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ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
ルーキー来襲!嵐を呼ぶファーストミッション
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唐揚げとツンデレ娘と暴君と

事件は夕飯時におきた。

本日のメニューは唐揚げとポテトサラダ、エスニック風の野菜炒めにブロッコリーのポタージュスープ。(唐揚げ以外のご要望は却下されたらしい。)

バカでかい大皿に唐揚げや野菜炒めが山のように積まれてテーブルの真ん中に置かれ、ポテトサラダは洗面器のような大鉢にてんこ盛り。

スープは寸胴鍋のまま「欲しけりゃ勝手に注げや」の状態だし、取分け皿は小皿だったり茶碗だったりドンブリだったり。

その周りを、フォーク片手に目を血走らせて取り囲むチームのオッサン&育ち盛りの男子達。

基地内にある無駄に広い食堂は、これから食事が始まるとは思えない一触即発の緊張感で漲っていた。


食事中は戦場にいると思え、とはいってあるが、最初くらいは面倒見てやるか、とナムはルーキー達の様子を伺った。

「やったぁ!飯だ!!」

コンポンが目を輝かせて喜んだ。貧民街で逞しく生きてきただけあって、この少年はなかなかいい根性しているようだ。

「何これ、メチャクチャだわ!・・・美味しそうだけど。」

シンディが雑な配膳に眉を潜めつつ、さっきから鳴り続けるお腹を押さえた。この娘も心配ないだろう。

「僕、ちゃんと取分けて貰わないと、食べれません・・・。」

フェイがぽつりとつぶやいた。やっぱり、こいつが一番弱っちそうだ。

ベソかいて俯くフェイにの肩に、そっと手が掛かった。

「大丈夫よ、心配しないで。こんなのすぐ慣れちゃうからね。」

ビオラが優しく微笑む。

普段のビオラはとても優しい。モカやロディといった目下の弟妹分の面倒はよく見るし、ナムもよく相談にのってもらっている。

こうして子供に暖かい眼差しを向ける彼女は聖母のように清らかで美しい。男と金にがめついとこさえなければ、いい女なんだが。

呆けた表情でマドンナ・スマイルを眺めていたフェイが、いきなり肩に置かれたビオラの手を取った。

「結婚してください!」

「・・・は?」

「貴方の美しい微笑みが暗く荒んだ僕の人生を、今清らかな光で照らしてくれました!

火星の荒野に降り立った美の天使よ、愛してます!!」

ビオラの笑顔がひきつった。

その後もフェイは基地内の女性ほぼ全員を口説きまくり。

ビオラの横で呆れていたカルメンは「気高い美貌の淑女」。

シャワーを使って髪にタオルを当てながら食堂に入ってきたサマンサは「海の泡から生まれ出たビーナス」。

ダンナのが飲むビールを樽のまま担いでキッチンから現れたリーチェは「才色兼備の慈愛の女神」。

聞いている方が恥ずかしくなるような殺し文句のオンパレード。

なるほど、こいつはこういう性格か。じゃ、心配いらねーな。

ナムは目の前の唐揚げに集中する事にした。


「よっしゃ、全員揃ったな?待ったなしだ、レッツ・ファイ!!」

ここでは食前の挨拶が「いただきます」ではないようだ。

フリル満載のエプロン姿のベアトリーチェのかけ声で、食堂はナムが言ったとおりに戦場となった。

リーチェの唐揚げは表面はカリカリ、中は熱々ジューシーで最高にうまい。大皿に積まれた唐揚げ目がけ四方八方からフォークの切っ先が乱れ飛ぶ。

いざ戦いが始まると、コンポン、フェイはなかなかの奮闘ぶりを見せた。飢えたオヤジ達の隙をついて猛然と切り込み次々とエモノを奪い取る。

マックスは樽のビールをそのままラッパ飲みだし、唐揚げにレモン汁を掛けようとしたビオラにタルタルソース派のカルメンが意義を唱え、口論している間にサマンサが抹茶ソルトを大量投入。

戦場に兄弟の義理はない、ロディがナムを踏み台にして一番大きな唐揚げをGet、それを巡って取っ組み合いになりリーチェが拳で制裁する。

食器やフォークがガチャガチャとけたたましく音を立て、唐揚げをめぐる攻防で怒号が飛び交い、その騒音に酔いが回ったマックスの高笑いが共鳴する。


「うるさ~~~~~~~~~~いっっっ!!!」


ソプラノボイスの絶叫に、メンバー達の唐揚げ突き刺したフォークが空中で固まった。

何事!?と振り向くと、シンディがまだきれいなフォークを握りしめて、ワナワナ震えいた。

シンディは「とても我慢できないわ!」と言わんばかりに目をつり上げ、怒りの形相で喚き出す。

「何なのよ、この様は!?これが人が食事している有様なんですか!?

信じらんない、サイテーよ!!喧しいし、意地汚いし、行儀が悪いにもほどがあるわ!!

・・・特に、あなた!!!」

ツインテールを振り乱して、ビシッと隅のテーブルに指を突きつける。

「あなたが一番、行儀悪いわ!!」

怒れる少女が「あなた」と呼んだ男・リュイの行儀は確か最悪だった。

テーブルの上に両足を投げ出してふんぞり返り、分厚い本を読みながら、彼のためにあらかじめ個別の皿に取分けてあった料理を片手で黙々と食べている。

その横ではゴブレットと水のサーバーを持って控えていたモカが、シンディの気迫に押されて固まっていた。

「何様なんですか!?

いいオトナのくせに、そんな態度で女の子に給仕させてふんぞり返って!!」

「何様って、ここの局長様だぞ?」

テオヴァルトが口の中の唐揚げを飲み込んで答える。

「リグナム、お前ちゃんと教えてないのか?」

シンディの怒りは収まらない。むしろ、「局長」と聞いてますます激しくいきり立った。

「ここのえらい人だったら、こんな状況ほっとく方がおかしいわ!ちゃんと注意して正すべきでしょ!?

なのに自分は関係ないって顔して、そんなの変よ!!

私がいた養護院じゃ、ちゃんとマナーとかお行儀を教えてくれたわ!とても厳しかったんだから・・・。」

シンディは急に言葉を失った。

目の前で本のページをめくっていたリュイの手が高く上がるのを見たのだ。

「っ!!?」

カルメンとビオラが椅子を蹴って立ち上がる。ロディがは息を飲のみ身を縮こませて目を背けた。

容赦無い一振りが、少女に向かって振り下ろされた。


ガシッッッ!!!


強烈な打撃音にシンディの短い悲鳴が重なる。

リュイの冷たい目が動き、これまで一瞥も与えなかった標的に目線が向いた。

怒りに燃えた緑の瞳が真っ直ぐにそれを受け、はじき返す。

振り下ろされたリュイの腕は、シンディを胸に庇ったナムの右腕に受け止められていた。


機械兵の装甲をぶち抜く男の強打を受けた腕が軋み、猛烈に痛い。ナムは歯を食いしばった。

「・・・こんなガキにまで手ぇあげてんじゃねぇよ!!」

やっとの思いで絞り出した抗議の一言は黙殺され、あっという間に腕を返される。

掴まれた腕を乱暴にねじり上げられ、そのまま食堂の壁に叩きつけられた。

シンディを抱えて受け身が取れず、むき出しのコンクリート壁に肩から激突したナムは床に崩れ蹲った。

激痛に呻くナムを冷ややかに見下ろし、マックスがビール樽を床に置いて席を立つ。

そしてシンディと、驚いて硬直しているフェイ、コンポンに厳しい口調で言い聞かせた。

「一番肝心なことを聞かされてないようだ。

ここじゃ『局長』が絶対だ。局長のする事につべこべ抜言うヤツ、局長の言う事に従えねぇヤツは、ガキだろうと女だろうとこうなるってのを覚えとけ!

・・・リグナム、お前、なんで教えとかなかった!?」

怯えるシンディを抱いたまま、ナムは身体を起こして睨んだ。

マックスではなく、リュイを。

「・・・俺が納得してねぇからだよ!!!」

しかしリュイはもうナム達の方を見てもいなかった。

「コーヒー入れろ。」

読んでいた本をテーブルに置いて立ち上がると、固まっているモカに一言命じて食堂を後にする。

モカが慌てて本と食べかけの料理皿を持って後を追う。

それを見送った一同は、気まずい思いを抱えて食事を再開した。

シンディの言う「行儀良く」にはほど遠いものの、今度は少しだけ静かな食事風景となった。

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