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ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
白亜の塔が堕ちる時
304/403

コンポンの冒険⑦ キレたぞ、コラ!!!

コンポンは走った。

飛び立とうする宇宙船めがけて、脇目も振らずに突っ走った。

外来傭兵達の宇宙船は垂直離着陸船。重力に逆らっての浮上にはかなりのエネルギー量を必要とする。

よって、水平飛行に入れる高度まで機体を持ち上げるのには時間が掛かる。仮に離陸したとしても、飛び降りられる高さの内に拉致被害者達を救い出せばいい。

幸い、まだ機体後部のハッチは開いたままだ。逃走に手間取り乗り遅れた外来傭兵達が群がっているのが見える。

「どけえぇーーーっっっ!!!」

コンポンは咆えた!

傭兵達が一斉に振り向く。

彼らは突っ込んでくる子供に戸惑いつつも銃を抜き、狙いを定めて身構えた。

しかし、先に銃のトリガーを引いたのは隊長(コマンダー)からフォローの指令を受けた班長だった。

A・Jが逃げ惑う略奪者を殴り倒して銃を奪い、怒濤の勢いで乱射する!


ドンドンドンドンドン!!!


傭兵達の利き腕を狙った弾丸は、コンポンの特攻を援護した。

これでもう敵は銃を使えない。A・Jは銃を構えたまま、鋭く叫んで指示を出す。

「スレヴィ、マルギー!行け!!!」

「ぃよっしゃぁ!」

「Yeah!♪」

守銭奴と変質者、異色のコンビがハイテンションで走り出す。

2人は先行するコンポンに追いつくと、A・Jの乱射に狼狽える傭兵達へと襲いかかった!

スレヴィは中国拳闘を使う。

鋭い拳を武器にした攻撃が、利き腕を撃たれた傭兵達を容赦無くなぎ倒す。

一方、マルギーもなかなかのものだった。

彼女の攻撃は蹴りが中心。縦横無尽に飛び跳ねては、上段から敵を蹴り飛ばす。

暴れる2人を援護するのは、A・Jの狙撃とロディの小道具。参戦しようと拳を握る狂戦士(シンディ)をフェイと一緒に押さえ込み、ロディはウエストポーチから何かを取り出し投げつけた。

傭兵達の足下に落ちて転がる「間抜け般若の目眩ましバックル」。

不気味さが数段グレードアップした異様な般若が傭兵達を睨み付け、牙を慣らして哄笑した!


うきょきょきょきょきょきょきょーーーーー!!!


煙幕が辺りを覆い尽くす。

兄貴分(ナム)が使用する時と違い、煙の色は普通に白い。激しく咽せる傭兵達の間をすり抜け、コンポン達は開いたままのハッチから宇宙船へと突入した。

涙目になったスレヴィがブレスレット型通信機に叫ぶ。

「ロディちゃんこの煙、目と喉がヒリヒリすんねんけど?!」

『あ、ただの催涙ガスッス。ナムさんが使う時と違ってフツーっしょ?』

「うわ、フツーだけどタチ悪い!そういう事は使う前に言って?!」

マルギーもバックルに向かって苦情を訴え、グルリと辺りを見回した。

「いた!拉致された人達だ!」

ハッチから入ってすぐは貨物用格納庫になっている。

小型コンテナが幾つも積まれたその隅で、手足を縛られた若い男女が数名、床の上に座らされている。

一緒に居た見張りの下っ端傭兵を3人がかりで殴り倒し、被害者達の方へ駆け寄った。

近づいても反応しない。全員力無く蹲ったまま動く気配がまったくない。

「何か薬を投与されているみたい。みんな意識がほとんどないよ!?」

通信機からA・Jががなり立てる。

『ハッチがまだ開いている!高度が上がる前に拉致被害者を外へ落とせ!早く!!!』

「え!?それって大丈夫???」

マルギーが思わず聞き返した時、大きく床が揺れた。

咄嗟に足を踏ん張り転倒は免れたが、押さえつけられるような重力に慌てて外へと目を向ける。

「ゲッ、機体が浮いたがな!?」

スレヴィが叫んだ。

「エゲつない奴っちゃらやな、仲間見捨てて逃げ出しよったで!?」

「ヤバい、急がないと・・・!手伝って、早く!」

被害者の少女を抱き起こしたマルギーが、少女を引きずりハッチへ向かう。

もう考えている余裕はない。意識のない少女をポイッと外へと投げ落とした!


ぬるぐちょどべしゃ!


下から気色悪い音が聞こえた。ロディの「どっかんクッション4号ラグジュアリースペシャル」だ。

浮き上がった宇宙船の下、地面に敷き詰められた緩衝剤が落ちて来る少女を受け止めた。

コンポン、スレヴィも同様に、次々と被害者達を投げ落とす。

その度に聞こえる「ぬるぐちょどべしゃ!」の耳障りな音。ハッチから恐る恐る下を見たマルギーが、眼下に広がるラグジュアリーな光景に嫌悪を隠せず身震いした。

「なんか、あんなのの上に落ちてカワイソー。」

「でも、ワイらもこれからあのクッションに飛び込むんやで?

そうせな、ここから帰れへんモン。」

「ひー。」

「ほれ、これでお終いや!さっさと行きや!」

最期の1人を無情に落としたスレヴィが、怖じ気づくマルギーの背中を押した。


「ぎゃあああぁぁ・・・!」  ぬるぐちょどべしゃ!

マルギーはクッションのど真ん中に落ち、生還した。


「よっしゃ!ワイらもとっとと逃げんとな。コンちゃん行くで!」

ハッチから下をのぞき込むスレヴィが陽気に笑って振り向いた。

「怖いンやったら、ワイが一緒に飛んだるさかい、早しぃや!」

「・・・ダメだ!」

必死の形相で格納庫を見回すコンポンは、カウンターで叫び返した。


「あの子がいない!まだ捕まってるんだ!!!」


その時、バァン!と格納庫奥の扉が開き、新手の傭兵達が現れた。

サブ・マシンガンの連射が2人を襲う。思わず仰け反ったスレヴィは、ハッチの際から滑り落ちた!


「おわあぁぁぁぁ・・・!」  ぬるぐちょどべしゃ!

スレヴィも、不本意な形で生還した。

コンポンだけが、敵機の中に取り残された。


敵の銃口が見えた時、咄嗟に身を低くしたのは日頃の訓練の賜だった。

弾丸をかわしたコンポンは屈んだ姿勢で床を蹴った。棍棒を両手で持って真横に構え、新手の傭兵達に突っ込んでいく。

脛を狙った攻撃だ。子供相手に油断していた傭兵達は、骨を強打する激痛に悲鳴を上げて体勢を崩す。

勢いのまま、傭兵達を押しのけ扉の中へと飛び込んだ。

「イヤだ、助けてー!!!」

声が聞こえた。あの少年の声に間違いない!

コンポンは狭い通路を突っ切って、突き当たりの扉を蹴破った!


「・・・お兄ちゃん?!」


少年は、そこに居た。

数名の傭兵達に取り囲まれ、腕を背中にねじり上げられ捕まっている。

外来傭兵部隊の部隊長も、そこに居た。

突然飛び込んできた侵入者に、一瞬ギョッと驚いた。

「お前・・・、さっきのガキ共の中にいた奴だな?

そうか、自分から売られに来たか。」

目を剥き固まるコンポンに、部隊長はいびつな微笑を投げ掛ける。

その部屋は、まるで手術室のようだった。

中央に拘束機具付の高い寝台が有り、側に置かれたワゴンの上にはメスやナイフが並べられている。

極めつけはモクモクと白い煙を吐きこぼす、金属製の大きな筒状の容器。

液体窒素である。

ここが何をする場所なのかは、知識の乏しいコンポンですら即座にわかった。


「あぁ、何していたのかが気になるのか?

子供用の新鮮な『中身』に急ぎの需要があってな。エベルナから脱出したらすぐにでも顧客(クライアント)に『商品』を届けねばならん。

ここは、そういう急ぎ注文に対応するための準備室だ。」


ぷち。


コンポンの中で、何かがブチキレた!

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