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ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
貴方に最後の愛情を
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乙女に制裁 ケツビンタ!?

ネーロの小型航空機は大きく傾き大空を旋回した。

飛び降りた衝撃で着地点の外甲は凹み、速度も急激に落ちた。何とか高度を保とうとしているのだろう。機首が心持ち上を向いた。

リュイは垂直尾翼にもたれて体を支え、肩に担いだ銃器を構えた。

口径7.62mm6砲身回転式多銃身機関銃。ベアトリーチェが振り回す重機関銃よりは小ぶりだが、破壊力を重視した改造銃である。


『待て待て待て!何する気だ?!』


耳に装着するタイプの通信機から男ががなる声がした。

顔をしかめ、苛立たしげに上を見上げる。

小型航空機の真上、より太陽に近い高みを銀の機体が旋回していた。

『ここは火星じゃないんだぞ!?俺の自家用機が撃墜された時とは状況が違うだろう!

下には市街地があるんだ、そんなモンが墜落したら大惨事になるぞ!!!』

声の主は幾分砕けた物言いになっている。数時間前の丁寧な言い回しとは打って変わって乱暴だが、それだけ慌てているのだろう。

リュイはすぃ、と首を巡らせ下を指した。

空を迷走するネーロの小型航空機は、いつの間にかトーキョーの都市圏を抜けていた。

真下に広がるのは、海。波に乱反射する太陽光が目に眩しい。

今の動作がスコープで確認できたらしい。声の主が狼狽えた。

『いや、そりゃ、海上なら被害は少ないが・・・冗談じゃないぞ!

何考えてるんだ!?ここから飛び降りて無事なのにも驚かされたが、普通は死ぬぞ?!クレイジーだ!!!』

「そう思うんだったら俺を 飼おう としてんじゃねぇ!」

通信機から伸びるマイクに、リュイは不機嫌そうに言い捨てた。

「『共闘』は、しない。二度と俺の前に現れるな!」

『!? 待ってくれ、ミスター・リュイ!我々は決してキミを『飼う』などとは・・・!』

興味の持てない戯れ言を聞く優しさは持ち合わせていない。声の主が喚き続ける通信機を外し、指で弾いて投げ捨てた。

改めて構える物騒な銃器が狙うのは、真下。今、足を踏みしめているネーロ小型航空機の外甲である。

「超」が付くほど至近距離。

1秒間に約60発をぶち込む多銃砲。

重力も風圧も、装甲車の外甲ぶち抜く機関銃の反動すらマル無視できる、完璧(パーフェクト)な狙撃者。

結果は、まさにクレイジーだった。

真っ青な空に高らかに鳴り渡った轟音は同時に派手な爆音を奏で、太平洋と呼ばれる大海に盛大な水柱を出現させた。




医療廃棄物倉庫脇の雑木林の中。

騒々しい蝉の声に混じってジェットエンジンの音がする。木々の生い茂る枝葉の合間から銀の小型航空機が空の彼方へ飛び去って行くのが見えた。

アレはどう見ても地球連邦政府軍ステルス機だ。平和なトーキョーの空にお目見えするなど滅多にない軍用機である。

「撤収。」

そのステルス機の背から飛び降りてきた男が言った。

機関銃は途中で捨ててきたらしい。代わりに持ってた物を呆然と佇むナムに投げつけ、平然と目の前を通り過ぎる。

ゴミでも捨てるように渡されたのは、奪われたはずのショルダーバッグ。

中を覗くとダミアンの殺人細菌入装置が1つ残らず入っていた。機関銃乱射&爆破炎上&太平洋墜落の憂き目に遭ったネーロの小型航空機から奪還してきたとは、現物が手中にあってなお信じがたい。

今朝「DEAREST」で買ったばかりのショルダーバッグは所々焼け焦げ海水を浴びてヨレヨレだ。見る影もなく変わり果てたバッグの姿に恐怖も畏怖もすっ飛んだ。

ずぶ濡れのバッグを眺め、ナムは乾いた声で失笑した。


ナムと同じくポカンと立ち尽くしていたモカにも何かがポイッと投げつけられた。

モカのベージュのキャスケット。「DEAREST」で着替えた時にショルダーバッグに入れていた物だ。無残なバッグ本体と違い、少しも濡れていなかった。

唖然としていたモカがハッと気付いた。

急いでクシャクシャに丸められてる帽子を広げる。手のひらの上にコロン、と転がり出た物に、モカの顔が輝いた。

ブルー・スピネルのカレッジ・リング。

キャスケットと一緒にバッグに入れた、モカの「お守り」である。

「ありがとうございます、局長!」

大事な指輪を握りしめ、モカは立ち去ろうとするリュイの背中にお礼を言った。

リュイがピタリと立ち止まる。

彼は踵を返し、嬉しそうに微笑むモカの傍らまでツカツカと戻ってきた。

そしてナムが見ている目の前で、いきなりモカの細腰をかき抱いた!


スパーーーーーン!!!


雑木林中の蝉が鳴くのを止めて一斉に夏の空へと逃げ出した。

「制裁。」

リュイはモカの腰を開放した。

「てめぇにゃ、常に臨戦できる服装でいろと教えてある。

マフィアの屑どもなんぞに容易く()()()んじゃねぇ、馬鹿野郎!」

モカがその場にくずおれた。突然喰らった「制裁」に声も出せずに蹲る。

ヘリポートでの修羅場をどこかで見られていたようだ。この男には油断も隙もあったモノじゃない。

口元に意地悪げな微笑を浮かべ、苦痛に耐えるモカを見下ろすリュイに、ナムは超絶に激怒した!

まさか、まさかの ケ ツ ビ ン タ !!?

見事な音を奏で響かす強烈な平手打ちだった。


「何してくれとんじゃゴルアァーーーっっっ!!!?」

「制裁だっつったろが。」

「制裁だぁ?!っざけんなてめぇ!!!

女の子のおしりだぞ?!マルギーの言うところの『大臀筋』にビンタかますたぁどういうつもりだ、お"ぉ"?!!」

「知るか、ボケ!」

「モカは俺のカノジョだぞ?!

てめぇが上官だろーが親代わりだろーが、触っていいのは俺だけだろーがよ!

それを当たり前のよーにいい音させてくれやがって、何様のつもりだこの助平野郎!!!」

「・・・てめぇにゃコレをくれてやンよ、クソガキ!!!」


ゴンッッッ!!!


殺人細菌入のバッグを両手で抱えていたせいか、狙われたのは足の脛。

「弁慶のナキドコロ」に入ったローキックに、ナムはあえなく撃沈した。

「減俸。」

情け容赦なくリュイが言う。

「ここへの遅参と上官への暴言に対してだ。

暗殺はてめぇなんぞにできるワケねぇから大目に見てやる。・・・撤収!」

悶絶するナム達にはもう一瞥もくれてやらず、リュイはその場を立ち去った。

蝉がいなくなった林の異様な静けさの中で、ナムは決意を改めた。


(あの野郎、いつか絶対、ぶん殴ってやる・・・!!!)


果たして、これで何度目の「決意」だろう?

今、腕に抱えている、ここになかったはずのショルダーバッグ。その重みがヤツの強さを物語る。

決意が実現する日は来るのは、まだまだ先になりそうだ。

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