ロマンに危険は付き物で
「何すんのよこのアホ!痛いじゃない!」
「喧しいわ!この有様見て何とも思わんのか色ボケ女!」
「なによ?!500年前に殺されちゃった人達が転がってるだけでしょ!?
今更お祈りでもしろての?やるだけ無駄だわ!」
「うっわ、人でなし!てめぇ碌な死に方しねぇぞとっとと地獄に墜ちやがれ!!!」
「お黙り!アンタ野放しにしてあの世なんかに行けないわよ、この脳筋おバカ!!!」
いつものように、この場にカルメンがいればこの手のケンカはすぐにも終わる。
コテンパンに言い負かされて、即終了。日々手を焼かされてる舎弟を喜び勇んでこき下ろす女2人を相手にしては、さすがにナムでも勝ち目はない。
しかし今はビオラ1人。単品ならそんなに怖くはない。
地上で奮闘するテオヴァルトの存在なんかスコーンと忘れた姉弟ゲンカは、延々続くと思われた。
「そうです。彼らに必要なのはもはや冥福を祈る事ではありません。」
妙に落ち着いた、しかし強固な意志ある声が聞こえた。
姉弟はハッと我に返る。そして恐る恐る、声の方へ振り返った。
哀しみを讃えた赤い瞳。ジュリオが大穴の際に佇み、MPクリスタルの妖しい煌めきをじっと見つめていた。
「どうやらここは物資を運び込むターミナルのような場所だったようです。
見て下さい、この場所からたくさんの通路があらゆる方向へ伸びている。」
「通路?」
ジュリオが指さす方向を見ると、確かにたくさんの「入口」があった。
どれも間口が広い。小型車両が充分走れる高さと幅が有る。
ナムはエア・バイクのフロントガラスに目を向けた。
映し出される見取図が鉱床を挟んで真正面の通路を行けと言っている。その通路も先が見えない暗闇だった。
「密林に長年住んでいらっしゃるラモス氏によれば、この場所でMPクリスタルの鉱床が発見されたのはリーベンゾル大戦前だそうです。
発見者にとって遺跡も紛争犠牲者の骸も取るに足らないものだったのでしょう。すっかりメチャクチャにされてしまっている。宇宙開拓時代の歴史を知る貴重な場所だったに違いないのに・・・。
正しい歴史を追い求める行為は、時として先人達の偽りの功績を暴く事にもなる。
リグナム君。君が言ったとおり、かつてナジャでは大規模な戦闘があったんだ。
リーベンゾル大戦の事じゃない、500年前の話だよ。
その時の勝者が密林を創った。ナジャの密林は太陽光乏しい外惑星エリアに新鮮な酸素を供給するために創られたのではない。
ここは『謎』と共に敗者を永遠に屠るための偽善の森なんだ。」
ジュリオの話は興味深い。やはりこの若い考古学者は切れ者のようだ。
「遺跡」について他にもいろいろと知っているらしい。500年前の「戦闘」の事も気になる。ミッションが完遂したら是非ともご講話いただきたいものだ。
でも、今は・・・。
「わかった。その話は後で聞く!
取りあえずバイクに乗ってくれ!急いでるんだ先に進もう!」
さっきまでの派手な姉弟ゲンカを棚に上げ、ナムは声を張り上げた。
しかし、ジュリオはMPクリスタルの鉱床を見つめ、うわ言のようにブツブツ持論を語り出す。
「こんな残忍な争いなんて、人類間であってはならない。
そうだ、歴史を学ぶ事の意義はそこにある。過去の過ちを受け止め二度と繰り返さないためにも『真実』を追い求めなければいけないんだ・・・。」
なんだか、自分の世界に入り込んでしまっている。
ナムはビオラと困惑しきった顔を合わせた。
「・・・あの、ジュリオさん?今はそんなん、どーでもよくて・・・。」
「ここで命を落とした犠牲者もそう望むに違いない。
魂の安寧を祈るにはあまりにも凄惨だ。そんなものでは彼らの苦しみは癒やされないだろう。」
「あの、すみませ~ん。もしも~し!」
「もう二度とこんな悲劇が起きないよう、世界に訴えていかなければならない。
紛争の原因をつきとめ、熟考・熟知し、愚かな行為だと認め悔い改める。
そしてそれを広く知らしめる事こそが歴史学者の、考古学を追究する者の使命なんだ!!!」
「ちょっと!ナニその壮大な志?!だから今はそれどころじゃなくってさぁ!」
「そして、ロマン!500年前の宇宙開拓時代、人々が何を思い、喜び、悲しみ、いかなる困難を乗り越えて太陽系の星々を開拓してきたのでしょうか?!
過去の遺物からそれを見つけ出し共感して学ぶ!やっぱり素晴らしい学問だよ、考古学は!」
突然、ジュリオが踵を返しガバッと飛びついてきた。
ナムではなく、エア・バイクの横で尻餅ついてるビオラに。
「わかりますか?ビオラさん!
この場所こそが、ナジャに眠る本物の『遺跡』の入口なんです!
そして我々はこの先へと進もうとしている!
やっと・・・やっとナジャの本当の姿を目の当たりにできるのです!
感謝しますよ、ビオラさん!私を連れてきてくれて本当にありがとうっっっ!!!」
「・・・はぁ・・・。」
抱きつかんばかりに迫ってくる喜色満面の考古学者に、ビオラの返事は曖昧だった。
「ん?」
理念と欲望に盲進するジュリオの姿に、呆気にとられていたナムはふと疑問を持った。
「ちょい待ちジュリオさん!アンタまさか、ここから先行ったこと無いのか?」
「え?」
ジュリオが振り向き、「あ、君居たの?」的な目でナムを見た。
かなりムカついたが我慢した。これ以上、時間を無駄にしたくない。
「あ、あぁ、実はそうなんだ。その、時々MPクリスタルを取りに来るくらいで・・・。
悪い事だとはわかっていたのだけれど、発掘作業には資金がいる。それでつい・・・。」
「いや、それおかしいだろ?!」
地下に降りる前、胸に感じた嫌な予感が蘇る。ナムは後頭部を掻きむしった。
「ここがナジャ遺跡の本当の入口で、この先に調査すべき物があるならさっさとすればいい。
ヤバい『裏口』通って軍管理下の密林忍び込むなんてマネまでしといて、100均の皿だの大人の玩具だのガラクタばっかり発掘してる場合じゃないだろう?!
なんで今までそうしなかった?
アンタほど情熱的に考古学の意義語る学者が、いったい何を躊躇って・・・。」
「!? リグナム!!!」
緊張感を伴った鋭いビオラの声に、ナムは弾かれたように鉱床の向こうの通路を睨む。
何かが、来る。
深淵の闇の中から、何かが歩いてやってくる!
・・・ガチャン・・・ガチャン・・・ガチャン・・・。
次第に大きくなっていく、重く機械的な足音。
さっきまでハッチャケていたのが嘘のように、ジュリオの顔色が急変した。
「しまった!この事をすっかり失念していた、これはマズい!
ダメだ君達!この先へは進めない!!!」
「はぁ?!今更何言ってんのよアンタ!」
露骨に慌てふためくジュリオのシャツの胸ぐらを、ビオラが乱暴に掴み上げた。
「あの音、なに?!いったい何が来るっての!?」
「い、いつもMPクリスタルを取りに来る時はもっとコッソリ来ていたんだ。
明かりを灯さず、音を立てないように細心の注意を払いながら!」
「知らないわよそんな事!今はあの音はなんだ?って聞いてんの!
知ってるんだったらとっとと言って!」
「騒ぐと危険だ!『ヤツら』に気付かれ攻撃されてしまう!!!」
「『ヤツら』?!なにそれあの音と関係あんの!?攻撃って・・・!!?」
ガクガクとジュリオを揺さぶるビオラが手を止め、固まった。
ナムもまったく動けなかった。悪い夢でも見ているようで、現実感がまるでない。
黒一色に塗りつぶされた通路の奥から現れた『ヤツら』の姿はあまりにも異様だった。
現れたのは、機 械 兵 。
1機倒すのに1個小隊の総力を要する、2m越えのロボット戦士である。
「この先にいけないのは、彼らの存在があったからです!
近年製造されたタイプの機械兵じゃない。
彼らは驚くことに、500年前からここに居て侵入者を 排除 しているようなのです!!!」
「・・・先に言ってよ、ジュリオさん・・・。」
硬直するビオラの代わりに、ナムは呆然とつぶやいた。




