修羅場に消えた子供
ナムはコンポンとフェイを自分の背後に回らせた。
あっという間に取り囲まれた。その数20人ほど。
「お前ら、ここで何してる!? 両手を頭の後ろに回して伏せろ!」
一番先に駆けつけ銃を突きつけた警備員が叫んだ。
丸腰のガキ相手にビビってんだ、と思いつつ、ナムはホールドアップする。でも、伏せない。
「いや~、弟達とキャッチボールしてたらボールがここに飛び込んじゃって♪
・・・ちょっと、子供相手に銃とか、どうなのそれ?」
「バカ言え、今何時だと思ってんだ!?
しかもここは研究所の敷地内だぞ!手は頭の後ろだ、さっさと伏せろ!!」
「へいへい。」
ナムは両手を後ろに回す。が、すぐに何かを掴んで前に振り出した!
フェイはナムがジャケットの背中内側から引っ張り出したのを目撃し、コンポンは目の前にいた警備員の腕から銃や電磁ステッキがはじけ飛ぶのを目撃した。
「お前らはご要望にお答えしてその辺伏せてろ!」
ナムの手には、棍棒がにぎられている。丁度真ん中に付いた小さなレンズに親指を押し付けると、
ジャケット裏に隠れる程の長さだった棍棒は、両端が伸びナムの身の丈ほどの長さになった。
「うわ、カッコいい!!その武器が。」
「お前、一言多いぞ!?」
コンポンの声援(?)を受け、ナムは地面を蹴って走り出す。
そして意味不明のままずっと付けていた真紫の蝶ネクタイを引きちぎって足下に叩きつけた。
ボン!と破裂音がして、気色悪い紫色の煙幕が立ちこめた。
煙を吸い込み咽せる警備員達は、周囲で短い悲鳴を上げて次々と仲間が倒されていく気配に恐怖した。
混乱して闇雲に銃口を向ける警備員の手から、構えた銃がはじけ飛ぶ。
ナムは煙幕の隙間から、植込みの向こうにある雑木林をチラ見した。
特殊な暗視スコープを掛けたスナイパーが、愛銃を構えて狙っていた。
研究所警備員の最後の1人が倒れたのと、カルメンがダッシュで駆けつけナムをぶん殴ったのはほぼ同時だった。
「お前はまた!
心配してきて見りゃ案の定だ、どーしていちいち修羅場になるんだこの脳筋野郎!」
「今回は俺の所為じゃねぇよ!事故だ、トラブルだ!!」
「お黙り!お前があの蜂蜜女に気ぃ取られてルーキー達から目ぇ放したのがそもそもの原因だろーが!
このミッションの指揮官はお前だろ!?監督不行き届きだ!!!」
「うっわ、後付けてたのかよ!?
・・・な?人の尾行って以外と見つけにくいもんだろ?」
振り向いたナムが、ハッと表情を硬くした。
「おい、フェイどこだ!?」
伏せていたのはコンポンだけ。オロオロと辺りを見回すコンポンの横にさっきまでいたはずのフェイがいなくなっていた。
カルメンが顔色を変え、暗視スコープの倍率を上げ周囲を見渡す。
フェイを捜す為だったが、別の物を見つけてしまった。カルメンはナムに飛びつき地面に伏せた!
2人が立っていた辺りの地面が弾け、芝生がズタズタになった。
敵襲!銃の威力が警備員達のそれとは桁外れに違う。
消音器付のアサシン・ライフルの狙撃だ。今度は警備員じゃ、ない!
「な、なに?どしたの!?」
驚いて半身を起こしていたコンポンの左頬を何かが掠め、すぐ横の芝生が土片をまき散らした。
痛みは後からやってきた。頬からしたたる自分の血が、手の甲に落ちる。
身体の内側を這いずり回るような冷たい恐怖を感じ、コンポンは固まった。
「立てコンポン!逃げるぞ!!」
ナムが飛び起きコンポンに駆け寄り、放心する彼を抱え上げた。
その後ろでカルメンが二丁拳銃で応戦している。
「リグナム!ルーキー連れて逃げろ!」
カルメンの銃の腕は確かだがプロではない。
彼女はあくまで「諜報員」。相手がプロの傭兵なら、勝ち目はない。
「ふざけんな!こんなとこ1人で残ったら、姐さん死ぬぞ!!」
気丈に戦う姉貴分を案ずるナムの一言は、恐怖で思考が麻痺したコンポンを打ちのめした。
死ぬ!?死!!! コンポンは錯乱し、絶叫した!
「ぎゃああぁあぁ!! 嫌だあぁあぁぁ!!!」
「コンポン!? おい!!」
思いがけない力でもがく子供を抱きしめ庇いながら、ナムは退路を模索した。
カルメンの言うとおりだ。これは確かに自分の所為だ、もっとよくこいつらを見てやってれば!
自責の念に項垂れるナムが、ふと気付いて顔を上げた。
振り向くと、カルメンが両手の銃をくるくる回してホルスターに戻す所だった。
雑木林の方から植込みをバキバキ踏み荒らす音がする。
しばらくすると、ぐったりと動かないアーミースーツの男を数人を両手に掴んで引きずりながら、強面の巨人が現れた。
「よぉ。」
義腕の巨人・マクシミリアンこと、マックスがニッと白い歯を見せ笑う。
助けに来たぞ。もうダイジョウブだ、安心しろ!
そう優しく訴える、彼最高の笑顔、だったのに。
「・・・キメラあぁぁぁーーーー!!?」
修羅場の恐怖に錯乱した少年には、少々刺激が強すぎた。
暗闇から現れたマックスが、どうやら昼間のキメラ獣の姿と重なったようだ。ナムの腕の中で震えていたコンポンは、本日一番の絶叫上げてとうとうガクリ、と気絶した。
お陰でナムとカルメンは、早くフェイを捜さないといけないのに凹んでしまったマックスを慰めなければならなかった。
風は強さを増しつつある。
「輸送機の準備は?」
研究所に向けていたスコープから目を離し、ピアスの通信機に問いかける。
『完了してま~す。敵さんは坊ちゃん連れてマルスを南下中。行き先は郊外の渓谷じゃないかな~?』
「・・・音楽切れ、うっとうしい!」
『らじゃ。らぶみょん20はお嫌いっすか?』
通信をぶち切った。
火星主要都市マルスは広い。はっちゃけたBGMの通信で聞いた方角、都市の南へ目を向けると、漆黒の闇夜でも判るくらい、不気味な雲が迫り来ていた。
早急にケリをつけなければならない。砂嵐が来ればマルスから出られなくなってしまう。
ゴォッと音を立てて突風が吹き、電波塔を大きく揺すった。
両足がふわりと浮く。そのまま風に身を任せ、宙へ飛んだ。
遠くで雷鳴が轟き、風の音と共鳴した。




