詰めに向けての攻防② ワニとヘビとジャガーと熊と
ナジャの密林を流れる大河は川幅が2Km。
深さも一番深いところで5mを越える。500年前に密林を育て始めた人々によって造られた人口河川だが、今では野生動物達の命の営みを支える大事な水源になっている。
つまり、この辺りでは頻繁に出るのである。
動物園やテレビの中でしかお目にかかれない、それは見事な 肉食動物 が。
「ひいいぃい?!ワニーーーっっっっ!!?」
「ぎゃああぁ?!こっちにはヘビぃぃぃ!!?」
「・・・あれはクロカイマンですね。
大きいもので5m近くにまで成長するアリゲーター種のワニです。
こっちはオオアナコンダ。9mくらいでしょうか?
雌ですね。あの種は雄より雌の方が大きいんです。
どっちも人類を捕食できます。近づかない方がいいでしょう。」
「誰が近づくか!ナニ冷静に説明してんだアンタ!?」
「あ、そっちの木の上にはジャガーがいますよ?
こんな時だから襲ってくる事はないでしょうけど、念のため用心しておいた方が・・・。」
「いやあああぁあ!!?」
密林に広がっていく凶悪な火の手。
非常事態だ。異変に気付いた動物達がこぞって川岸に殺到している。
しかし非常時だろうと無かろうと、これだけ騒げば肉食獣でも近寄ってはこない。
必死の形相で逃げ回るカルメン&ビオラと考古学者ジュリオは、派手に喚いて野生動物達を蹴散らしながら、チャスカー艇がある密林外の荒野を目指していた。
「・・・うっ!」
カルメンがガクッとくずおれた。
川沿いのぬかるんだ地面に足を捕られたのだが、原因はそれだけではないようだ。
「ちょ、アンタ大丈夫?!」
「しっかり!私の腕に捕まってください!」
ビオラが慌てて立ち止まり、ジュリオも振り向き手を差し伸べる。
しかしカルメンはその手を邪険に振り払った。
「余計な気ィ使うんじゃないよ!アンタだって怪我してるだろーが!」
「し、しかしレディ!その足では・・・。
やっぱり、さっきの連邦政府軍の歩兵の方々に力を貸していただいた方が良かったのではないでしょうか?せめて、目指しているチャスカー艇に辿りつくまでは・・・。」
「なにぬるい事言ってんだ!さっきまた捕まりそうになってたくせに!
アイツら、不意打ちで襲ってきやがったんだぞ!?」
「だからって、全員返り討ちにしなくたって・・・。」
「お黙りっっっ!!!」
ピシャリとジュリオを黙らせカルメンは立ち上がる。
しかし左足首に巻き付けられたシャツの袖は、元の白地が見えないほどに真っ赤に染まりきっていた。
「ビオラ!この坊や連れてお逃げ!コイツをチャスカー艇に放り込んどきな!
エアバイクはアタシと副官が地下へ向かう時使っちゃったけど、まさ緊急避難用のエアカーがあった。それ乗って戻っておいで!早く!!!」
「アンタ、ナニ言ってんの?!
こんなところで1人いたらワニや大蛇に餌になるわよ、自殺行為だわ!」
「だから、お黙り!火の手が迫ってるんだ!とっとと行きな!
この足じゃもう走れないだろーが!エアカー取ってきた方が遙かに早いんだよ!」
「そうかも知んないけど、でも!」
どこまでも気丈なカルメンの叱咤に、ビオラが躊躇いを見せた、その時!
ボヒュン!
危機を悟るにはその乾いた音だけで充分だった。
カルメンは足の痛みに堪えて右に、ビオラはジュリオに飛びつき左に飛ぶ。
3人がいた場所の地面が大きく爆ぜた。ビオラはすぐに立ち上がり、素早く状況を確認する。
「ロケットランチャーだわ!信じらんない、なんてモン使うのよ!
カルメン!ちょっとアンタどこ?!」
立ち上る黒煙が視界を遮り反対方向へ逃げたカルメンの姿が確認できない。
負傷した相方の代わりに見えるのは、木々の影や茂みに潜んで迫ってくる銃器を携えた地球連邦政府軍の歩兵部隊。新手だ。その数10名強!
「カルメン!あぁもう、返事しなさいよ、この野蛮女!!!」
闇雲に走り出そうとするビオラをジュリオが制止し、大きな木の陰に引っ張り込んだ。
撃ってきた。ショットガンの散弾が幹をえぐり、周囲で茂みや木の枝が派手に弾けて飛び散った。
「彼らは私を捕らえに来た者達とは違うようだ!
きっと何の躊躇いもなく撃ってくる!今動くと殺されてしまいますよ!」
「だからナニ?!アイツ、足怪我してんのよ!?助けてやんないと死んじゃうわ!」
ビオラはジュリオの手を振り払った。
「だいたいなんなのよアンタ!なんで連邦政府の歩兵がアンタ捕まえに来るわけ?!
冗談じゃないわ!ただの貧乏学者のクセに、これ以上アタシ達の邪魔しないで!迷惑よ!!!」
「いや、しかし!・・・って、え???」
必死で引き留めようとするジュリオが突然、固まった。
いきり立つビオラの肩越しに何を異様な物でも見つけたようだ。唖然とした面持ちのまま、目を剥き一点を凝視する。
「あの・・・ビオラ、さん?」
ジュリオは掠れた声でつぶやいた。
「密林に 灰色熊 っていましたっけ・・・???」
「・・・はぁ???」
あまりに唐突な質問に、ビオラも思わず呆気にとられた。
ジュリオの異常な表情に直面している危機を忘れ、つい肩越しに振り向いてみる。
その恐怖を味わうにはたった一目で充分だった。口から絶叫が迸る!
「!!! ひいぃぃいぃ!!?」
あまりの光景に恐れ戦き、ビオラはジュリオの胸にしがみついた。
「・・・無事なら、よし!」
ナジャの修羅場に現れた巨大な灰色熊が言葉を発した。
その犠牲者はすでにでている。仁王立ちする灰色熊の足下に、ビオラ達を仕留めようとした地球連邦政府軍・歩兵達が数名、白目を剥いて横たわる。
しかもごっつい右手には、ヘッド・クローでぶら下げられてる歩兵が1人。この哀れな犠牲者はしばらくジタバタもがいていたが、やがてぐったり動かなくなった。
「敵分隊を殲滅後は速やかに『チャスカー艇』へ向かい乗客・乗員の護衛につく!
死にたくなければ1歩たりともそこから動くな!!!」
「ぃぃぃいえす・まむーーーっっっ!!!」
裏返った声でビオラが叫ぶのを聞きながら、灰色熊=グレーのバトルスーツを纏った シャーロット が気絶した歩兵を茂みの中に投げ捨てた。
鉄巨人、始動である!
いきなり現れ速攻数名瞬殺せしめた女戦士に恐れたじろぐ連邦政府軍の歩兵達。
彼らに勝機は、微塵もない。




