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ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
未来を育む森の唄
332/403

虐殺の証言

目の前の相手を牽制しつつ、少しだけ足を横に踏み出してみる。

ただそれだけなのに銃声が轟き、足下に転がる白骨が爆ぜた。問答無用の威嚇射撃にナムは内心舌打ちした。

「ガキ相手に大人げねぇな!いちいち撃つなよ危ねーだろが!」

「・・・。」

答えはない。銃を構える伍長の目は苛立ちの色を見せ始めていた。


局長・リュイがナジャに到着し、MC(ミッションコード)3D(スリーディ)5A(ファイブエイ)にチェンジした。

しかしその現状は絶望的。まさに手の施しようがない状況である。

密林(ジャングル)は広範囲に渡って炎上中。負傷者多数、しかも彼らはミッションには関係のない救出するべき民間人。なのに頼れる仲間はここには居らず、それぞれ別個に修羅場の最中。

ナム自身も回避不可能な修羅場に直面している。MPクリスタル鉱床前で、敵意むき出しで対峙するこの伍長はただの一兵卒ではない。

地球連邦政府軍・特殊公安局部隊。「政府公認の暗殺者」と恐れられる諜報員だ。兵士でないのがせめてもの幸いだが、手強い相手には変わりない。

それでさっきからずっと、相手の詰問をのらりくらりとかわしつつ起死回生のチャンスを窺っているのだが・・・。

「いい加減にしろ!戯れ言ばかりほざいてないで質問に答えろ、殺されたいのか?!」

「殺気ダダ漏れでよく言うぜ!答えたって殺る気だろ!?」

「無駄口を叩くなと言っている!!!」

銃のトリガーが引かれ、乾いた銃声が鳴ると同時にナムの右耳下辺りの髪がパッと飛び散った。

「貴様らにナジャ密林ジャングルの諜報を依頼したのは誰だ!?誰がこのMPクリスタル鉱床を探っている!?」

「だーかーら!コッチは下っ端の雑魚諜報員だぞ!?知るかよ、依頼主の事なんざ!

聞くんだったら現在絶賛逃亡中の禿ネズミ(エメルヒ)に聞けっつの!!!」

「ふざけるな!確かに貴様はまだ未成年のようだが、あの愚かな博士を逃がした手腕はただの諜報員ではあり得ない!

地下広場で脱いでみせた女の腕もかなりのものだった!禿ネズミ(エメルヒ)の手駒は信用できん!知っている事、知らされている事を洗いざらい吐け!!!」

「・・・姐さんのセミ・ヌード、そそられた?」

「部下の前で鼻血が出なかったのは幸いだった。・・・は!

な、なにを言わせるか不埒者!!!」

「このむっつりスケベめ♪!」

思わず軽い嘲笑が漏れた。相手が狼狽えた隙に腕時計をチラ見する。

MC(ミッションコード)がチェンジしてから結構時間が経っていた。しかしまだ時期早々。ナムは焦る気持ちを押し殺した。

一対一(サシ)で勝ち目がない以上、相手の殺気を削がなければならない。焦燥感が胸を焼く心中とは裏腹に、努めて陽気に振る舞ってみる。

「そういきり立たなくても、俺が知ってる事なら何でも話すぜ?

例えばビオラ姐さんのボディ・サイズとか。上から87・62・88 だってよ♪」

ほんの冗談のつもりだった。少しでもこの場を和ませるなら、通常極秘の個人情報でも遠慮無く利用し暴露する。

しかし意外な事に伍長の表情が微妙に変った。何かを考え込むように微かに眉を潜めたのだ。

「ちょっと。もう一回言っとくけどさ、あの女は止めときな?

悪女とかいうレベルじゃねぇぞ、ありゃ天災級の悪魔だぜ?」

「わ、私が今、思案したのはソッチではない!」

伍長が銃を構え直し、ナムの額をピタリと狙う。


「あの女は我々が 廃棄場 に追い詰めた時、様子が少々おかしかった。

何かを探しているように見えた。まさか、あの場所を最初から知っていたのではないだろうな?」


「・・・おい。今、なんつった?」

ナムは棍棒を握りしめる。

淡々と語り問いかける伍長の台詞に、明らかにおかしい言葉が混じっていた。

しかもその言葉はゾッとするほど不穏で不吉。ナジャという地が「大戦」時の激戦区だったのを考慮すれば、とてつもなく残虐な言葉だった。


「さっきの地下広場が 廃棄場 だと?!

そういや、あそこの死体はこの辺りとは違って比較的新しいものだった。

おそらく『大戦』中のもの、しかも正規軍人じゃない 傭兵 の死体ばかりだった!

てめぇら、あそこで無戸籍の傭兵達を 虐殺 したな?!

なぜだ?!自軍の戦力じゃねーか、なんで地球連邦政府軍は傭兵達にあんなマネを・・・!!?」


怒りにまかせての詰問は、その途中で答えを得たため立ち消えた。

口を滑らせた伍長が一瞬、ある方向へ目線を走らせ掛けたのだ。

そこにあるのは「悪党のお宝」。照明弾の光に輝くMPクリスタルを散りばめた巨大な鉱床。

推して知るには充分だった。

ナムは伍長に向かって思わず咆えた!


「MPクリスタルの採掘させてやがったんだな?!その人達に!

『大戦』が終わる時、鉱床の秘密を漏らさないために全員 始末 しやがったんだな!!?」


暗い静けさが訪れた。

地上で燃え盛り密林(ジャングル)を蹂躙する炎の音が遠く微かに聞こえてくる。それ以外は何も聞こえない、息が詰まるような重たい静寂。

先にそれを破ったのは、鉱床の側に立つ伍長の方だった。


「・・・ その通りだ 。」


伍長がナムの問いかけに初めて答えた。

「誤解を招かないよう言っておくが、ここで作業に従事していたのは全て罪を犯した『罪人』共だ。

雇われ傭兵とはいえ、軍規に背く者は厳重に罰せられなければならない。

凄惨な戦場では兵士の脱走は頻繁にある。そういった連中を捕らえ、ここへ連行して発掘作業に従事させていた。」

ナムの態度に激昂してもビオラの半裸に欲情しても、生真面目そうな表情をほとんど崩さなかった男の顔が冷酷無比に 笑っている 。

ナムは伍長を睨み付ける。沸き立つ感情を無理に殺して発した声は、妙に掠れて低く響いた。

「てめぇが指揮を取ったのか?あの広場の虐殺の!」

「いいや、私ではない。

指揮した者は軍部上層、かなりの上席に籍を得た。私は 実行 しただけだ。」

「!? てめぇ・・・!!!」

伍長の笑みがさらに大きく、いびつに歪む。

楽しげにすら見える嘲笑は、背筋を冷たく凍らせた。


「あの時は実に爽快だった。

無様に拘束されたクズ共を並べ、マシンガンを乱れ撃つ。遠慮など少しもする必要なく、思う存分銃のトリガーが引く事ができた。

反撃される恐れもなく人を殺せ、何人消そうが罪にならない。最高の気分が味わえた!

しかも遂行後は出世が約束されていた。

お陰で私は特殊公安局諜報部隊に籍を置くほど出世する事が出来たのだ!」


笑う伍長が次第に饒舌になっていく。

異様に興奮し、見開いた両目が爛々と輝く。目の前にいるナムなど見えていないかのようだった。

おそらく「あの時」の情景を眺め楽しんでいるのだろう。その様子はエリア6で見た男と重なった。

リーベンゾル・ターク。

人を殺めて歓喜する異常さは、あのバケモノにそっくりだった。


「・・・いや、そういえば一度だけ反撃に遭った。」

ふと、伍長が僅かに眉を潜めた。

「小花をあしらった妙な部隊エンブレムの傭兵部隊で『隊長』と呼ばれていた男だ。

部隊ごと戦線離脱しようとして全員捕らえ鉱床へ送り込んだのだが、その内の1人が「処分」の際、無駄な抵抗を試み逃走を図った。

私は大通りに続く路地へ駆け込むそいつを撃とうとした。しかしそれを阻止せんと、その男が両腕を拘束されているにもかかわらず私に襲い掛かってきた。

私はその勇気を評して、彼を私の手で()()()()()()()

彼は実に見事だった。

事切れる間際まで盛大にあがき、悶え苦しんで私を楽しませてくれた・・・。」


その部隊の「隊長」の事は何も知らないが、聞くに堪えない話だった。

この男もまた、正気じゃない!

ナムは棍棒を上段に構え直すと、笑う伍長に襲い掛かった!

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