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ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
白亜の塔が堕ちる時
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コンポンの冒険⑤ 世界で一番非道な商売

コンポンは1人、暗い通路の真ん中で立ち止まり用心深く辺りの様子を伺った。

この辺りB棟脇にあるという車庫の地下だったはず。確かめようにもとにかく暗い。持ち合わせていた簡易ライトの光だけでは状況がよくわからない。

ただ、通路の天井から叫び声や慌ただしく行き交う足音が響いてうるさかった。建物一棟が倒壊した地上では相当な騒ぎになっているらしい。

そんな雑音しか聞こえないの中でも、あの時のすがりつくような「声」が耳に残って放れない。

武器の格納庫で出会った少年。あの子はコンポンよりもずっと小さな子供だった。


「ねぇ、お兄ちゃん!ボク、どうなっちゃうの?今度はどこに連れて行かれるの?」


少年の怯えた顔が脳裏を過ぎる。悪党共に連れて行かれた彼を放っておくなどとても出来ない。

約束したのだ。「絶対絶対、ずぅぇぇぇ~ったい、助けてやる!」と!

(まったく、みんな酷ぇよな!あんな小っこい子見捨てるなんて!

悪いヤツらが何人いたってぶっ飛ばしちまえばいーじゃんよ!

ナムさんだったらそーするぞ?フツーじゃ思いつかねぇよーなエゲつない手ぇ使って!

なんだよな、みんな怖じ気づいちゃってさぁ!)

コンポンは胸中で愚痴をこぼし、またソロソロと進み出す。

人身売買の「商品」にされた拉致・監禁者達はこの近くに閉じ込められているはず。そこにはきっと、あの子もいる。

俺が助けてやらないと!

身の程知らないヒーローは、考え無しの闘志を燃やしてグッと拳を握りしめた。

(ジェラート店さん、じゃなかった、エーさんもだらしねぇよ。

最初は保護してやるだっていきり立ってたくせにさ、ロディさんがちょっとゴニョゴニョ言っただけでしょぼくれちまって!

・・・でもロディさんが言ってたアレって、いったいなんだったのかな?)

コンポンは耳がいい。

エメルヒの卑劣さに激怒して暴走しかけたA・Jを意気消沈させたナムの「呪文」。ロディがこっそり唱えたのを、しっかり聞いてたようだ。

(ワケわかんねぇや。 『この花一輪の、幸せ♡』 って言ってたけど・・・。なんだそりゃ???)

暗闇の中、コンポンは1人首を傾げた。


(・・・!? 悲鳴だ!)


敏感な耳が微かな異変を察知する。

即座に足がそっちへ向いた。その途端、冷たい風が頬や首筋に吹き付けてくるのを感じ、胸がざわつき戦いた。

(な、なんだこの気持ち悪ぃ匂いは?)

風に乗っていろんなモノが入り交じった、胃の辺りがムカムカしてくる非常に不快な匂いがした。

ついでに嫌な予感もする。危機察知能力(野生の勘)は「行くな」と騒ぐが向こう見ずな正義感がたやすくそれをねじ伏せた。

握りしめた棍棒を中段に構え、コンポンは扉が開きっぱなしになっている薄明かりが付いた部屋に突撃した。


「でぇいやあぁぁーーーっっっ!!!」


部屋に飛び込むなり、棍棒の切っ先を一番手前に居た「悪党」の腹に突き入れた!

子供の雄叫びに驚いた「悪党」がその激痛に悶絶し、手に抱えていたモノを取り落とした。

小型の冷凍ケースだ。落ちたケースは派手に壊れ、中身が床にぶちまけられる。

「・・・えっ?!」

足下に転がってきたケースの中身を見て、コンポンは固まった。

学校へ行っていなくても、無教育でもそれがなにかはひと目でわかる。

カチコチに凍り付いた、心臓 。

表面に張り巡らされた血管も生々しい、本物の 臓器 だった。

(これってまさか、人間の・・・?!)

ゾッとした。人間の心臓など一度も見た事なかったが、直感が「そうだ」と訴えていた。

驚きのあまり動けない。コンポンは「悪党」達に捕まった!


「コイツ、こんなところまで来やがったのか?」

腕を掴まれ背中に捻り回された。骨が軋む苦痛につい棍棒を取り落とす。

さっき格納庫で奇襲して倒したはずの男だ。3人ともいる。

全員大小様々な冷凍ケースを抱え、面白そうにコンポンを眺め嘲笑していた。

「てめぇ!あの小っこい子どーした!?どこ連れてったんだよ!?」

「うるせぇ、クソガキが!」

怒声と共に横っ面を殴られた。まったく容赦無い拳の殴打で、口腔に血の味が広がった。

「さっきといい今といい、ガキのくせに力一杯どついてきやがって!

こんな目に遭うんだったら手加減なんかするんじゃなかったぜ、ったくよぉ!」

「えっ?!」

殴られた痛みより衝撃を受け、顔を上げると見覚えのある顔が憤怒の面持ちで睨み付けてきた。

捕らえられていた独房を脱出する時倒したヤツだ。コイツらも全員揃っていた。

「ぎゃっはっは♪さっきは股間で今度はアバラか。

お前ツイてねぇな。ガキの攻撃たぁいえ、痛かったろ?」

「ほっとけ!」

不運を笑い飛ばす仲間をどやし、男はもう一度、コンポンの顔を裏拳で殴った!

「・・・ぐ・・・っ!?」

一瞬、気が遠くなる。目の前がチカチカして暗くなり、息をするのも苦しくなった。

「痛ぇだろ?これでも手心加えてやってんだぜ?

本気で人ぶっ倒す時にゃ、こんくらいの力量が必要なんだ。ガキの腕じゃ半分だって足んねーよ、覚えとけ!」

項垂れる顔を髪を掴んで引っ張り上げられ、凶暴な目がのぞき込んでくる。

飛びそうな意識を必死でつなぎ止め、コンポンは歯を食いしばった。

独房と格納庫での、コンポンの奇襲。成功としたと思っていたが、間違いだった。

全部悪党共の演技だったのだ。

「なぜ?」と考える余裕はない。本当は誰も倒せてなかった事実が胸を苛んだ。

悔しい気持ちに涙がこみ上げ、嘲り笑う男の顔がぼやけて揺れる。

それでもありったけの怒りを込めて、目の前の男をにらみ返した。

こんなゲス共に負けたくない。そう思えば思うほど、掴まれた腕さえふりほどけない自分が不甲斐なく惨めだった。

「かわいくねぇガキだな、せっかく教えてやってんのによぉ!」

男の腕が再び高く振り上げられる。

(殴られる!)

恐怖を感じたコンポンはギュッと目を閉じ縮こまった。

そんな自分も、情けなかった。


パァン!!!


銃声が耳をつんざいた!

「ぎゃああぁ?!」

男が振り上げた腕を押さえて仰け反る。同時にコンポンは乱暴に突き飛ばされた。

凍った心臓が転がる床にぶっ倒れた次の瞬間、襟首掴んで引きずられて何やら重々しい機材の影に引っ張り込まれた。

状況を飲み込めずに狼狽えていると、パシン!と頬をはたかれた。殴られ腫れてきた頬への一撃は非常に痛く、ヒンヤリ気持ちのいいものだった。

「このバカ!心配したんだぞ!?モカさん、コンポン確保ッス!」

『よかったー!コン君、怪我は無い!?』

「殴られてるけどダイジョーブ!この湿布薬、良く効くんだよ♪ほれ、もう一枚!」

パシーン!

ロディの腕の中で通信機からモカの泣きそうな声を聞きながら、マルギーの粗雑な応急処置を受けるコンポンは、体中から力が抜けていくのを感じた。

もしこのすぐ後に起きる壮絶な修羅場がなかったら、本当に意識を手放し気絶していただろう。


「きゃあぁーーーっっっ!!!」

「ひいいぃーーーっっっ!!!」


シンディとフェイの絶叫が轟いた!

「っ!? アカン、見るんやない!!!」

引きつけでも起こしたように強ばる2人をスレヴィが両腕に抱え込む。

暴走少年救出に必死だったロディとマルギーも辺りを見回し、言葉をなくして戦慄した。

硝煙纏った銃を構えて仁王立ちするA・Jも、両目を見張って立ち尽くす。その顔がみるみるイビツに歪んでいく。

凄まじい怒りの形相。どす黒い殺意まで窺わせる、狂人じみた激怒の顔だった。

「!? わあぁ!!?」

閉じかけていた目を大きく開いたコンポンもまた、絶叫した。

コンポンが飛び込んだ地下の部屋。

そこは医療用と思われる多くの機材とどす黒いシミの付いた寝台が幾つも並ぶ、異様な空間だった。

寝台には男女の区別なく若者達が横たわっている。

彼らは全員意識が無い。寝台横の機材のモニターに写し出される心電図が辛うじて生きる事を証明しているが、縫合跡だらけで包帯まみれ。人工心肺や透析器に繋がれてた姿は凄惨な事極まない。

そしてトドメが部屋の壁一面に設置された巨大な鉄製の扉。

大型の冷凍庫だ。扉の1つが開いていて、白い冷気が床を這う。

垣間見える中の様子は予想や想像を遙かに超えた、反吐が出そうな有様だった。


「・・・ 臓器、売買 ?」


血の気のない震える唇で、マルギーが小さくつぶやいた。

ガチン!

静まり返った室内に、乾いた音が響き渡った。

銃のセーフティが外れる音だ。

A・Jは二丁拳銃になっていた。

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