡
いや、おとぎ話のお姫様どころの話じゃないね。まさに真珠そのものって感じ?
美しい南の海の黒真珠!もうキミ、サイコーだね♡
俺、仕事でここに来てんだけどさ、キミみたいな美女に出会えただけでもう、ミッションコンプリート♡だよ!♡♡♡」
モカが黙ってしまうのも頷けた。
一緒に振り向き肩越しに、舎弟の醜態を目の当たりにしたロディも頬が引きつっている。
フェイはルーキー3人の中では一番常識的で賢いのだが、女好き。
まだガキンチョのクセにストライク・ゾーンが幅広く、かなりのお歳の熟女から就学前の幼児まで女とみれば一先ず口説く。
荒くれだけどフェミニスト♡なマックスやテオヴァルト達とはひと味違う、結構軟派なヤツだった。
(・・・他人のフリした方がよさそうだ・・・。)
ナムとロディは静かに前へと向き直る。
ただでさえ厄介なミッションの最中である。余計なトラブルはゴメンだった。
「何やってんのよ、恥ずかしい!
仕事さぼってナンパだなんて、チャラいにもほどがあるわサイテーよー!!!」
隣でココア飲んでいたはずのシンディが、いつの間にやら居なくなっている。
ナムは頭を抱えて項垂れた。
「げ!チビおかん!?」
襟首掴まれ拘束されたフェイが青ざめ悲鳴を上げた。
「誰がチビおかんよ!?変なあだ名、付けないでくれる?!
・・・あ、ごめんなさい、ウチの舎弟が妙なちょっかい出して。」
暴れるフェイを片手でぶら下げ、シンディはソファに座る少女に詫びた。
確かに可愛い娘だった。歳はシンディ達と同じくらい、滑らかな黒褐色の肌に大きな黒い瞳、この人種特有の縮れた髪をキレイに編み込み小洒落たバレッタでまとめてある。
雪景色より南の暖かい海が似合うような可憐さがある。フェイが真珠に例える気持ちもほんの少しわかる気がした。
「ちょっと待てよ!誰が舎弟だって?!人を勝手に格下扱いするとか、どーだよソレ!」
「うっさい!これ以上面倒掛けないでよ、もー!ホンッと子供なんだから!
貴女もこんなのに絡まれて迷惑だったでしょ?すぐ回収するわ!」
シンディの乱入に驚く少女がふわりと優しく微笑んだ。
「うぅん、いいの。
1人で退屈してたから、とても楽しかったわ。(白い歯、キラーン☆)」
(・・・ん???)
ジタバタもみ合うシンディとフェイは2人一緒に動きを止めた。
少女のステキな笑顔に既視感を抱いたのだ。初対面のはずなのに、何故か見覚えあるように思う。
いつ?いったいどこで???
2人は眉を曇らせて互いの顔を見合わせた。
その時。
「あ、パパ!お帰りなさい♡」
少女の顔が輝いた。
「スーリャ!ゴメン、待たせたね。」
自動開閉するロッジの玄関から冷たい風を纏って入ってきた男性が、優しい声で少女の名を呼ぶ。
グリーンのスキーウェアを着て毛糸の帽子を被っているごくフツーのスキー客。
しかし近づいてきた彼を見るなりシンディが、彼を指さし絶叫した!
「あーーーっ!?
アンタ、なんでここに居るのぉーーーっ!!?」
「それはですね、お嬢さん!」
少女の父親の白い前歯が目にも眩しくキラリと光る。
「ここが我が社の保養所で、私は有給休暇取得中。
つまり 家族サービス 中なのです!(キラーン☆)」
爽やかな笑顔がトレードマークの、ジョボレット火星宙域危険地域配達員。
勤続年数は約8年。確かにここは彼のような 猛者 を労う保養所だった。




