おバカ博士の使い道
新章開始でございます。
ティモシー書くぞ!ウキャ♪
チャスカー艇のエアバイクで遺跡の街からMPクリスタルの鉱床上へ戻る際、ロドリゲス博士を連れてきたのはやっぱり大きな間違いだった。
と、言ってもこんなおバカを火の手が回り始めた遺跡に残せば速攻命を落とすだろうし、待ってるように言い聞かせたところでおとなしく従ってくれるはずなどない。
「置いていく?!ここへ!?私を??!
イヤだ、頼む連れてってくれ!絶対邪魔なんてしないから!
じゃなきゃ、私、死んじゃうぞ!?そしたら、化けて出ちゃうからな?!
夜な夜な夢に現れて、一生文句言ってやるからな!!?」
・・・絶対イヤである。
だから仕方なく、エアバイクの後ろに乗っけて鉱床上まで戻ってきたのだが。
「見事に邪魔してくれてんじゃんよ!使い道ねーな、このオヤジ!!!」
「発掘隊の連中が助けにきてくれたと思ったんだぉー!お願い、ごろざないでぇぇぇ!!!」
「何が『思ったんだぉー!』だ、可愛くねーよバカ博士!!!」
エアバイクにまたがったまま、苛立ち紛れに暗視ゴーグルを足下に思いっきり叩きつける。
派手に音立て壊れたが、もう必要ない物だ。
ナム達がいるMPクリスタルの鉱床は、宙を漂う光弾の眩しい光が辺りを煌々と照らしている。
伍長が放った照明弾だ。暗視ゴーグルを掛けた目で強い光を直視すれば網膜を焼かれて失明する。浮上するエアバイクからこの光の片鱗が見えた時、ナムは慌てて暗視ゴーグルを取り外した。
その動作の分だけ後れを取った。鉱床上に出た途端、博士がいきなりバイクから飛び降りたのだ。それを引き留められなかったのが悔やまれる。痛恨のミステイクだ!
肩を怒らせ荒い息吐くナムに何を思ったか、伍長が重い口を開く。
「貴様、何者だ?あの女達は・・・負傷した青年はどうした?」
「ンだよ、ビオラ姐さんに未練でもあんのか?
あの女と関わったら後々地獄見る事になるぜ?止めときな!」
「無駄口を叩くな!質問に答えろ!」
「落ち着けって。そんなにいきり立つなよ、もー。」
持て余していた棍棒を肩に担ぐついでに、利き手にはめた腕時計をチラ見する。
最初にMPクリスタルの鉱床を見つけてから約9時間、あの謎の「扉」と遭遇し「声」を聞いてからは約5時間。ナジャの地下にもぐって随分時間が経ったように思えるが、まだ1日も経過していないのが何だか不思議な気分だった。
できれば、とっとと撤収したい。
エメルヒに捕らえられてたコンポンは救出(?)されたし、火星に残るモカもまた無事だった。
後はこのMPクリスタルの鉱床をぶっ潰すだけなのだ。
(それには何よりあのおバカ博士が邪魔なんだよな。特に「これからしようとしている事」には。)
頭の後ろを掻きむしりつつ考えてると、つい言葉が口に出た。
「それに 時間 がな~。う~ん・・・。」
「時間?」
「あ、いやいや、こっちの事。え~っと、質問のお答えね。
先ず、俺達はエベルナの諜報員だ。いや、『だった』って言べきかな?
今はもうないからね。5時間ほど前まであった諜報傭兵部隊だ。」
「やはりあの『禿ネズミ』の組織の者か。しかしまさか、こんな子供が・・・。
貴様の狙いはMPクリスタルの鉱床か?」
「慌てんなよ、1個ずつ答えてやっからさ。
姐さん達と考古学者さんなら別方向に逃げたぜ?今は地上のまだ燃えちゃってない所に居る。
アンタが見捨てた部下さん達も全員無事だ。ちったぁ感謝しろよ?薄情モン!」
「・・・。」
伍長の能面のような顔に微かな安堵の色が浮かぶ。
博士の頭に銃口を押し当てたままねじり上げている手を放し、空いた左手で耳に装着している通信機に指を当て、ボソボソなにかつぶやいた。
たとえ小声で話す言葉も聞き取れなければ諜報員じゃない。ナムは密かに眉をしかめた。
(部下の安否より、考古学者さんの無事を報告した?・・・なんで???)
「よろしい。では次の質問に答えろ。
依頼主は誰だ?誰がこの場所を知ろうとしている?」
「・・・こっちにも質問させろよ。俺ばっか答えてんの、フェアじゃねーぞ!」
努めて陽気に笑いつつ、周囲に素早く目線を走らせる。
ビオラ達とこの場所を発見した時エアバイクで通った地下通路は、ナムの立ち位置から2時の方向。逃げるとしたらそこからだろうが、タイミングが問題だ!
「今、『禿ネズミ』っつったな?
エベルナの部隊はそこそこ有名だが、そこ仕切ってたクソオヤジのあだ名なんて、特殊公安局所属とはいえ末端の歩兵部隊が知ってる事じゃねぇぞ?
ついでに、アンタはなんでここに居る?
ここが「安全」だって知ってたな?!だからあの白骨の広場で密林の爆発察して、真っ直ぐここへ逃げ込んだんだ。部下全員ほったらかしてさぁ!」
「・・・。」
ナムの詰問に、伍長は無言をもって回答とした。
下手に言いつくろうよりよくわかる。痛いところを突いたのだ。
「てめぇ、ただの雑兵じゃねぇな?」
ナムは一気に相手に詰め寄った。
「特殊公安局の諜報員、それも相当高いご身分と見た!
そんな野郎がたかがMPクリスタルごときで辺境地まで出向くかよ?!
てめぇ、何を目論んでやがる?!なんでナジャに来やがった!?」
「・・・。」
耳の通信機に指を当てたままの伍長が、驚愕を押し殺した目でナムを捕らえて凝視する。
「貴様こそ、なぜここに居る?」
重たく長い沈黙の後、次に伍長が口にしたのは答えではなく質問だった。
「確かにこの場所にいれば密林が炎上しても生還が可能だ。
なぜそれを知っている?ナジャの地下遺跡は公安局でもごく一部の者にしか知らされてないのだぞ?」
質問に答える気は無いようだ。ナムは肩をすくめて諦めた。
「木の根だよ。」
「なに?」
「さっきの人骨広場付近じゃ、密林の根が浸食して来て壁といい床といい、そこいら中這い回っていた。
植物ってのは、強いやね。500年掛けてでもぶ厚い強化コンクリートをぶち破っちまうんだから。
でもここにはそれがない。
あの薄気味悪い『扉』があった場所と同じだ。あの辺りも極端に木の根の浸食が少なかった!
場所自体が他より頑丈に出来てんだよ!・・・しかも!」
ヒュン!と棍棒を軽く振り、切っ先で鉱床を囲む壁の一部を指し示す。
「遺跡」を守って戦ってきた哀れなオンボロ機械兵達が、侵入してきたナム達を狙って乱射した機関銃の弾痕。
新しく壁に穿たれた弾丸の傷跡は、あの謎の『扉』の浮き彫り彫刻を破壊した機関銃の弾痕とまったく同じ様相だった!
「ここ、考古学者さんが言うには物資を運び込むターミナルみたいな重要な場所だったんだってな。
500年前の開拓時代はテラ・フォーミングしたばっかで気候も安定しなかっただろうから、木の根っ子が入り込めるようなチャチな造りじゃたまったモンじゃない。
だから外部から何も入り込めない強固な造りになってるんだ。
一見金属のようだけど、粘土のように粘り気があって打撃や銃撃の破壊力を吸収する!
熱伝導率だって低いんだろうさ!そんな素材で覆ってるんだぜ?
地上で多少の爆発があったってビクともしねぇよ!そうだろ?!」
「・・・。」
伍長が冷たく光る。
見る者がゾッとするような、怪しく危険な光だった。
しかし、その時。
「粘土のような金属だと?
それはまさか・・・『オルベニウム』 か?!」
「・・・ え ?」
ナムと伍長は互いの立場を一瞬忘れ、ロドリゲス博士に目を向けた。




