全部、兄貴分の所為
笑いたいだけ笑うと、エメルヒは傭兵達をジロリと睨んだ。
『いつまでそこに突っ立っていやがる!とっとと失せろ!』
傭兵達は転がるように出て行った。
電磁ロックが掛けられる音がする。コンポンは1人、薄暗い独房に取り残された。
『さぁて、ちっくら話でもしようぜ、コンポンよぃ。
なかなかいい武器持ってんじゃねぇか。棍棒はリグナムが使ってるヤツと同じモンだな。それよりもスタンガンの性能がいい。商品名はいただけねぇが・・・。
ロディが作ったってか、それ???』
「商品名ってなんだよ?!これ、売りもんじゃねーぞ!?」
『その内そうなる。今、お前助けようとして地下に潜ってるロディ達ふん捕まえりゃな。
あの発明好きの小坊主、大したモン造るじゃねーか。利用しねぇ手はないぜ!
そのスタンガンは売れるぞぉ!売りに出す前にマシな名前付けねぇとな。』
「てめぇ、ロディさん達に何する気だ!?・・・って、え?助けに?」
『おぉ、律儀に来てくれてるぜ?地下の隠し通路使うってぇのは、リグナムのアイディアだろうな。
3億稼ぐ隊長もまだまだ甘ぇなぁ。そんな作戦バレバレだっつの。
ガキ共ばかりでなにができる気でいるんだか知らねぇが、むしろウェルカムってぇヤツだ♪
よかったなコンポンよぃ。人質仲間が増えるぞ淋しくねぇだろ?』
「・・・。」
嘲笑混じりのエメルヒの言葉に、コンポンは俯いた。
なんだかがっかりしているようだ。
予想と違う反応にエメルヒが訝しがった。
『なんでぇ。しょんぼりしちまってよぉ。
仲間達が来てくれてんだぜ?もちっと喜べや。』
「そりゃ、嬉しいけどさぁ。・・・ナムさんは?」
『あぁ、お前知らねぇんだよな、悪ぃ悪ぃ。
アイツにゃちょっくら野暮用頼んでよ、傭兵共と一緒に外惑星エリアのナジャに向かった。
運が良ければまた会える。心配すんな。』
「・・・。」
コレを聞くのは少し迷ったが、どうしても気になった。
コンポンは一番聞きたい疑問を思い切って口にした。
「・・・ 局長、は? 」
ホログラフィ画面の中で、エメルヒの目が丸くなった。
しかしすぐ何かに気付き、イヤらしく破顔する。
『ぎゃっはははは!
そーかお前、リュイが助けに来てくれると思ってたんか?こりゃいいや!
よっぽど可愛がられてたんだろーな、よくもまぁ懐いたもんだぜ、あの冷血暴君によぉ!?
ひー、腹痛ぇ!あんなバケモンでもいざって時にゃ頼りになる 父ちゃん みてぇなモンだってか?!
だーっはっはっは!!!』
デスク・チェアの背に仰け反るほど爆笑する。
そんなエメルヒを、コンポンは呆然となって凝視した。
(・・・とう、ちゃん?)
その言葉になぜか動揺する。
意味を知らないわけじゃない。しかし孤児でストリート・チルドレンだったコンポンにとって、もっとも聞き慣れない言葉の一つだった。
『そりゃ残念だったなぁ、可哀想によぉ!ヤツぁ、エベルナにゃぁ絶対来ねぇよ!』
不快に笑うエメルヒが、次にほざいた無情な台詞。
コンポンはハッと我に返り、ホログラフィの画面に棍棒の切っ先を突きつけた。
「な、なんだよそれ!どーゆー意味だ?!」
その途端、エメルヒの様子がガラリと変った。
双眸がギラギラと異様に光り、口元が歪に大きくゆがむ。
冷酷で残忍な、人を人とも思わないこの男の本性が、捕らわれの身である無力な少年に牙を剥く!
『リュイがお前なんかのために来るわきゃねーだろぉ?
てめぇの命より大事なモカちゃんと、リグナムが危ねぇとなったらよぉ!
ナジャのリグナムが連邦政府公安局の手に掛かるのは時間の問題、火星基地でお留守番のモカちゃんは俺の手駒共が捕縛に向かった。
さぁて、あのバケモン、どっちを助けに行きやがるかな?
俺ぁどっちだっていいんだぜ?結果は同じだ、リュイは死ぬ!
モカちゃんは俺のモノになるし、リグナムの野郎は俺の新しい手駒になる。
クソ生意気なあの坊主が、生きてナジャから帰って来られたら、だがなぁ!!!』
コンポンは言葉を失い、立ち尽くした。
耳障りな嘲笑を残し、ホログラフィ画像のエメルヒは消えた。
暗い独房の中でコンポンは俯き、強く唇を噛みしめた。
泣くのは絶対に嫌だった。特にあんなゲスで屑な悪党に泣かされるのだけは!
それでも涙が勝手に溢れ出すのを止められない。哀しくて、心細くて、怖かった。
『リュイがお前なんかのために来るわきゃねーだろぉ?』
エメルヒの言葉が胸をえぐる。心がズキズキ痛かった。
今すぐ火星の基地に帰りたかった。
みんなに会いたい。一癖も二癖もある人達だけど、大切な仲間だった。
その仲間達の個性豊かな顔が脳裏を過ぎり、ふと、モカの笑顔を思い出す。
一緒に思い出したのは、あの言葉。
火星の基地に来たばかりの頃、フェイやシンディと夜の格納庫隅でカフェ・オレを飲みながら聞いた、あの時の優しいモカの言葉だった。
『エメルヒが何か仕掛けてきても、絶対に局長が守ってくれるよ・・・。』
コンポンは顔を上げた。
(そうだ、局長が死ぬわけねぇよ!
局長はスッゲぇ強ぇんだ、公安局も禿ネズミの手下もあっという間にやっつけちまうに決まってる!
俺のトコにも来てくれる!ナムさんとモカさんの後になったって、絶対助けに来てくれるんだ!!!)
ジャンパーの袖で涙を拭い、改めて棍棒を握りしめる。
ティリッヒで悪党に捕まった時は、ナムが助けに来てくれた。
そのナムは今、遠い外惑星エリアにいて助けに来られない。ロディ達が近くまで来ているらしいが、このままだと彼らも危ない。捕まって一緒に人質にされてしまう。
(ヤバいぞ、局長やナムさんがいないんだったら、俺がなんとかしなくっちゃ!
こんな時、どうしたらいいんだ?え~と、え~と、え~~~っとぉ!)
コンポンは必死で考えた。
両手に握る棍棒をじっと眺める。
そしてついに!
良からぬ事をしでかすような、危険な思考に行き当たった!
(こんな時、ナムさん ならどーするかな???)
コンポンの口元に、笑みが浮かんできた。
ふてぶてしく、狡猾に!!?
(脱走するだろ、ナムさんだったら!よ~し、やってやらぁ!!!)
なんだか愉快になってきた。
ジャンパーの裏地に手を突っ込み、モカが仕込んでおいてくれた「アレ」を引っ張り出してみる。
ロックオフぺったん・エクストラⅡ。
2度も使用したフェイが知らなかったくらいである。コンポンが知ってるはずはない。
閉ざされた独房の扉に貼り付けた「エクストラⅡ」は、赤い方 が上だった。
貼ってから、きっかり5秒後。
独房扉は爆発した。




