汚部屋と博士とキレイな石と
取りあえず、根城に案内してくれるという。
ナム達は別に拘束される事なく、ましてや銃口を突きつけられたりもしないまま、密林の中を誘導されて進んでいく。
地面が緩やかな傾斜になった。木々に覆われわかりにくいが、小高い丘を昇っているようだ。
しばらく歩くと少し開けた場所に出た。
「こちらですよ。むさ苦しいところですが、どうぞお入りください。」
先頭に立って案内してきた若い男が建屋の扉を大きく開けた。
その途端、ナム達を取り囲んでいた他の男達が騒然となった。彼らはビオラをチラ見するなり、建屋の中に駆け込んだ!
「バカかお前、いきなり開けて見せるヤツがあるか!急げ、早く片付けろ!!!」
「おい!そこの干してるパンツは誰のだ?とっととしまえ!!!」
「こんなトコロに靴下脱ぎ捨てとくなよ!って、うわぁ!キノコ生えてるじゃねーか!!!」
「あ!それ俺のエロ本だぞ!どさくさに紛れてかっぱらおうとするな!!!」
あまり広くない室内は、お片付けに精を出す男達が上を下への大騒ぎになった。
「ビオラ姐さんなんかに気ィ使う事、ないのにな。」
「まぁそう言うな。レディを迎えようとしてんだ、なかなか紳士的な連中じゃねーか。」
「あのね、テオさん。本物の紳士はこんな汚部屋に住んでなんかいないのよ?
って、リグナム!アンタ『ビオラ姐さんなんかに』って言った?!」
「イイエ、メッソーモゴザイマセン。(棒読み)」
眉をつり上るビオラの睨みを軽く流して、ナムは周囲を見回した。
「やっぱり、有ったよ・・・『遺跡』だ!」
謎の一般人達が根城にしている建屋を含め、周囲には大小様々な建築物が佇んでいた。それらは風化し着床植物がびっしりこびり付いているが、間違いない。
ここはかつて街だったのだ。おそらく500年前までは。
熱帯の大樹が茂らせる青々とした枝葉の間から、さっきの場所では見えなかった空が僅かに見えた。
「がっはっは!汚いところですまんな。まぁ、適当にくつろいでくれ。」
眼鏡を掛けた小太りのオッサンがソファにドカッと腰を下ろした。
差し出された名刺には、大層な身分が記されていた。
ジッキンゲイン共和国 国立フランメール大学 教授
考古学博士 マイケル・ロドリゲス
「この辺りの『遺跡』の発掘調査をしている。
ここに居るのはワシの発掘チームの精鋭達だ。怪しい者じゃないから安心してくれ。」
「『遺跡』の発掘調査を?ナジャにこんな『遺跡』があるなんて聞いた事ぁない。」
「そうだろう?がっはっは!」
勧められた長いすに座って名刺を眺めるテオヴァルトの疑問に、ロドリゲス博士は豪快に笑った。
「おそらく我々がこの調査結果を発表したら太陽系中が大騒ぎになる!『大戦』を経てすっかり数が少なくなった、宇宙開拓時代の貴重な痕跡だからな!
また出版社から本を書く依頼が来るぞぉ!印税で大金ががっぽがっぽだ!
キミ、本は読むかね?特別にサイン本をあげよう!」
博士が傍らに積み上げられてる書籍の山からぶ厚い本を引っ張り出す。
テーブルの上に次々並べられる本は、全部博士のドヤ顔がアップで表紙になっていた。
「え~っと、これがイスタデールの遺跡を調査した時の本、これが小惑星カルファズで謎のピラミッドを調べた時の本、こっちは金星で見つかったミステリーサークルの調査本・・・。」
「・・・いえ、結構です。」
テオヴァルトは丁重に、断固として断った。
しかし、ナムは1冊手に取った。
少しめくって見た後バックパックに無理矢理押し込み、ロドリゲス博士に笑い掛ける。
「スゲェっすね!発掘したものとか、見せてもらってもいいっすか?」
「おお、興味あるのか?そーかそーか♪
そいじゃ、詳しい者に説明させよう。・・・ジュリオ!」
博士が振り返り、大声で「助手」を読んだ。
ジュリオと呼ばれた青年が、物干しロープに吊してあったパンツをたたむ手を止める。
歳はビオラと同じくらい。くせの強い黒髪で、目の形どころか色までよくわからないようなぶ厚い眼鏡を掛けている。
彼は緩慢な動きで博士の方へ振り向くと、ノソノソ歩み寄ってきた。
「こんな見た目でも頼りになる助手でな。こいつがいないと発掘調査も立ちゆかないんだ。
ジュリオ、この遺跡での我々の成果を彼らに見せてやってくれ!」
自慢したくて仕方がない。そんなノリの博士とは対照的に、助手のジュリオは表情を曇らせた。
「それは・・・お止めになった方が、よろしいかと・・・。」
「なんで?いいじゃないか、見せるくらい。減るモンじゃないだろう?」
「いえ・・・今のところ・・・大した物は見つかってませんし・・・。
いろいろと・・・問題が・・・。」
陰気な話し方をする男である。聞き取りにくいし、妙に神経を逆撫でる。
苛立ったビオラが口を挟んだ。
「問題はあるでしょうね。博士、ここは地球連邦政府軍監視下の密林ですよ?
人の立入りは厳禁のはずだわ、どうして遺跡の発掘なんて許されてるんです?」
「うっ!?」
ロドリゲス博士の顔色が変った。
この男、どうやらあまり深く考えずに物事を決めてしまう性格らしい。
地球連邦政府軍が公に許可を出したとは思えない。
今の博士の顔色でわかる。この発掘調査隊は「裏口」から密林に入ったのだ。
となると、誰が「裏口」の鍵を持っていたか、という話になる。博士に『遺跡』の話を持ちかけたのもそいつだろう。発掘調査の本を書いて印税儲ける事しか頭になかった博士は、喜び勇んで「裏口」を通過した。それで、今ここに居る。
ジュリオはその辺りの深い事情に触れてもらいたくないようだ。この豪快な博士よりも、まだ若い助手の方が思慮深くて用心深い。
「がはははは!そうだった、まだ大した物は見つかってないんだったな!
すまんなジュリオ、うっかりしとったわい!」
わざとらしく、博士が笑った。
はぐらかそうとしてるのが見え見えだ。目は笑ってないし顔中汗だく、貧乏揺すりまで始まった。
しかしどうもこの愉快な男、本当に「博士」なのかも疑わしい。思考が浅はかなだけでなく、無意識に爆弾落とすタイプのようだ。
ビオラの質問に焦った彼は、さらに「深い事情」を暴露する。
「発掘品は見せられんがな、代わりにコレを見せてやろう!
どうだ、美しいだろう?
この辺りで取れる 水晶 だぞぉ!」
博士が上着のポケットから掴み出した物に、ジュリオが頭を抱えて項垂れる。
ナムは全身が総毛立つ嫌悪に必死で耐えた。
博士の手の中でキラキラ輝く六角柱の、忌まわしいほど透き通った鉱物。
・・・MPクリスタルだ!!!




